中身が同じ情報でも、「得る」側から見せるか「失う」側から見せるかで、人の選択は動きます。ただし、それが単なる思い込みなのかについては、今も議論があります。
「この手術を受けた100人のうち、90人は術後の期間を乗り切ります」
「この手術を受けた100人のうち、10人は術後の期間に亡くなります」
二つの文は、書かれている事実がまったく同じです。それでも、自分が手術を受ける側だとしたら、後者を聞いたあとのほうが少し迷うのではないでしょうか。この迷いを数字で確かめたのが、1982年に『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』に載った研究です。
医師も同じように揺れた
バーバラ・マクニール、スティーブン・パウカー、ハロルド・ソックス、エイモス・トヴェルスキーの4人は、肺がんの治療法として手術と放射線療法のどちらを選ぶかを尋ねました。対象は外来の患者238人、大学院生491人、そして医師424人です。
手術は治療中に亡くなる人がいるかわりに、5年後に生きている人は多い。放射線療法は治療中に亡くなる人はいないものの、5年後の生存者は少ない。この同じデータを、半分の人には「何人生きているか」で、残りの半分には「何人亡くなっているか」で示しました。
結果として、放射線療法を選んだ人は、生存の言い方では18%でしたが、死亡の言い方では44%まで増えました。「手術で10人が亡くなる」という言い方が、手術を避けさせたわけです。目を引くのは、この傾向が患者や学生だけでなく、医師のあいだでも同じように見られたことです。数字を読み慣れている専門家でも、言い方の影響からは自由ではありませんでした。
600人を救う計画
その前年、トヴェルスキーはダニエル・カーネマンとともに、もっと抽象的な問題で同じことを示しています。1981年の『サイエンス』に載った、いわゆる「アジアの病気問題」です。
600人の命を奪うと予想される病気に対して、二つの対策がある。対策Aなら200人が助かる。対策Bなら3分の1の確率で600人全員が助かり、3分の2の確率で誰も助からない。この聞き方では72%がAを選びました。ところが、同じ内容を「対策Cなら400人が亡くなる」「対策Dなら3分の1の確率で誰も亡くならず、3分の2の確率で600人が亡くなる」と言い換えると、確実なほうのCを選んだのは22%にとどまります。助かる話では確実さを取り、失う話では賭けに出る、という傾向です。
この結果には「『200人が助かる』を『少なくとも200人』と読んでいるだけではないか」という批判もありました。そこで行動科学のブログ「Data Colada」の研究者たちが「ちょうど200人」と明記して試したところ、効果はやはりはっきり出ています。一方で、1998年にアントン・キューベルガーが136本の論文をまとめたメタ分析では、効果の大きさは平均してd=0.31。確かにあるけれど、有名な72%対22%ほど劇的とは限らない、というのが落ち着いた見方です。
言い方には、情報が漏れている
もう一つ、この効果を「人間の非合理」とだけ片づけない議論があります。2006年、シュロミ・シャーとクレイグ・マッケンジーは、水の入ったコップと空のコップを学生の前に置き、「半分入ったコップ」または「半分空のコップ」を1つ作って机の端に置いてほしいと頼みました。すると「半分空」と頼まれた人の69%が、もともと満杯だったほうのコップから作ったものを置きました。「半分入った」と頼まれた人では46%です。
つまり話し手は、ふだん何かが減ったときには「空」の言葉を、増えたときには「入った」の言葉を選びがちで、聞き手もそれを感じ取っています。医師が「10人亡くなる」と言えば、そこには「私は気にしている」という含みが乗るかもしれない。言い方に反応するのは、その含みを読んでいるからだ、という解釈です。
マクニールの実験そのものにも、2021年に別の角度から疑問が出ています。元の資料は「治療中に10人、1年後までに32人、5年後までに66人が亡くなる」という累積の数字でした。イタリアのマッキとズラートによると、これを「10+32+66=108人」のように足してしまう人が少なくなく、「1年後までにさらに22人」と区切って示すと、言い方による差は消えたといいます。
どちらの見方をとるにしても、自分を守る方法は同じです。「成功率90%」と聞いたら、頭の中で「10%は失敗」と言い直してみる。両方の言い方で聞いても気持ちが変わらなければ、その判断はたぶん言い方ではなく中身で決めています。医療の選択で迷うときは、数字を両方の言い方で説明してもらえないか、担当の医師に相談してみてください。
参考にした資料
- McNeil, B. J., Pauker, S. G., Sox, H. C., & Tversky, A. (1982). On the elicitation of preferences for alternative therapies. New England Journal of Medicine, 306, 1259–1262.
- Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The framing of decisions and the psychology of choice. Science, 211, 453–458.
- Kühberger, A. (1998). The influence of framing on risky decisions: A meta-analysis. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 75(1), 23–55.
- Sher, S., & McKenzie, C. R. M. (2006). Information leakage from logically equivalent frames. Cognition, 101, 467–494.
- Macchi, L., & Zulato, S. (2021). Numbers do not add up! The pragmatic approach to the framing of medical treatments. Judgment and Decision Making, 16(3).
- Data Colada「"Exactly": The Most Famous Framing Effect Is Robust To Precise Wording」 https://datacolada.org/11