誰も選ばない3つめの選択肢を足すと本命の売れ行きが伸びる——1982年に報告されたこの現象は、2014年に91回ぶんの追試を集めた検証で、はっきり効いたのは11回だけと結論されました。効くかどうかを分けていたのは、商品が数字だけで書かれているかどうかでした。
選択肢を1つ増やしても、もとからあった選択肢の取り分は増えない。これは好みの話というより、前提に近いものとして扱われてきました。ケーキ屋の棚にモンブランが並んだせいでショートケーキの注文が増える、というのは変です。分け合う相手が増えるのだから、減るか横ばいのはずです。
この前提には正規性という名前がついています。そして1982年、それが破れたという報告が出ました。
「選ぶ理由のない選択肢」を足すと、本命が伸びた
ジョエル・ヒューバー、ジョン・ペイン、クリストファー・プートの3人が『ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ』に載せた実験です。参加者には、属性が2つとも数字で書かれた商品を2つ見せます。片方は安いけれど品質の点数が低く、もう片方は高いけれど点数が高い。だいたい半々に割れるよう調整してあります。
ここに3つめを足します。ただし、2つのうち片方より確実に劣るように作る。値段は同じか高いのに点数は低い、という具合です。誰が見ても選ぶ理由がない。ところがこれを置くと、その劣った選択肢を打ち負かしている側のシェアが上がりました。非対称優位効果、のちに広まった名前でおとり効果です。
比較の相手をわざわざ用意してやると、本命が急に立派に見える。説明が直感的だったこともあって、この話はマーケティングの教科書に定着しました。
雑誌の購読プランの逸話
一般に広まったきっかけは、ダン・アリエリーが2008年の著書で紹介した経済誌の購読プランです。サイトにこんな3択が出ていた、といいます。
- Web版のみ 59ドル
- 印刷版のみ 125ドル
- 印刷版+Web版 125ドル
真ん中が奇妙です。同じ125ドルなのにWebが付いてこない。選ぶ理由がありません。
アリエリーはMITの学生100人にこの3択を見せました。Web版のみが16人、印刷版のみが0人、セットが84人。次に、誰も選ばなかった真ん中を消して、別の100人に2択で見せます。今度はWeb版のみが68人、セットが32人でした。売上に直すと3択のときが11,444ドル、2択のときが8,012ドル。選ばれない紙切れを1枚置いておくだけで3割ほど違う、という計算になります。
きれいな話です。ただしこれは講義の場で行われた一度きりの実験で、独立した追試として公表されたものは見つけられませんでした。加えてアリエリーは別のテーマの論文でデータの捏造を指摘され、その論文は2021年に撤回されています(購読プランの話がそこに含まれるわけではありません)。有名な逸話以上の重みは、持たせないほうが安全だと思います。
現実の商品に置き換えたら、消えた
2014年、『ジャーナル・オブ・マーケティング・リサーチ』に検証が2本並びました。
シビル・ヤンとマイケル・リンは、23の商品カテゴリ、73通りの選択セットを使って、おとり効果を出そうとした試みを91回集めました。統計的に確かな効果が出たのは11回。実験の規模から期待される回数より、はっきり少ない数字です。効果が薄れる条件もはっきりしていて、商品を言葉で説明したり写真を添えたりすると、成功率は偶然と変わらない水準まで落ちました。
同じ号のシェーン・フレデリック、レナード・リー、アーネスト・バスキンの報告も向きは同じです。彼らの結論は、この現象は商品のあらゆる面が数字で表された抽象的な提示に限られるかもしれない、というものでした。実際に商品を手に取って試すとき、あるいは属性のうち1つでも見た目で示されたときには、効果は現れなかったと書いています。
つまり教科書の「劣った選択肢を混ぜれば売れる」は、紙の上に数字が2列並んでいる場面の話だった可能性が高い。
数字が並ぶ場所では、たぶん今も効く
もっとも、これで完全に否定されたわけではありません。
元論文の3人は同じ号に反論を書いています。趣旨は、条件をきちんと再現すれば効果は出る、というもの。図で示したとき、属性がマイナスの性質のとき、そもそも2つの選択肢の間で迷っていないとき——そういう場合に消えることは認めたうえで、脆いことと存在しないことは違う、という立場です。
2013年には別の角度からの報告もあります。ジェニファー・トゥルーブラッドらは、長方形の面積を選ばせるような単純な知覚課題でも、おとり効果や類似性効果が現れることを示しました。買い物の心理というより、比較そのものに付いてくる癖なのかもしれません。
そう考えると、身の回りで警戒すべき場所も絞れます。言葉や写真で説明された商品ではなく、数字が表になって並んでいるところ。料金プランの比較表、スペック表、松竹梅の3コース。あの手の表で「真ん中はどう見ても損だな」と思ったなら、その真ん中は、あなたにそう思わせるために置かれている可能性があります。
対策は、比較表から目を離すことです。他と比べるのをやめて、これ単体にこの値段を出す価値があるか、と考える。並べられた瞬間に判断は相対的になってしまうので、いったん並びから引き剥がすしかありません。
参考にした資料
- Huber, J., Payne, J. W., & Puto, C. (1982). Adding Asymmetrically Dominated Alternatives: Violations of Regularity and the Similarity Hypothesis. Journal of Consumer Research, 9(1), 90–98.
- Yang, S., & Lynn, M. (2014). More Evidence Challenging the Robustness and Usefulness of the Attraction Effect. Journal of Marketing Research, 51(4), 508–513.
- Frederick, S., Lee, L., & Baskin, E. (2014). The Limits of Attraction. Journal of Marketing Research, 51(4), 487–507.
- Huber, J., Payne, J. W., & Puto, C. (2014). Let's Be Honest About the Attraction Effect. Journal of Marketing Research, 51(4), 520–525.
- Trueblood, J. S., Brown, S. D., Heathcote, A., & Busemeyer, J. R. (2013). Not Just for Consumers: Context Effects Are Fundamental to Decision Making. Psychological Science, 24(6), 901–908.
- ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』(2008年)
- Retraction Watch「Highly criticized paper on dishonesty retracted」(2021年9月14日)