1日の終わりに「良かったこと」を3つ、理由と一緒に書く。2005年の実験では、それを1週間やっただけで半年後まで幸福感が高いままでした。ただしその後の追試では、子どものころの楽しい思い出を書くだけのグループも、同じくらい元気になっています。

今日あった良かったことを3つ、と言われたら、すぐに出てくるでしょうか。昼ごはんがおいしかった、電車で座れた、くらいまでは出ても、3つ目で少し手が止まる人は多いと思います。その「少し考える」時間に意味がある、というのが、ポジティブ心理学でいちばん有名な宿題「スリー・グッド・シングス」の発想です。

1週間だけの宿題を、半年追いかけた

広めたのはマーティン・セリグマンです。若いころに犬の実験で学習性無力感を報告した人で、1998年にアメリカ心理学会の会長になると、「人を落ち込ませる条件」だけでなく「人が元気でいられる条件」も研究しようと旗を振りました。

2005年、セリグマンらは『American Psychologist』に、そのための課題を本気で試した実験を載せます。参加者は、彼の著書『Authentic Happiness』の公式サイトに来た人から約1か月で集めた577人。課題そのものに謝礼はなく、追跡調査に最後まで答えた人が入れる抽選(500ドルが1本、100ドルが3本)があるだけでした。

参加者は6種類の課題のどれかに無作為に振り分けられます。スリー・グッド・シングスは「毎晩、その日うまくいったことを3つと、それが起きた理由を書く」を1週間。ほかに、お世話になったのにきちんとお礼を言えていない人へ手紙を書き、直接届ける「感謝の訪問」や、自分の強みを新しいやり方で使う課題などが並びました。偽薬にあたる比較用の課題は「毎晩、子どものころの記憶を書く」です。

幸福感とうつ症状は、課題の直後から1週間後、1か月後、3か月後、6か月後まで質問票で測られ、最後まで答えたのは411人でした。

いちばん効いた課題が、いちばん早く消えた

まず、課題を終えた直後は、偽薬のグループも含めて全員が少し元気になっています。「幸せになるための課題をやった」というだけで気分は上がるわけです。偽薬のグループは、1週間後にはもう元の水準に戻っていました。

いちばん大きな変化が出たのは感謝の訪問です。ところがその効果は1か月後までで、3か月後には元どおりになりました。反対にスリー・グッド・シングスは、1か月後の時点で幸福感が上がり、うつ症状が下がっていることがはっきりし、それが3か月後、6か月後まで続きました。

指示されたのは1週間だけです。なぜ長持ちしたのかを調べると、言われなくても自分で続けていた人ほど、効果が大きいことがわかりました。手紙は一度届ければ終わりですが、3行の日記はひとりで続けられます。その差だったのかもしれません。

感謝を書き出す研究自体は、これより前からあります。2003年にロバート・エモンズとマイケル・マカラーは、大学生192人に10週間、週1回「感謝していること」を5つまで書いてもらいました。答えには「今朝、目が覚めたこと」「友だちの気前のよさ」に混じって「ローリング・ストーンズ」もあったそうです。このグループは、面倒ごとや単なる出来事を書いたグループより人生を前向きに評価し、体の不調の訴えも少なめでした。運動の時間は、面倒ごとを書いたグループより週に1.5時間近く長かったと報告されています。

追試では「楽しい思い出」と互角だった

2012年、カナダのミリアム・モングレインらが同じ手順で追試を行い、比較用の課題をもうひとつ足しました。子どものころの楽しかった思い出を書く、いわば前向きな偽薬です。スリー・グッド・シングスで幸福感が長く上がるところは再現できましたが、楽しい思い出を書いただけのグループも同じように上がりました。うつ症状のほうは、比較用の課題を上回る効果が見られませんでした。

2017年には、オーストラリアのロザリンド・ウッドワースらが、セリグマンらと同じ課題で約300人を追いかけています。今度は、どの課題も偽薬も、そろって幸福感が上がり、うつ症状が下がりました。課題どうしの差は統計的に区別できなかったそうです。2016年にドン・デイヴィスらがまとめたメタ分析でも、感謝の課題は「何もしない」グループと比べれば心の健康がいくらか良くなる一方、別の前向きな活動をするグループと比べると差はほぼゼロでした。

効いているのは「感謝」という中身より、良いことに目を向ける時間そのものなのかもしれません。書き方にこだわらなくていい、ということでもあります。

回数にも注意が要ります。ソニア・リュボミアスキーらが2005年の論文で紹介した6週間の実験では、良かったことを週1回書いた人は幸福感が上がったのに、週3回書いた人には変化が見られませんでした。義務になると、ありがたみが目減りするのでしょう。

試すなら、気が向いた夜に、コーヒーがおいしかった程度のことを、なぜそうだったかと一緒に書く。書けない夜があっても気にしない。今の研究から言えるのは、そのくらいの付き合い方です。気分の落ち込みが長く続くときは、日記でどうにかしようとせず、医師やカウンセラーなどの専門家に相談してください。

参考にした資料

  • Seligman, M. E. P., Steen, T. A., Park, N. & Peterson, C. (2005). Positive Psychology Progress: Empirical Validation of Interventions. American Psychologist, 60(5), 410–421.
  • Emmons, R. A. & McCullough, M. E. (2003). Counting Blessings Versus Burdens: An Experimental Investigation of Gratitude and Subjective Well-Being in Daily Life. Journal of Personality and Social Psychology, 84(2), 377–389.
  • Mongrain, M. & Anselmo-Matthews, T. (2012). Do Positive Psychology Exercises Work? A Replication of Seligman et al. (2005). Journal of Clinical Psychology, 68(4), 382–389.
  • Woodworth, R. J., O'Brien-Malone, A., Diamond, M. R. & Schüz, B. (2017). Web-Based Positive Psychology Interventions: A Reexamination of Effectiveness. Journal of Clinical Psychology, 73(3), 218–232.
  • Davis, D. E., Choe, E., Meyers, J. ほか (2016). Thankful for the Little Things: A Meta-Analysis of Gratitude Interventions. Journal of Counseling Psychology, 63(1), 20–31.
  • Lyubomirsky, S., Sheldon, K. M. & Schkade, D. (2005). Pursuing Happiness: The Architecture of Sustainable Change. Review of General Psychology, 9(2), 111–131.