36枚の青いスライドを2人のサクラが「緑」と言い続けると、残りの人の回答のおよそ8%が「緑」に変わりました。答えがぶれる少数派だと、その数字は1%ほどにとどまりました。

8.42%。この数字を大きいと見るか、小さいと見るかで、この実験の読み方はずいぶん変わります。

社会心理学で「同調」といえば、周りの多数派に個人が引きずられる話が定番です。線の長さを答えるアッシュの実験がその代表でしょう。けれど、フランスで研究していたセルジュ・モスコヴィッシは、その逆を問いました。多数派が一方的に少数派を飲みこむだけなら、新しい考えはどこから広まるのか。地動説も、女性の参政権も、最初は少数の側の主張だったはずです。

青を「緑」と言う2人

1969年、モスコヴィッシは同僚のラージュ、ナフルシューと、色の判断を使った実験を発表しました。

参加者は6人ずつのグループに分けられ、スライドを1枚ずつ見て、その色を声に出して答えます。スライドは全部で36枚。明るさには差をつけてありますが、色はすべて青です。事前に色覚の検査もしてあるので、ふつうに見れば迷う要素はほとんどありません。

ただし6人のうち2人は、実験者と打ち合わせ済みのサクラでした。条件は二つあります。ひとつは、2人が36枚すべてを「緑」と答え続ける条件。もうひとつは、36枚のうち24枚を「緑」、12枚を「青」と答える、ぶれる条件です。

結果はこうでした。サクラのいない対照群では、「緑」という回答は0.25%。ほぼゼロです。これに対し、2人がぶれずに「緑」を言い続けた条件では、本物の参加者の回答の8.42%が「緑」になり、少なくとも1回は「緑」と答えた人が全体の32%いました。一方、ぶれる条件では1.25%まで下がっています。

数字だけ見れば控えめです。アッシュの実験で多数派に合わせた回答がおよそ3分の1だったのに比べると、ずいぶん小さい。それでも、明らかに青いものを見て、4人のうち何人かがときどき「緑」と口にした。しかも差を生んだのは人数ではなく、ぶれるか、ぶれないかでした。

論文ではさらに、実験のあとで一人ずつ青緑の境目にある色の円盤を判定させるテストも行い、ぶれない少数派と一緒だった人たちは、判定が「緑」の側に寄る傾向があったと報告しています。口で合わせただけでなく、ものの見え方の基準まで少し動いたのではないか、というわけです。

同じことを言い続ければいい、わけではない

ここから「少数派はとにかく主張を曲げるな」という教訓を引きたくなりますが、話はもう少し込み入っています。

1974年、チャーラン・ネメスらは同じ青いスライドの課題で、少数派の答え方を変えてみました。いつも「緑」と繰り返すパターンと、明るいスライドには「緑」、暗いスライドには「青緑」と、見ているものに合わせて答えを変えるパターンです。すると、筋の通った答え分けをしたサクラのほうが、自信があり、よく見えている人だと受けとめられ、より多くの「緑」の回答を引き出しました。

つまり効いていたのは、同じ言葉を機械的に繰り返すことではなく、「この人たちは何かをちゃんと見て判断している」と伝わる一貫性だった、ということになります。ネメスはその後、頑固すぎる少数派はかえって「融通のきかない人」と見なされて相手にされにくい、という研究も重ねています。

1994年にはウェンディ・ウッドらが97件の実験をまとめたメタ分析を発表しました。少数派の影響は、人前での回答にはあまり出ず、本人しか見ない回答や、話題が少しずれた間接的な質問のほうに表れやすい。そして、一貫していると受けとめられた少数派ほど影響力が強い。その場では首を縦に振らなくても、あとからじわじわ効いてくる、という姿が見えてきます。

残っている疑問

もっとも、この分野の研究がすべてきれいに積み上がっているわけではありません。

モスコヴィッシは1980年、青いスライドを見たあとに残る「残像」の色を答えさせる実験で、少数派に接した人だけ残像の色がずれた、つまり知覚そのものが変わったと報告しました。ところが同じ年のうちに、ドムスとファン・アフェルマートの追試では多数派に接した人でも同じずれが出ました。1998年にはイギリスのロビン・マーティンが5本の追試を行い、残像のずれは少数派の力というより、実験の手順や参加者の疑いの気持ちから生じた可能性が高いと結論づけています。

1969年の実験自体についても、参加者は172人の女性に限られ、課題は色の名前という、利害のほとんどない判断でした。政治や信念のような、本気で立場を守りたい話題でも同じように働くかは、別に考える必要があります。

それでも、「少数派の影響は小さいが、ゼロではない。そして、ぶれずに、しかも筋の通った形で言い続けたときにだけ出てくる」という骨組みは、その後の研究でもおおむね支持されています。会議で自分だけ違う意見を持っているとき、すぐに引っこめるか、理由を添えて同じことを言い続けるか。その差は、その場の結論ではなく、しばらくたってからの周りの考えに出てくるのかもしれません。

参考にした資料

  • Moscovici, S., Lage, E., & Naffrechoux, M. (1969). Influence of a consistent minority on the responses of a majority in a color perception task. Sociometry, 32(4), 365–380.
  • Nemeth, C., Swedlund, M., & Kanki, B. (1974). Patterning of the minority's responses and their influence on the majority. European Journal of Social Psychology, 4(1).
  • Wood, W., Lundgren, S., Ouellette, J. A., Busceme, S., & Blackstone, T. (1994). Minority influence: A meta-analytic review of social influence processes. Psychological Bulletin, 115(3), 323–345.
  • Moscovici, S., & Personnaz, B. (1980). Studies in social influence V: Minority influence and conversion behavior in a perceptual task. Journal of Experimental Social Psychology, 16.
  • Doms, M., & Van Avermaet, E. (1980). Majority influence, minority influence and conversion behavior: A replication. Journal of Experimental Social Psychology, 16.
  • Martin, R. (1998). Majority and minority influence using the afterimage paradigm: A series of attempted replications. Journal of Experimental Social Psychology, 34.
  • Martin, R., & Hewstone, M. (2012). Minority influence: Revisiting Moscovici's blue-green afterimage studies. In J. R. Smith & S. A. Haslam (Eds.), Social Psychology: Revisiting the Classic Studies. SAGE.
  • Simply Psychology「Moscovici and Minority Influence」