「内向型の脳は刺激に敏感」という説の根拠のひとつは、舌にレモン汁を4滴たらして唾液の量を測る実験でした。1988年の追試では相関が出たのは午前中だけで、午後は消えています。一方、「外向的にふるまうと内向型は疲れる」ほうは、147人の1週間の実験でかなりはっきり出ました。
飲み会の帰り道、電車の座席に沈み込んで、楽しかったはずなのにやけに削られている——という感覚に、心理学は昔から名前をつけたがってきました。いちばん有名な説明が、ハンス・アイゼンクの覚醒度理論です。内向型はもともと脳の覚醒レベルが高いので、少しの刺激ですぐ満杯になる。外向型は低いので、にぎやかな場に出て刺激を足しにいく。どちらが優れているという話ではなく、最適な刺激量が違うだけ、という筋書きでした。
この説を検証するのに使われた道具が、レモン汁です。
舌に4滴たらして、唾液の重さを量る
1964年、D・W・コーコランは、舌の上にレモン汁を4滴たらして唾液の分泌量を測るという実験を行い、内向型のほうが有意に多く出ることを報告しました。脳の覚醒が高ければ自律神経の反応も強いはずだ、という予測に沿った結果です。
アイゼンク夫妻自身も1967年に同じ手法を試し、内向性の高さと唾液の増加量のあいだにおよそ0.7という強い相関を報告しています。性格という曖昧なものが体液の重さで出てくる——この鮮やかさもあって、「レモンテスト」は今も内向型の話の枕に使われます。
ところが1988年、エディンバラ大学のイアン・ディアリーらが追試をすると、話は少し込み入ってきます。外向性と唾液量の負の相関は、午前中に測った群では確かに出ました(r = -0.74)。午後に測った群では出ませんでした。著者ら自身、この時刻の効果は新しい知見だがサンプルが小さく、もっと大きな集団で確かめる必要があると書いています。
内向型がレモンによだれを出しやすいのは本当かもしれない。ただし「いつ測ったか」で消える程度には、ゆるい現象です。
「配線が違う」の写真は、18人分だった
もう少し直接に脳を見た研究として引かれるのが、1999年にデブラ・ジョンソンらが『American Journal of Psychiatry』に出したPETの研究です。健康な18人(男性10人・女性8人)に目を閉じて静かに横になってもらい、そのあいだの脳血流を測りました。
内向型の傾向が強い人では前頭葉と視床前部——記憶をたどる、計画を立てる、問題を解くといった内向きの処理に関わる領域——の血流が多く、外向型では前部帯状回や側頭葉、視床後部といった、聞く・見るなど外からの情報を扱う側の血流が多かった。ここから「内向型と外向型では脳の使う回路が違う」という言い方が広まりました。
ただ、18人です。安静時の血流には体調も時間帯も効きますし、この規模で描かれた地図をそのまま自分に当てはめるのは無理があります。
覚醒度理論そのものの評価も、決着はついていません。1999年にジェラルド・マシューズとブレンダン・ギリランドがアイゼンクとグレイの理論を突き合わせて総括したときの結論は、生理指標による検証の結果は「まちまちで、実験パラダイムごとに違う」というものでした。脳波のアルファ波で内向型と外向型を分ける試みも、一貫しません。
一方で、2009年にディルク・ハーゲマンらが、脳波を一度きりでなく複数回測り、頭蓋骨の厚みをMRIで補正したうえで解析すると、アイゼンクの予測を支持する結果が出たと報告しています。測り方を丁寧にすると見えてくる程度の差、ということなのでしょう。
疲れるかどうかは、けっこうはっきり出る
脳の配線図が曖昧なわりに、体感のほうは実験でよく再現されています。
2012年、ジョン・ゼレンスキーらは、参加者に短時間だけ外向的にふるまってもらう実験をしました。結果は少し意外で、外向的にふるまうと気分は上向き、その効果は内向型でも外向型でも同じくらい。短い時間では、内向型に情緒的なコストも認知的なコストも見当たりませんでした。
期間を延ばすと、別の面が出ます。2019年、ロワン・ジャック゠ハミルトンらは147人を「1週間ずっと外向的にふるまう」群と対照群に無作為に割りつけました。全体としては、確かにポジティブな感情も「自分らしくいられている」感覚も増えています。ただし内向性が高い人ほど、気分の上がり幅は小さく、ネガティブな感情と疲労感が増え、自分らしさの感覚は下がっていました。
レイカスとイルマリネンが2017年に報告した、日常を細かく記録する研究でも、外向的にふるまった2〜3時間後に疲れが出るというパターンが見えています。しかもこれは内向型に限った話ではありません。人づきあいは、誰にとっても後から効いてきます。
つまり、「ひとりの時間は充電」という比喩のうち、充電池のたとえ——脳のバッテリーが物理的に減って回復する——は、まだ実験でそのまま確かめられたものではありません。確かめられているのは、外向的にふるまった数時間後に疲れが来ること、そしてその代償が内向的な人ほど大きく出やすいことのほうです。
比喩の当否はさておき、休む理由としてはこれで十分な気がします。人と会うのが嫌いなのではなく、会ったあとに時間がいる。少なくともそれは、気のせいではなさそうです。
参考にした資料
- Corcoran, D. W. J. (1964) "The relation between introversion and salivation" American Journal of Psychology
- Eysenck, S. B. G., & Eysenck, H. J. (1967) "Salivary response to lemon juice as a measure of introversion" Perceptual and Motor Skills, 24, 1047–1053
- Eysenck, H. J. (1967) The Biological Basis of Personality
- Deary, I. J., Ramsay, H., Wilson, J. A., & Riad, M. (1988) "Stimulated salivation: Correlations with personality and time of day effects" Personality and Individual Differences
- Johnson, D. L., et al. (1999) "Cerebral blood flow and personality: A positron emission tomography study" American Journal of Psychiatry, 156(2), 252–257
- Matthews, G., & Gilliland, K. (1999) "The personality theories of H. J. Eysenck and J. A. Gray: A comparative review" Personality and Individual Differences
- Hagemann, D., Hewig, J., Walter, C., Schankin, A., Danner, D., & Naumann, E. (2009) "Positive evidence for Eysenck's arousal hypothesis: A combined EEG and MRI study with multiple measurement occasions" Personality and Individual Differences, 47, 717–721
- Zelenski, J. M., Santoro, M. S., & Whelan, D. C. (2012) "Would introverts be better off if they acted more like extraverts?" Emotion
- Jacques-Hamilton, R., Sun, J., & Smillie, L. D. (2019) "Costs and benefits of acting extraverted: A randomized controlled trial" Journal of Experimental Psychology: General, 148(9), 1538–1556
- Leikas, S., & Ilmarinen, V.-J. (2017) "Happy now, tired later? Extraverted and conscientious behavior are related to immediate mood gains, but to later fatigue" Journal of Personality
- University of Iowa ニュースリリース(1999年、PET研究の解説)