結束の固い優秀なチームほど、反対意見が場から消えていくことがあります。ただし「反対役を決めておく」対策は、思ったほど効かないという実験もあります。
会議で黙っていたことを、何か月も悔やみ続けた人がいます。
ケネディ政権の補佐官で、歴史家でもあったアーサー・シュレジンジャーです。1961年4月、アメリカが支援した亡命キューバ人部隊がキューバのピッグス湾に上陸し、わずか数日で壊滅しました。上陸した約1,300人のうち、100人あまりが死亡し、1,183人が捕虜になっています。シュレジンジャーはこの作戦に疑問を持っていて、大統領あてのメモでは反対も書いていました。それなのに、閣議室での肝心の議論ではほとんど口を開かなかった。のちに彼は、あのとき黙っていた自分を激しく責めた、と回想録『ケネディ——栄光と苦悩の一千日』に書いています。
「みんな賛成なのに、自分だけ水を差すのか」
この回想に目をとめたのが、イェール大学の心理学者アーヴィング・ジャニスです。ケネディと側近たちは、当時のアメリカでも指折りの頭脳の集まりでした。その人たちが、なぜ穴だらけの計画を通してしまったのか。
ジャニスは1972年の著書『集団思考の犠牲者たち』で、真珠湾攻撃を予測できなかった海軍、朝鮮戦争での北進、ピッグス湾、ベトナム戦争の拡大といった政策の失敗を比べ、共通するパターンを「集団思考(グループシンク)」と名づけました。言葉そのものは1952年に作家ウィリアム・ホワイトが雑誌『フォーチュン』で使ったものですが、心理学の概念として形にしたのはジャニスです。
彼の見立てでは、仲のいい、まとまりのある集団ほど「この和を壊したくない」という気持ちが強くなります。すると、疑問を持った人も「みんな賛成しているようだし」と自分の口を閉じる。全員が黙るので、外からは満場一致に見える。さらに「自分たちが間違えるはずがない」という思い込みが加わり、反対の材料を持ちこむ人は遠ざけられていきます。実際、シュレジンジャーが疑問を口にしたとき、大統領の弟ロバート・ケネディは「兄はもう決めた。いまは皆で支えるときだ」と釘を刺したと伝えられています。ジャニスはこういう役回りを「マインドガード(心の番人)」と呼びました。
面白いのは、ほぼ同じ顔ぶれが1年半後のキューバ危機では、ずっと慎重な議論をしたことです。ケネディはあえて会議を欠席して自分の意見が場を縛らないようにし、外部の専門家を呼び、グループを小分けにして案を競わせました。ジャニスはこれを、集団思考を避けた成功例として対比しています。
物語としては見事、でも実験では決め手に欠ける
集団思考は経営書や研修でおなじみの言葉になりましたが、研究者のあいだでは評価が分かれています。
ひとつは、実験で確かめにくいことです。ジャニスの材料は主に歴史上の事例で、失敗した決定を後から振り返って症状を拾う形でした。実験室でまとまりの強さを操作しても、「仲がいい集団ほど判断が悪くなる」という結果は安定して出ていません。1993年にはアルダグとフラーが、理論の中心部分を支える実証は乏しいと指摘しています。
もうひとつは、事例そのものの読み直しです。1998年、政治学者ロデリック・クレイマーは、機密解除された文書や当事者の証言をもとにピッグス湾とベトナムの決定を再検討し、集団の空気よりも、大統領が選択肢を「政治的にどう見えるか」で判断していた影響のほうが大きかったと論じました。会議室の同調圧力だけで説明するのは言いすぎかもしれない、というわけです。
反対役を決めるだけでは足りない
では対策はどうか。よく勧められるのが、あえて反対意見を言う係、いわゆる「悪魔の代弁者」を決めておくことです。
ところが、カリフォルニア大学バークレー校のシャーラン・ネメスらが2001年に発表した実験では、役として割り振られた反対意見は、かえって多数派が自分の考えを補強する材料になりがちでした。「どうせ役で言っているだけ」と受け流されてしまうのです。独創的な考えや考え直しを引き出したのは、本気で反対している人の意見のほうでした。
ケネディがキューバ危機でしたことも、反対役を1人置くより、トップが先に結論を言わない、外の声を入れる、小さく分けて議論する、という場の作り方に近いものでした。黙っていた人が本当は何を考えていたのか。それを言える場かどうかが、たぶんいちばん効いてきます。
参考にした資料
- Irving L. Janis『Victims of Groupthink』(1972)、改訂版『Groupthink』(1982)
- Arthur M. Schlesinger Jr.『A Thousand Days』(1965)
- William H. Whyte Jr. "Groupthink", Fortune, 1952年3月号
- Ramon J. Aldag & Sally Riggs Fuller (1993) Psychological Bulletin
- Roderick M. Kramer (1998) "Revisiting the Bay of Pigs and Vietnam Decisions 25 Years Later", Organizational Behavior and Human Decision Processes
- Charlan Nemeth, Keith Brown & John Rogers (2001) "Devil's advocate versus authentic dissent", European Journal of Social Psychology
- 米国務省 歴史局「The Bay of Pigs Invasion and its Aftermath, April 1961」、JFK Library「The Bay of Pigs」
- Britannica「Groupthink」