運転の腕前を聞くと、多くの人が「自分は平均より上」と答えます。ただ、ジャグリングやプログラミングのような難しいことになると、今度は「平均より下」と答える人が増える。過大評価というより、比べ方のくせだと考えられています。
あなたの運転は、同じ道を走っているほかのドライバーと比べて、上手なほうでしょうか。下手なほうでしょうか。
少し考えて「まあ、上のほうかな」と思った人は、かなり多数派です。そして、その多数派が多すぎることが、この話のおもしろいところです。
93%が「真ん中より上」にいる教室
スウェーデンの心理学者オーラ・スヴェンソンは、1981年に学術誌『Acta Psychologica』で小さな調査を報告しました。対象はアメリカとスウェーデンの学生、それぞれ80人ほど。部屋にいるほかの参加者全員を思い浮かべてもらい、自分の運転の技術と安全さが、その中でどのあたりに入るかを答えてもらいました。
結果は、アメリカの学生の93%が技術で、88%が安全さで、自分を真ん中より上に置きました。スウェーデンでは技術が69%、安全さが77%。グループの真ん中より上に入れるのは、どう並べても半分までです。にもかかわらず、どちらの国でも大半の人が上の半分を名乗ったことになります。
似た数字はほかにもあります。教育学者のパトリシア・クロスは1977年、ある大学の教員に教え方の自己評価を聞いたところ、9割を超える人が「平均以上」と答え、3分の2は自分を上位4分の1に入れたと報告しました。クロスはこの結果を見て、大学の授業がよくなる見込みは明るくない、と皮肉まじりに書いています。うまくやれていると思っている人は、やり方を変える理由がないからです。
この傾向は「平均以上効果」と呼ばれます。英語圏では「レイク・ウォビゴン効果」という呼び名も有名です。アメリカのラジオ番組で、ギャリソン・キーラーが語る架空の町レイク・ウォビゴンは「女性はみな強く、男性はみな美男子で、子どもはみな平均以上」と紹介されます。全員が平均より上という、ありえない町です。
古い調査なのに、ちゃんと再現した
心理学では、有名な古い実験が追試で再現しないことが珍しくありません。参加者が160人ほどのスヴェンソンの調査も、疑ってかかってよい部類に入ります。
そこで2023年、リナ・コッペル、ギラッド・フェルドマンらが、事前に手順を登録したうえで1,203人を対象に追試を行い、『Meta-Psychology』に発表しました。論文のタイトルがそのまま答えになっていて、「私たちはみな、ほかのドライバーより安全で上手い」。運転の技術でも安全さでも、多数派が自分を平均より上に置くという結果は、40年あまりたっても変わっていませんでした。
難しいことでは、逆に「平均以下」になる
では、人はなんでも自分を高く見積もるのかというと、そう単純でもありません。
コーネル大学のジャスティン・クルーガーは1999年、『Journal of Personality and Social Psychology』に「レイク・ウォビゴンよ、さらば!」という論文を出しました。運転やパソコンの操作のような簡単に感じることでは、人は自分を平均以上だと答えます。ところが、ジャグリング、チェス、プログラミング、人を笑わせる冗談のような難しいことになると、今度は自分を平均以下だと答える傾向が出たのです。この結果も、2021年に別のチームの追試で確かめられています。
クルーガーの説明はこうです。人は他人と比べているつもりで、実際にはほとんど自分のことしか見ていない。運転なら「自分は困っていない」と感じるので上のほうに置き、ジャグリングなら「自分はまったくできない」と感じるので下に置く。ほかの人も同じように、運転は楽にこなし、ジャグリングは苦手だという点を十分に考えに入れていない、というわけです。
そう考えると、平均以上効果は「自分に甘い」というより、比べる相手がぼんやりしたまま、自分の手応えだけで順位をつけてしまうくせに近いのかもしれません。
もう少し注意すべき点もあります。ひとつは「平均」という言葉のあいまいさです。事故の回数のように、ほとんどの人が0回で一部の人だけが何度も起こすものは、平均値が少数に引っぱられるので、実際に過半数が平均より少なくなります。どの指標で上手さを考えるかは人によって違うので、質問の答えがすべて思い込みとは言い切れません。また、日本など東アジアでは自分を高く見せる傾向が弱いとする研究と、表に出し方が違うだけだとする研究があり、文化の差についてはいまも議論が続いています。
最初の質問に「上のほう」と答えた人も、それだけで自信過剰とは限りません。ただ、なぜ上だと思ったのかを考えてみると、浮かぶのはたぶん自分のことばかりで、ほかのドライバーの顔はほとんど浮かんでいないはずです。
自己評価がずれる話は、ダニング=クルーガー効果の記事でも別の角度から取り上げています。
参考にした資料
- Svenson, O. (1981). Are we all less risky and more skillful than our fellow drivers? Acta Psychologica, 47(2), 143–148.
- Cross, K. P. (1977). Not can, but will college teaching be improved? New Directions for Higher Education, 17, 1–15.
- Kruger, J. (1999). Lake Wobegon be gone! The "below-average effect" and the egocentric nature of comparative ability judgments. Journal of Personality and Social Psychology, 77(2), 221–232.
- Koppel, L., Andersson, D., Tinghög, G., Västfjäll, D., & Feldman, G. (2023). We are all less risky and more skillful than our fellow drivers: Successful replication and extension of Svenson (1981). Meta-Psychology, 7.
- Heine, S. J., Lehman, D. R., Markus, H. R., & Kitayama, S. (1999). Is there a universal need for positive self-regard? Psychological Review, 106(4), 766–794.
- Sedikides, C., Gaertner, L., & Toguchi, Y. (2003). Pancultural self-enhancement. Journal of Personality and Social Psychology, 84(1), 60–79.
- FORRT Replication Atlas(Svenson 1981、Kruger 1999 の追試記録)