曲が頭にこびりつくのは「未完了」だから。止めたければ、意外にも最後まで聴き切るのが早い。
朝、たまたま流れてきたCMソングが、昼になっても頭の中で鳴っている。仕事に集中したいのに、サビだけが延々とループする——。
この現象にはイヤーワーム(earworm)という名前がついています。耳の虫。ドイツ語の Ohrwurm の直訳で、学術的には「不随意音楽イメージ」などと呼ばれます。調査では9割以上の人が日常的に経験するとされる、ごくありふれた現象です。
こびりつきやすい曲には型がある
数千件の報告を集めた研究から、イヤーワームになりやすい曲の特徴がいくつか分かっています。テンポが速めであること。旋律の輪郭がシンプルでなじみやすいこと。そして、ところどころに予想を裏切る音の跳躍があること。「覚えやすいのに、少しだけ引っかかる」曲が、いちばん危ないわけです。
もうひとつ大きいのが、曲を途中までしか聴いていないことです。脳には、完了していない課題を保持し続ける癖があります(ツァイガルニク効果と呼ばれるものと同じ構図です)。サビの途中でラジオを消すと、脳は「この曲、まだ終わってないんだけど」と続きを再生し続ける。イヤーワームの多くは、この置き去りにされた再生残業です。
止め方は「最後まで流す」
だから対処法の第一候補は、拍子抜けするほど単純です。**その曲を、頭の中でも実際の音源でもいいので、最後まで流し切る。**終わったことにしてやると、脳が保持をやめてループが止まりやすい、と言われています。
変わり種では、ガムを噛むとイヤーワームが減ったという英レディング大学の実験報告もあります。口や舌をリズミカルに動かすことが、頭の中で歌を「口ずさむ」処理と競合するから、という説明です。どちらも決定打とまでは言えませんが、試すコストはほぼゼロです。
ひとつ実害の報告もあります。米ベイラー大学の研究では、寝る前にイヤーワームが起きると入眠が遅れ、睡眠の質が下がる傾向が示されました。夜にアップテンポの曲を聴くのが習慣の人は、ループが残ったまま布団に入っているのかもしれません。
参考にした資料
- イヤーワームの発生頻度・曲の特徴に関する研究の解説(日本語)
- Beaman, C. P. ほか(2015) ガム咀嚼とイヤーワームに関する実験(University of Reading)
- Scullin, M. K. ほか(2021) 就寝前の音楽とイヤーワーム・睡眠の質に関する研究(Baylor University)