人は「最初から選ばれているもの」をそのまま受け入れやすい。あなたの契約のいくつかは、あなたではなく初期設定が選んでいる。
2003年、ジョンソンとゴールドスタインという二人の研究者が、科学誌サイエンスに短い論文を出しました。テーマはヨーロッパ各国の臓器提供の同意率。並んだ数字は、にわかには信じがたいものでした。
ドイツ 12%。オーストリア 99.98%。デンマーク 4.25%。フランス 99.91%。
文化も宗教も生活水準も近い隣国同士で、この差です。原因は国民性でも死生観でもありませんでした。申請用紙の初期設定です。同意率が低い国は「提供したい人がチェックを入れる」方式(オプトイン)、高い国は「提供したくない人がチェックを入れる」方式(オプトアウト)でした。中身はまったく同じ質問なのに、どちらを「何もしなかった場合の状態」にするかだけで、結果がほぼ0%と100%に割れたのです。
なぜ初期設定に従ってしまうのか
理由はひとつではありません。変更には手間がかかる。どちらが良いか分からないとき、初期設定は「推奨」のシグナルに見える。そして現状を変えること自体に心理的な抵抗がある(現状維持バイアス)。この三つが重なって、デフォルトは強力な引力を持ちます。
この性質を「良い方向に人を導く設計」として使おうというのが、セイラーとサンスティーンが広めたナッジの発想です。年金の自動加入などはその成功例とされています。ただし同じ道具は逆向きにも使えます。
身の回りの「選ばされ」を数える
サブスクの自動更新。申込みフォームで最初からチェックが入っているメルマガ。「おすすめプラン」が選択済みの料金ページ。これらはすべて、あなたの手間と迷いがデフォルト側に有利に働くよう設計されています。
対策は地味ですが効きます。**チェックボックスと選択済みのプランを見たら、一度ぜんぶ外して考える。**初期設定は誰かが決めたものであって、あなたの希望ではありません。12%と99.9%を分けたのがチェックボックス1個なら、あなたの毎月の支出のいくらかも、たぶんチェックボックスが決めています。
参考にした資料
- Johnson, E. J. & Goldstein, D. (2003) "Do Defaults Save Lives?" Science
- リチャード・セイラー & キャス・サンスティーン『実践 行動経済学』(日経BP)
- デフォルト効果に関する日本語解説(錯思コレクション100 ほか)