デジャヴは、景色の「配置」が昔見たどこかと似ているのに、それがどこかを思い出せないときに起きる、という説が有力です。脳が「これは初めてのはず」と食い違いに気づいているサインだ、という見方もあります。
初めて入った店なのに、レジの位置も、窓から差し込む光の角度も、なぜか知っている気がする。次に店員が何を言うかまでわかりそうな気がして、でも実際にはわからない。あの数秒間の奇妙な感覚に、名前がついていることは知っていても、何が起きているのかを説明できる人は多くないはずです。
デジャヴ(déjà vu)はフランス語で「すでに見た」という意味です。心理学者のアラン・ブラウンは2003年、それまでに行われた数十の調査をまとめた総説を『Psychological Bulletin』に発表し、およそ3分の2の人が人生のどこかでデジャヴを経験していると見積もりました。疲れやストレスがあると起きやすく、年齢が上がるにつれて回数は減っていく傾向があるとも報告しています。
ありふれた体験なのに、研究は長く進みませんでした。いつ起きるかわからない数秒の感覚を、実験室で待ち構えるのは難しいからです。
『ザ・シムズ』で作った「デジャヴィル」
これを正面から試したのが、コロラド州立大学のアン・クリアリーです。2012年、クリアリーらは学術誌『Consciousness and Cognition』に、仮想現実を使ってデジャヴを再現した研究を発表しました。
実験に使われたのは、生活シミュレーションゲーム『ザ・シムズ』で作った町です。研究チームは「デジャヴィル(Deja ville)」と名づけた町に、見た目のまったく違う部屋をいくつも用意しました。たとえば水族館の一角と、病院の受付。置いてある物は別物ですが、物の配置だけは同じ格子の上にそろえてあります。
参加者は先にいくつかの場面を見て回り、そのあとで新しい場面を見せられて「前に見た気がするか」「デジャヴを感じるか」を答えます。すると、前に見た場面と配置が同じだった新しい場面で、見覚えの感覚とデジャヴの報告がいちばん多くなりました。参加者は「この部屋は初めてだ」とわかっていながら、同時に「知っている」と感じていたのです。
クリアリーはこれを、場面の配置という全体の形が記憶のどこかと重なっているのに、その元の場面を思い出せないときにデジャヴが起きる、という「ゲシュタルト親近仮説」の裏づけだと考えました。知っている気がする理由そのものは、たしかに頭のどこかにある。ただ、取り出せないのです。
「次がわかる気がする」は当たらない
デジャヴには、先のことがわかるような気がするという、もうひとつの特徴があります。クリアリーは元大学院生のアレクサンダー・クラクストンとともに、この感覚も確かめています。2018年に『Psychological Science』に発表された研究では、参加者に仮想空間の道を一人称で進んでもらい、曲がり角で「次はどちらに曲がるか」を当ててもらいました。
デジャヴを感じたとき、参加者は「次がわかる」と強く感じていました。けれど実際に当たる確率は、当てずっぽうと変わりませんでした。予感は本物の感覚として生まれるのに、中身は伴っていない。デジャヴにまつわる不思議な話の多くは、この「感じ」の強さで説明できるのかもしれません。
一方で、別の角度からデジャヴを見ている研究者もいます。セント・アンドルーズ大学のアキラ・オコナーらは、「ベッド」「枕」「夢」といった眠りに関係する単語を覚えさせ、リストに無かった「眠り」という単語について「リストに出てきたか」と尋ねる方法で、デジャヴに近い感覚を作り出しました。2016年に学会で報告された脳画像の実験では、記憶そのものを担う領域よりも、判断に関わる前頭部の領域が働いていたといいます。オコナーは、デジャヴは偽の記憶ができた状態ではなく、脳が記憶を点検して「何かが食い違っている」と知らせている状態ではないか、と述べています。
ただ、これは学会発表の段階で広く報道された話で、デジャヴの仕組みが決着したわけではありません。ブラウンの総説でも、説明は「2つの処理の一瞬のずれ」「神経の伝わり方の乱れ」「意識していない記憶による親近感」「注意の切り替わり」の大きく4系統に分かれていました。配置の記憶とエラー検出の説は、そのなかで実験の裏づけを得てきた有力な候補、という位置づけです。
なお、側頭葉てんかんの発作の前触れとしてデジャヴが起きることも知られています。たまに感じる程度なら多くの人に共通の体験ですが、頻繁に続く、ほかの症状を伴う、といった場合は、専門家に相談してみてください。
参考にした資料
- Brown, A. S. (2003). A review of the déjà vu experience. Psychological Bulletin, 129(3), 394–413.
- Cleary, A. M., Brown, A. S., Sawyer, B. D., Nomi, J. S., Ajoku, A. C., & Ryals, A. J. (2012). Familiarity from the configuration of objects in 3-dimensional space and its relation to déjà vu: A virtual reality investigation. Consciousness and Cognition, 21(2), 969–975.
- Cleary, A. M., & Claxton, A. B. (2018). Déjà vu: An illusion of prediction. Psychological Science, 29(4), 635–644.
- O'Connor, A. R.ほか「fMRI investigation of experimentally-generated déjà vu」International Conference on Memory(2016年、ブダペスト)での発表
- コロラド州立大学のプレスリリース(2012年5月、2018年3月)
- Scientific American「Similar Scenes Spark Déjà Vu」