すでに払ったお金と時間は、どう決めても戻らない。判断材料にしていいのは「これから」の損得だけ。
コンコルドは、パリとニューヨークを約3時間半で結んだ超音速旅客機です。白い機体に、着陸時だけ下を向く長い機首。今見ても未来の乗り物のような姿をしています。
そして商業的には、壮大な失敗でした。英仏共同の開発費は当初の見積もりを大幅に超え、燃費は悪く、騒音問題で飛べる路線も限られる。採算が取れないことは、就航前からかなりはっきりしていたと言われています。それでも計画は止まらず、コンコルドは1976年から2003年まで飛び続けました。
やめられなかった理由のひとつが、「ここまでつぎ込んだのに」です。この構図があまりに象徴的だったため、すでに払った費用に引きずられて撤退できなくなる現象は、コンコルド効果とも呼ばれるようになりました。
払ったお金は、もう判断材料ではない
経済学では、すでに支払って取り戻せない費用をサンクコスト(埋没費用)と呼びます。ポイントは、これからどうするかを決めるとき、サンクコストは本来まったく関係がないということです。続けても、やめても、払った分は戻らない。だったら「これから先の損得」だけで決めるのが合理的です。
ところが人間はそう作られていません。1985年にアークスとブルーマーが行った実験では、スキー旅行を二重に予約してしまった(日程が重なり片方しか行けない)という設定で、多くの人が「楽しそうな安い方」ではなく「高くお金を払った方」を選びました。楽しさではなく、支払額が選択を決めたわけです。
つまらない映画を最後まで観る夜
この仕組みは、金額が小さくても律儀に働きます。
1,800円払った映画がつまらない。でも「もったいないから」最後まで観る——このとき失っているのは、チケット代に加えて残りの90分です。何年も課金したゲームがもう楽しくないのにやめられないのも、しんどい関係を「今まで一緒にいた時間がもったいない」で続けてしまうのも、同じ形をしています。
見分けるための質問はひとつで足ります。「もし今日、ゼロの状態でこれに出会ったら、始めるか?」。答えがノーなら、続ける理由が「過去」しかないということです。過去は取り戻せませんが、これからの時間はまだ選べます。
参考にした資料
- Arkes, H. R. & Blumer, C. (1985) "The psychology of sunk cost" Organizational Behavior and Human Decision Processes
- コンコルドの開発史・退役に関する解説(ja.wikipedia.org「コンコルド」ほか)
- サンクコスト効果に関する行動経済学の解説(日本語)