並んだものを覚えると、最初と最後は残り、真ん中が抜け落ちます。ただ「最後」の強みは、30秒ほど別のことを考えるだけで消えてしまうことがあります。
1976年、心理学者のヘンリー・ローディガーとロバート・クラウダーは、アメリカの大学生に少し意地の悪いお願いをしました。「歴代の大統領を、思い出せるだけ書いてください」。
結果をグラフにすると、きれいなU字が現れました。ワシントン、アダムズ、ジェファーソンといった最初のほうの大統領はよく書かれ、学生たちが生きてきた時代の直近の大統領もよく書かれる。ところが19世紀なかばのピアースやフィルモアあたりになると、ほとんど名前が出てこない。例外は、真ん中にいながら突き抜けて思い出されたリンカーンくらいでした。
教科書で何度も習ったはずの知識でも、並び方の「どこにいるか」で残りやすさが変わる。この現象は系列位置効果と呼ばれ、実験室ではもっと単純な形で何度も確かめられてきました。
20個の単語でも40個でも、形は同じだった
基本の形を描いたのは、1962年のベネット・マードックです。単語のリストを1語ずつ聞かせ、終わったら順番は気にせず思い出せるだけ書いてもらう。リストの長さは10語から40語まで、1語あたりの提示時間は1秒か2秒で、条件を変えて比べました。
どの条件でも、リストの頭のほうと末尾のほうがよく思い出され、真ん中が低く平らになりました。頭が強いのを「初頭効果」、末尾が強いのを「新近効果」と呼びます。面白いのは、末尾の強みがリストの長さに関係なく、だいたい最後の8語ぶんほどに及んでいたことです。10語でも40語でも、「最後の数個」はほぼ同じように残る。真ん中が長くなるほど、埋もれる単語が増えるだけでした。
30秒の暗算で、「最後」だけが消えた
では、なぜ両端が強いのか。有名な説明は、記憶を短期と長期の2段に分けて考えるものです。
最初のほうの単語は、まだ頭に余裕があるうちに届くので、心の中で何度も繰り返せる。そのぶん長期記憶に入りやすい。最後のほうの単語は、思い出す瞬間にまだ短期記憶に残っているから出てくる。真ん中は、繰り返す余裕もなく、短期記憶からも押し出されてしまう、というわけです。
この説明を支えたのが、1966年のマレー・グランザーとアニタ・カニッツの実験でした。240人に単語リストを覚えてもらい、書き出す前に数を数えさせる「妨害」を入れます。10秒の妨害で末尾の強みは弱まり、30秒ではほぼ消えました。一方で、頭のほうの成績はほとんど変わりません。逆に単語を読み上げる間隔をゆっくりにすると、頭のほうだけが良くなり、末尾は変わりませんでした。片方を動かすと片方だけが変わる。両端は別の仕組みで支えられている、という強い証拠に見えました。
ただし、話はそれほど単純ではない
その後、この「2段の記憶」説明には都合の悪い結果も出てきます。1974年、ロバート・ビョークとウィリアム・ホイッテンは、単語ひとつごとに暗算をはさみ、最後の単語のあとにも20秒の暗算を入れました。短期記憶はとっくに空になっているはずなのに、それでも最後のほうの単語がよく思い出されたのです。
1977年にはアラン・バドリーとグレアム・ヒッチが、ラグビー選手にそのシーズンに戦った相手チームを思い出してもらいました。直近の試合ほどよく覚えていましたが、効いていたのは経過した日数ではなく、その後に何試合こなしたか。数週間、数か月の単位でも「新しいものが残る」形が出るなら、短期記憶だけでは説明しきれません。冒頭の大統領の実験も同じで、半世紀前の大統領が短期記憶に残っているはずはありません。いまは、並びの端が思い出す手がかりとして目立ちやすい、といった別の説明も有力で、決着はついていないと言われています。
もうひとつ、「大事なことは最初か最後に置けばいい」という応用にも注意がいります。ワンドゥ・ブルイン・デ・ブルインが2005年にユーロビジョン・ソング・コンテストとフィギュアスケートの大会を分析したところ、後に出た人ほど点数が高い傾向がありました。ここでは最初に出ても得をしていません。覚えてもらう場面と、順番に評価される場面とでは、並び順の効き方が違うようです。
プレゼンの要点を最初と最後に置くのは、少なくとも損にはならなそうです。ただ、真ん中に置いたものが消えやすいのも事実なので、本当に大事なことは、端に置くより2回言うほうが確実かもしれません。
参考にした資料
- Murdock, B. B. (1962). The serial position effect of free recall. Journal of Experimental Psychology, 64(5), 482–488.
- Glanzer, M., & Cunitz, A. R. (1966). Two storage mechanisms in free recall. Journal of Verbal Learning and Verbal Behavior, 5(4), 351–360.
- Roediger, H. L., & Crowder, R. G. (1976). A serial position effect in recall of United States presidents. Bulletin of the Psychonomic Society, 8(4), 275–278.
- Bjork, R. A., & Whitten, W. B. (1974). Recency-sensitive retrieval processes in long-term free recall. Cognitive Psychology, 6(2), 173–189.
- Baddeley, A. D., & Hitch, G. (1977). Recency re-examined. In S. Dornic (Ed.), Attention and Performance VI. Erlbaum.
- Bruine de Bruin, W. (2005). Save the last dance for me: Unwanted serial position effects in jury evaluations. Acta Psychologica, 118(3), 245–260.
- Simply Psychology「Serial Position Effect」