SNSを見たあとの気分を1日6回、1週間ぶん記録したオランダの研究があります。悪くなったのは10%、よくなったのが46%、変わらなかったのが44%。疲れる人と疲れない人を分けていたのは、開いていた時間ではなく、見ている最中に羨望が湧いたかどうかでした。
ジャガイモ。
2019年、オックスフォード大学のエイミー・オーベンとアンドリュー・プシビルスキーが英米の35万人分のデータを調べたところ、10代の幸福感のばらつきのうちデジタル機器の利用時間で説明できるのは、多く見積もって0.4%でした。ジャガイモを定期的に食べることとほぼ同じ大きさで、眼鏡をかけていることのほうがまだ強く効いていました。
平均するとその程度です。ただ、閉じたあとに疲れが残る感覚にも身に覚えがある。この二つを両立させる説明を探すと、話は1954年に戻ります。
比べる相手は、遠くの人ではない
社会的比較という考え方を組み立てたのは、レオン・フェスティンガーです。1954年に『Human Relations』誌へ載せた論文で、彼は仮説を9つ立てて番号を振りました。出発点は素朴です。人は自分の能力を正しく知りたい。ところが「話が面白いか」を測る物差しは世の中に無い。体重計にあたるものが無いとき、人は代わりに他人を物差しにする——ここまでが最初の二つです。
見落とされがちなのはそのあとで、彼は誰でも物差しになるとは書いていません。比較が成立するのは自分と近い相手のときで、隔たりが大きいほど比較の傾向は弱まり、やがて止まる。そう繰り返し書いています。
この条件を思い出すと、よく聞く説明が少しずれます。「SNSには成功者ばかり流れてくるから疲れる」——理論の上では、遠すぎる相手は物差しになりません。年収が二桁違う人の別荘の写真は、たぶんそれほど刺さらない。刺さるのは、同期の昇進報告や、去年まで同じ立場だった知り合いの結婚報告のほうです。フィードは、まさにその「近い他人」を集める装置になっています。
比較が数分で効くことは、1970年のミシガン大学で確かめられています。求人に応募してきた学生が控え室で書類を書いていると、応募者のふりをした協力者が入ってくる。仕立てのいいスーツにブリーフケースの男性か、よれたTシャツに安っぽい小説を持った男性か。書類に混ぜてあった自尊心の尺度の得点は、前者と同席した人では下がり、後者では上がりました。会話も結果の告知もありません(モースとガーゲン、1970年。追試が積み上がっている類の実験ではない点は注意が要ります)。
「上を見ると落ちる」はどれくらい確かか
まとめの数字は最近出ています。2026年5月に『Frontiers in Psychology』へ掲載されたメタ分析で、54の独立標本、のべ36,583人。SNS上の上方比較と心理的な不調との平均相関はr = 0.330で、心理学の指標としては小さくない値です。
- 人からどう見られるかに関わるネガティブ感情: 0.438
- 不安: 0.382
- 抑うつ: 0.306
自尊心の低さ(0.263)や幸福感の低さ(0.268)も同じ向き。年齢でも、西洋か東洋かでも差は出ていません。ただし大半は横断調査で、同じ時点で「よく比較しますか」「気分はどうですか」を一緒に聞いたものです。上を見るから落ち込むのか、落ち込んでいるから上を見るのか、区別がつきません。著者たち自身、因果の向きは断定できないと限界に書いています。
疲れる人は、10人に1人だった
向きを確かめるには、同じ人を時間の中で追うしかありません。それをやったのがアムステルダム大学のグループです。2020年にイネ・バイエンスらが『Scientific Reports』へ出した研究では、10代の参加者に1日6回、1週間その場の気分とSNSの使い方を答えてもらいます。回答は2,155件。ここから一人ひとり別々に、受動的に眺めたあとの気分の動きを推定しました。冒頭の数字がその結果で、全員が同じ方向に押されてはいませんでした。
翌年、同じグループのパティ・ファルケンブルフらが353人の13〜15歳を3週間、一人あたり126回という密度で追います。「受動的に眺めるのは体に悪い」という通説は、20%には当てはまり、80%には当てはまりませんでした。羨望との関連の強さは個人ごとにβ = −.44から+.71まで散らばっており、同じ行動が人によって逆向きに働いていたことになります。
分かれ目は、見ている最中の感情でした。眺めているときに羨望が湧く子は25%が気分の悪化を経験し、湧かない子では13%。逆に楽しさを感じる子は47%が改善を経験し、感じない子では9%。効いていたのは開いていた時間ではなく、開いているあいだに何が起きているかのほうだったと読めます。
どちらも10代が対象で、期間も1〜3週間の研究です。大人にそのまま当てはまるかは分かりません。それでも「SNSは体に悪い」より、扱いやすい形はしています。自分がどちら側かは平均値ではなく自分の記録でしか分からない。特定の相手の投稿を見たあとだけ沈むなら、アプリを消すよりミュートのほうが理屈に合います。
もっとも、落ち込みが何週間も続くようなら、SNSの使い方の問題として片づけないほうがよさそうです。そこから先は専門家に相談する領域だと思います。
参考にした資料
- Festinger, L. (1954). "A Theory of Social Comparison Processes." Human Relations, 7(2), 117–140.
- Morse, S., & Gergen, K. J. (1970). "Social comparison, self-consistency, and the concept of self." Journal of Personality and Social Psychology, 16(1), 148–156.
- Orben, A., & Przybylski, A. K. (2019). "The association between adolescent well-being and digital technology use." Nature Human Behaviour, 3, 173–182.(オックスフォード大学の発表資料「Technology use explains at most 0.4% of adolescent wellbeing」も参照)
- Beyens, I., Pouwels, J. L., van Driel, I. I., Keijsers, L., & Valkenburg, P. M. (2020). "The effect of social media on well-being differs from adolescent to adolescent." Scientific Reports, 10, 10763.
- Valkenburg, P. M., Beyens, I., Pouwels, J. L., van Driel, I. I., & Keijsers, L. (2022). "Social Media Browsing and Adolescent Well-Being: Challenging the 'Passive Social Media Use Hypothesis'." Journal of Computer-Mediated Communication, 27(1), zmab015.
- Lei, Y., Hu, S., Sun, Y., & Zheng, L. (2026). "'Looking up' linked to feeling down: a meta-analysis of online upward social comparison and psychological maladjustment." Frontiers in Psychology.