ダサいTシャツを着て他人のいる部屋に入った15人は、その場の46%が気づくと予想しました。実際に「誰が写っていたか」を答えられたのは23%。ちょうど半分です。ただし、Tシャツを着た側の人数は15人しかいません。

1990年代の半ば、コーネル大学の心理学者トーマス・ギロビッチは、Tシャツを探していました。条件は、着ていると少し恥ずかしいこと。行き着いたのが、歌手バリー・マニロウの顔が21×24センチで刷られた1枚でした。当時の学部生にとっては親世代の歌手で、事前の聞き取りでも、多くの学生がこれを着て人前に出るのは気まずいと答えています。

測ろうとしていたのは、「自分は思っているほど見られていないのではないか」という、実験にしづらい疑いのほうです。

部屋に入って、座る直前に追い出される

まず観察役の学生4〜6人を実験室に集め、入口を向いた側だけに椅子を並べて、アンケートを書かせておきます。5分後、別室に着いた学生に「向こうの部屋に行く前に、このTシャツを着てください」と渡す。マニロウです。15人全員が着ました。

Tシャツ役はノックして部屋に入り、椅子をすすめられ、腰を下ろそうとしたところで実験者が「やっぱり、みんな先に進みすぎているので、少し外で待っていてください」と言います。滞在時間はそれだけ。廊下に出たところで、質問がひとつ投げられます——いまの部屋にいた人のうち、何人があなたのTシャツに誰が写っていたか言えると思いますか。

平均は46%でした。観察役に同じことを尋ねると、「バリー・マニロウ」と正しく答えられたのは23%。ぴったり半分です。

ここは丁寧に見ておきたいところで、23%は「気づいた人の割合」ではありません。観察役が渡されたのは、他の設問に紛れて「あの人のTシャツには誰が写っていましたか」と聞くアンケートです。目には入ったが名前が出てこなかった人は、この23%に入りませんし、そもそも視界に入れていなかった人と区別もされていません。

ギロビッチたちは、この差が「学生は他人の観察力を買いかぶりがち」という一般論から出た可能性も潰しています。同じ場面を再現したビデオを別の30人に見せて同じ質問をすると、見積もりはTシャツ役本人よりはっきり低く出ました。当事者になった瞬間だけ、数字が跳ね上がります。

15分ぼんやり待たせると、予想が51%から37%に下がった

なぜ跳ね上がるのか。著者らの説明は、係留と調整です。人はまず「自分にとってこのTシャツがどれだけ目立つか」を出発点に置き、そこから「他人にはもう少し薄いだろう」と割り引く。ただし割り引き方が足りない。

これを確かめたのが5番目の実験でした。ノースウェスタン大学の30人に同じマニロウのTシャツを着せ、半分はすぐに人のいる部屋へ、残り半分は15分待たせてから同じ部屋へ送ります。待機中は誰にも会わせず、廊下から人声だけが聞こえる部屋で無関係なアンケートを書かせました。

すぐ入った側の予想は51%、15分待った側は37%。シャツに慣れて自分の中での目立ち具合が下がると、他人の目に映る量の見積もりも一緒に下がりました。見ていたのは他人ではなく、自分の感覚のほうだったことになります。

それでも、当てずっぽうではなかった

この実験はしばしば「他人はあなたを見ていない」という励ましの形で紹介されます。ただ、元の論文はもう少し慎重です。

Tシャツ役15人の予想は、その回の観察者が実際に言い当てた人数と相関していました(r=.50)。誰も見ていないのではなく、見られる量の見当自体は合っていて、目盛りが倍にずれている、という形です。

そして、15人です。予想と実際の差の平均は23ポイントでしたが、その95%信頼区間は9ポイントから38ポイントまで開いています。ずれる方向は確かでも、幅はかなり大きい。参加者はアメリカの大学生、場面は実験室での5分足らずでした。

続く実験では、好きな有名人(ボブ・マーリー、ジェリー・サインフェルド、キング牧師から選択)のTシャツでも同じずれが出ました。ただし予想48%に対して実際は8%と、差はさらに開いています。著者ら自身が脚注で、観察役に配ったアンケートが前回より没頭しやすい作りだったせいではないか、と書き添えました。数字がきれいに開きすぎるときは、たいてい手続きのどこかが効いています。

知っておくと、少しは効くらしい

このバイアスには、実用に届いた後日談があります。サビツキーとギロビッチが2003年に報告した実験では、人前で話す前に「緊張は自分が思うほど相手には見えていない」と伝えられた話し手は、話の出来が自己評価でも、聞き手の評価でも良くなりました。知識として渡すだけで、いくらか軽くなるようです。

ただし、これがそのまま強い人見知りや社交不安への対処になるわけではありません。2007年のブラウンとストッパの研究では、スポットライト効果は「評価される場面」で強く出る一方、内心が漏れている気がする「透明性の錯覚」のほうは場面によらず一定で、この二つは別物らしいと報告されています。しんどさが日常を削るところまで来ているなら、雑学ではなく専門家の領分です。

そのうえで、着ていく服を延々迷った日のことを思い出すと、少し気は楽になります。あの日あなたを見ていた人のうち、4人に3人は、何を着ていたか答えられません。

参考にした資料

  • Thomas Gilovich, Victoria Husted Medvec, Kenneth Savitsky (2000)「The Spotlight Effect in Social Judgment: An Egocentric Bias in Estimates of the Salience of One's Own Actions and Appearance」『Journal of Personality and Social Psychology』78巻2号, 211-222
  • Kenneth Savitsky, Thomas Gilovich (2003)「The illusion of transparency and the alleviation of speech anxiety」『Journal of Experimental Social Psychology』39巻, 618-625
  • Emma J. Brown, Lusia Stopa (2007)「The spotlight effect and the illusion of transparency in social anxiety」『Journal of Anxiety Disorders』