結果を知ると、人は自分が前にしていた予想まで結果に寄せて思い出します。「気をつけて」と注意するだけではほとんど防げず、残しておいた記録がいちばん頼りになります。

延長戦の終盤、ゴール前のこぼれ球が相手の足元に転がって、決勝点になる。テレビの前で誰かが言います。「あそこ空いてたもん、やられると思った」。そう言われると、こちらもなんとなく、そんな気がしていたような気がしてくる。

本当にそう思っていたのか、確かめる方法はふつうありません。予想を紙に書いて封をしておく人はいないからです。ところが、それを実際にやらせた研究者がいました。

ニクソンの旅を予想させて、あとで思い出させる

1972年、アメリカのニクソン大統領が中国とソ連を訪問する直前、エルサレムのヘブライ大学で心理学を学んでいたバルーク・フィッシュホフは、友人のルース・ベイスと一緒に、学生や教員に旅の結果を予想してもらいました。「毛沢東主席と会談する」といった出来事それぞれに、起こる確率を書いてもらったのです。

訪問が終わって2週間後、あるいは半年後。二人は同じ人たちに、予告なしでこう頼みました。前に自分が書いた確率を、できるだけ正確に思い出してください。

結果は、タイトルにした言葉のとおりでした。実際に起きたと本人が思っている出来事については、前に書いた確率よりも高く思い出す。起きなかった出来事は、低く思い出す。最初に低い確率しかつけていなかった「大番狂わせ」でも、思い出された確率の中央値はたいてい60%以上に収まっていました。驚いたはずの出来事が、記憶の中では「まあ、ありそうだった」に変わっていたわけです。

同じ1975年、フィッシュホフは別の形の実験も発表しています。19世紀初めにイギリス軍とネパールのグルカ兵が戦った戦争の経緯を読ませ、「イギリスの勝利」「グルカの勝利」「和平」「決着のつかない膠着」という4つの結末の確率を見積もってもらう。そのとき一部の人にだけ「実際にはこうなりました」と結末を教えておくと、教えられた結末の確率が高く見積もられました。各結末の平均で、差は9.2ポイント。フィッシュホフはこれを「忍び寄る決定論」と呼んでいます。

50年たっても消えない、ただし少し小さく

この現象は後知恵バイアス(hindsight bias)として、その後たくさんの研究に引き継がれました。1991年のメタ分析は122件、2004年のギルボーらのメタ分析は95件の研究をまとめ、どちらもはっきりした効果を確認しています。

もっとも、元の実験の数字がそのまま再現されたわけではありません。2021年に香港大学のフェルドマンらのチームが1975年の実験をあらためて追試したところ、効果は確かにあったものの、元の論文から推定される大きさよりは小さめでした。古い題材は時代とともに意味が変わってしまい、一部は追試に使えなかったとも報告されています。

フィッシュホフ本人も、2025年に書いた50周年の振り返りで、論文のタイトルは言いすぎだったと認めています。「わかっていた」と言い切る人ばかりではなく、実際に起きていたのは「そこまで驚かなかった」くらいの変化だった。もっと正確な題は「たいして驚かなかった効果」だったかもしれない、と書いています。

注意しても防げない、考えすぎても逆効果

厄介なのは、知っていても避けにくいことです。裁判や医療事故の検証のように、結果を知った人が「事前に予見できたか」を判断する場面は、この偏りの影響をまともに受けます。手術の判断が悪い結果に終わると、その判断は実際以上に「明らかなミス」に見えてしまう。ところがフィッシュホフの振り返りによれば、法律分野の研究を見わたしても、「後知恵バイアスに気をつけてください」と注意するだけでは効果がほとんどありませんでした。

効いたのは、当時の視点を組み立て直すことです。ハル・アークスらが1988年に神経心理学者194人で行った研究では、症例を読んで3つの診断の確率を答えるとき、それぞれの診断が正しい理由を1つずつ書かせると、後知恵に引きずられる人の割合が減りました。

ただし、やりすぎると逆に転びます。2002年にサンナとシュワルツらは、グルカ戦争の課題で「別の結末になり得た理由」を2つ挙げさせる人と、10個挙げさせる人を比べました。結末を知らない人がつけたイギリス勝利の確率の中央値は48.3%、結末を知っている人は58.2%。理由を2つ書いた人は54.3%に下がったのに、10個書かされた人は68.0%まで上がりました。10個も思いつけない苦しさが、「やっぱりほかの結末はありえなかった」という感覚にすり替わったと考えられています。

いちばん確実なのは、地味ですが、予想をその場で書き残しておくことでしょう。数行のメモでも、あとで読み返すと、自分が思っていたよりずっと迷っていたことに気づけます。その気づきは、計画が甘くなる癖を直すときにも、他人の失敗を責める前にも役に立ちます。

参考にした資料

  • Fischhoff, B. (1975). Hindsight ≠ foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 1(3), 288–299.
  • Fischhoff, B., & Beyth, R. (1975). "I knew it would happen": Remembered probabilities of once-future things. Organizational Behavior and Human Performance, 13(1), 1–16.
  • Arkes, H. R., Faust, D., Guilmette, T. J., & Hart, K. (1988). Eliminating the hindsight bias. Journal of Applied Psychology, 73(2), 305–307.
  • Christensen-Szalanski, J. J. J., & Willham, C. F. (1991). The hindsight bias: A meta-analysis. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 48(1), 147–168.
  • Sanna, L. J., Schwarz, N., & Stocker, S. L. (2002). When debiasing backfires: Accessible content and accessibility experiences in debiasing hindsight. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 28(3), 497–502.
  • Guilbault, R. L., Bryant, F. B., Brockway, J. H., & Posavac, E. J. (2004). A meta-analysis of research on hindsight bias. Basic and Applied Social Psychology, 26(2–3), 103–117.
  • Roese, N. J., & Vohs, K. D. (2012). Hindsight bias. Perspectives on Psychological Science, 7(5), 411–426.
  • Chen, J., Kwan, L. C., Ma, L. Y., et al., & Feldman, G. (2021). Retrospective and prospective hindsight bias: Replications and extensions of Fischhoff (1975) and Slovic and Fischhoff (1977). Journal of Experimental Social Psychology.
  • Fischhoff, B. (2025). Fifty years of hindsight bias research: Reflection on Fischhoff (1975). Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 51(2), 143–150.