報酬は行動を買えるが、「好きだからやる」気持ちを上書きしてしまうことがある。効かせたいなら出し方に注意。

1971年、心理学者エドワード・デシは大学生を集めて、ソマキューブという立体パズルを解いてもらう実験をしました。このパズル、単純に面白いので、放っておいても学生は勝手に遊びます。デシが知りたかったのは、そこにお金を出すと何が起きるかでした。

実験は3回のセッションに分かれます。途中のセッションだけ、片方のグループに「1問解けるごとに1ドル」の報酬を出しました。もう片方は最後まで無報酬です。注目したのは、実験の合間の自由時間。誰にも指示されていない時間に、どれだけ自発的にパズルを触るかです。

結果は逆説的でした。一度お金をもらったグループは、報酬が打ち切られた後、自由時間にパズルで遊ぶ時間が減ったのです。無報酬のグループは変わらず遊び続けました。

「楽しみ」が「労働」に書き換わる

この現象はアンダーマイニング効果と呼ばれます。undermine=土台を掘り崩す。報酬が、内側から湧いていたやる気(内発的動機づけ)の土台を崩してしまう、という意味です。

説明はこうです。人は自分の行動に理由づけをします。報酬をもらう前は「面白いからやっている」。もらった後は「お金のためにやっている」に理由が置き換わる。すると報酬が消えた瞬間、やる理由も一緒に消えてしまう。楽しみだったものが、いつの間にか未払いの労働に見えてくるわけです。子どもの好きなお絵かきにご褒美を約束すると自由時間に描かなくなる、という後続の実験(レッパーら、1973年)でも同じ構図が確認されています。

報酬が悪いのではなく、出し方の問題

誤解しないでほしいのは、報酬そのものが悪ではないことです。もともと好きでも何でもない作業なら、報酬は素直に効きます。問題になるのは、すでに好きでやっていることに、成果と引き換えの金銭を後づけするケースです。

一方で、金銭ではなく「うまくなったね」という承認や具体的なフィードバックは、内発的なやる気を削ぎにくい(むしろ高める)とされています。趣味に打ち込む家族へのいちばんの応援が、報酬ではなく感想なのは、理にかなっているようです。

参考にした資料

  • Deci, E. L. (1971) "Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation" Journal of Personality and Social Psychology
  • Lepper, M. R., Greene, D. & Nisbett, R. E. (1973) 幼児のお絵かきと予告された報酬の実験
  • アンダーマイニング効果・エンハンシング効果に関する日本語解説