禁止されると、禁止されたものの魅力が上がって見えることがあります。人は「選ぶ自由」を取り上げられると、それを取り返そうとするからです。

1970年代半ば、テキサス大学オースティン校の男子トイレに、落書きをやめさせるための貼り紙が掲げられました。仕掛けたのは心理学者のジェームズ・ペネベーカーとデボラ・サンダースです。

貼り紙の文面は2種類ありました。ひとつは「この壁に落書きをしないでください」という控えめなお願い。もうひとつは「いかなる場合も、この壁に書くことを禁じる!」という強い命令です。さらに署名も2通りに分け、「警備主任」と書いたものと「用務員」と書いたものを用意しました。

結果は、貼り紙を作った側にとって皮肉なものでした。強い文面のほうが、控えめな文面のおよそ2倍の落書きを招き、署名が警備主任のほうも、用務員のほうのおよそ2倍の落書きを招いたのです。いちばん効いたのは「用務員からの、控えめなお願い」でした。1976年に発表されたこの研究のタイトルは、そのものずばり「アメリカン・グラフィティ」です。

自由を取り上げられると、取り返したくなる

この結果を説明する理論が、心理学者ジャック・ブレームが1966年に著書『A Theory of Psychological Reactance』で示した「心理的リアクタンス」です。

ブレームの考えはシンプルです。人は「自分はこれを選べる」と思っている自由があり、それが脅かされたり奪われたりすると、不快な緊張状態が生まれる。そしてその状態は、奪われた自由を取り戻す方向へ人を動かす。具体的には、禁止された行動をあえてやる、禁止された物をより魅力的に感じる、禁止してきた相手に反発する、といった形で表れます。

トイレの実験に当てはめると、「いかなる場合も」という言い回しは、自由を丸ごと取り上げる宣言に聞こえます。しかも権威のある人の署名つき。脅かされた自由が大きいほど、取り返したくなる力も強くなる、というわけです。

禁止された洗剤は、よく落ちる気がする

リアクタンスは、壁に何かを書くような「行動」だけでなく、物の「評価」まで変えてしまうことがあります。

1972年、フロリダ州マイアミを含むデイド郡で、環境汚染の対策としてリン酸塩入りの洗濯洗剤の販売が禁止されました。すると隣の郡まで買いに行く人や、禁止前に大量に買いだめする人が出てきます。

これに目をつけたマーケティング研究者マイケル・メイジスは、禁止されたマイアミの住民と、禁止のなかった同じ州のタンパの住民に、リン酸塩入り洗剤の性能を評価してもらいました。1975年に発表された結果では、マイアミの住民のほうが「汚れがよく落ちる」と高く評価していました。中身は同じ洗剤です。手に入らなくなったことそのものが、評価を押し上げたと考えられています。

「カリギュラ効果」という呼び名と、効き方のむら

日本ではこの現象を「カリギュラ効果」と呼ぶことがよくあります。由来は、ローマ皇帝を描いた1980年公開の映画『カリギュラ』です。過激な描写が問題になり、アメリカではボストンなどで当局に押収されて裁判沙汰になりました(ボストンの裁判所は最終的に「わいせつではない」と判断しています)。その騒ぎがかえって注目を集めた、という話が名前の元になっています。ただ、この呼び名はおもに日本で使われているもので、海外の論文では「リアクタンス」と書くのが普通です。

もうひとつ気をつけたいのは、リアクタンスがいつでも同じ強さで起きるわけではないことです。2005年にジェームズ・ディラードとリジン・シェンは、リアクタンスを「怒り」と「心の中の反論」が絡み合ったものとして測る方法を示しました。測れるようになったことで、反発の強さは人によって、また状況によってかなり違うこともわかってきています。2009年のエヴァ・ヨナスらの研究では、個人主義的な人は自分個人の自由が脅かされたときに強く反発する一方、集団を重んじる人は、自分の属する集団の自由が脅かされたときのほうが反発しやすい、という違いが報告されました。

つまり「禁止すれば必ず逆効果」というほど単純ではありません。法律や校則の多くは、ちゃんと行動を抑えています。逆効果が目立つのは、言い方が強すぎるとき、理由が見えないとき、そして相手が「本来は自分で選べるはずのこと」だと感じているときです。

子どもに「勉強しなさい」と言うほど机から遠ざかる、という家庭の悩みも、同じ見取り図で眺めることができます。トイレの実験から引き出せる教訓があるとすれば、禁止の強さを上げるより、理由を伝えて、選ぶ余地を残すほうが届きやすい、ということかもしれません。いちばん落書きを減らしたのは、肩書きのいちばん低い人からの、いちばん丁寧なお願いだったのですから。

参考にした資料

  • Brehm, J. W. (1966). A Theory of Psychological Reactance. Academic Press.
  • Pennebaker, J. W., & Sanders, D. Y. (1976). American graffiti: Effects of authority and reactance arousal. Personality and Social Psychology Bulletin, 2(3).
  • Mazis, M. B. (1975). Antipollution measures and psychological reactance theory: A field experiment. Journal of Personality and Social Psychology, 31(4).
  • Dillard, J. P., & Shen, L. (2005). On the nature of reactance and its role in persuasive health communication. Communication Monographs, 72(2).
  • Jonas, E., et al. (2009). Culture, self, and the emergence of reactance: Is there a "universal" freedom? Journal of Experimental Social Psychology, 45(5).
  • Steindl, C., et al. (2015). Understanding psychological reactance. Zeitschrift für Psychologie, 223(4).
  • The Harvard Crimson「Professors Testify in 'Caligula' Case」(1980年8月5日)