遅刻に罰金をつけたら、遅刻は減るどころかほぼ倍になり、罰金をやめても元に戻りませんでした。2000年に発表されたこの保育園の実験は有名ですが、その後の実験では「罰金はちゃんと効いた」という結果も出ています。

「A Fine is a Price」。直訳すると「罰金は値段である」。2000年に経済学者のウリ・グニーズィとアルド・ルスティチーニが法学の専門誌に載せた論文の題名です。ずいぶん身もふたもない題ですが、中身を読むとこれ以上の要約はないとわかります。

貼り紙1枚、10シェケル

舞台はイスラエルのハイファにある保育園10か所。1998年の1月から6月にかけて、20週間の記録がとられました。どの園も開園は朝7時半、閉園は16時。契約書には、親が迎えに遅れたらどうなるかは何も書かれていませんでした。遅れた日は先生が交代で子どもと一緒に待つ。それが仕事の一部だとされていたそうです。

最初の4週間は、遅刻の件数をただ数えるだけ。5週目の頭に、無作為に選んだ6園の掲示板に「10分以上遅れたら、子ども1人につき10シェケル」という貼り紙を出します。残りの4園は何も変えない比較用です。

10シェケルは当時のレートで3ドル弱。月の保育料が1,400シェケルですから、たしかに軽い罰金です。論文には比較として、ベビーシッターの時給が15〜20シェケル、違法駐車の罰金が75シェケルと書かれています。安いけれど、ゼロではない金額でした。

結果はこうです。罰金を入れた6園では、遅刻が3〜4週かけてじわじわ増え、最初の水準のほぼ倍で落ち着きました。1園あたり週に平均8件ほどだったものが、罰金の期間中は16件あまり。比較用の4園には、目立った変化はありませんでした。

そして17週目、罰金は理由の説明なしに廃止されます。すると遅刻は減りませんでした。最後の4週間は1園あたり週19件ほどで、罰金があったころと同じか、少し多いくらいです。

「先生の厚意」が「延長料金」になった

著者たちが挙げた説明は、ひとつではありません。

ひとつは、罰金が「情報」になったという見方です。契約書に何も書いていない以上、遅刻したらどうなるのかは親にとってわからなかった。先生に嫌われるかもしれないし、最悪は退園かもしれない。そこへ「10シェケル」という答えが出てきたことで、遅刻の値段がはっきり見えてしまった、というわけです。

もうひとつが、題名にもなった社会規範の話です。それまでの親はたぶん「閉園後に見てくれているのは先生の厚意だから、甘えすぎてはいけない」と感じていた。ところが料金がつくと、同じ時間が「買えるサービス」に変わります。お金を払っているのだから、罪悪感はいりません。

罰金をやめても戻らなかった点について、論文は「一度商品になったものは、商品のまま」という規範まで持ち出しています。料金ゼロになった延長保育を、みんなが気軽に使い続けた、という解釈です。著者たち自身、説明のために規範を3つも足すのは方法としてすっきりしないと認めています。

罰金は、いつも裏目に出るわけではない

この実験はその後、「善意にお金を持ち込むと善意が壊れる」という話の代表例として広く引用されてきました。ただ、論文自体が「罰金が非常に高ければ、遅刻する親はいなくなるだろう」と書いているとおり、どんな罰金でも逆効果になると主張したものではありません。

もとが保育園6園ぶんのデータだという点も、見落とされがちです。2020年には、キャリー・メトカーフらがオンラインの調査実験で同じ状況を再現しようとしましたが、保育園の場面でも納税の場面でも、罰金を示された回答者はむしろ違反を減らしました。「罰金で気がとがめなくなる」ことを示す手がかりもほとんど見つかっていません。とはいえこちらは「あなたならどうするか」を答えてもらう形式で、実際にお金を払う現場とは条件が違います。

同じ2020年、ルイス・コーンハウザーらは実験室で、罰金の払い先を変えて比べています。迷惑をかけた相手に払う形だと、協力的な性格の人ほど「払えば済む」側へ流れやすい。払い先を実験者に変えて罰としての色を濃くすると、その人たちは約束を守るようになりました。

血液の世界でも似た議論があります。1970年にリチャード・ティトマスが「献血にお金を払うと献血者が減る」と論じ、2008年のスウェーデンの実験では、謝礼を出すと、献血者になろうとする女性がほぼ半分に減りました。ただし謝礼を慈善団体に寄付できる選択肢をつけると、その減少は消えています。2013年に9万人超のデータを集めた系統的レビューでは、謝礼で献血が減るという証拠は見つかりませんでした。

お金は気持ちを押しのけることがある。ただしそれは、額や、誰に払うか、それを何と呼ぶかで変わるようです。ちなみにハイファの保育園の罰金は、閉園後に残って待っていた先生ではなく、園の経営者に支払われていました。先生の手取りは1シェケルも増えていません。

参考にした資料

  • Gneezy, U. & Rustichini, A. (2000). A Fine is a Price. The Journal of Legal Studies, 29(1), 1–17.
  • Metcalf, C., Satterthwaite, E. A., Dillbary, J. S. & Stoddard, B. (2020). Is a fine still a price? Replication as robustness in empirical legal studies. International Review of Law and Economics.
  • Kornhauser, L. A., Lu, Y. & Tontrup, S. (2020). Testing a fine is a price in the lab. International Review of Law and Economics.
  • Titmuss, R. M. (1970). The Gift Relationship: From Human Blood to Social Policy. Allen & Unwin.
  • Mellström, C. & Johannesson, M. (2008). Crowding Out in Blood Donation: Was Titmuss Right? Journal of the European Economic Association, 6(4), 845–863.
  • Niza, C., Tung, B. & Marteau, T. M. (2013). Incentivizing blood donation: Systematic review and meta-analysis to test Titmuss' hypotheses. Health Psychology.