松竹梅には、もともと順位がありませんでした。三つとも等しくめでたい、というのが本来の意味です。値段のはしごに変えたのは寿司屋と蕎麦屋で、そして三段に並べた瞬間、客の選び方は変わります。

松・竹・梅の三点セットは、中国の宋のころに「歳寒三友」という画の題材として生まれました。寒さのなかでも色を失わない三つを並べ、清廉さや節操を表す。絵の主題ですから、そこに一位も三位もありません。日本に伝わった当初も同じで、三つともが慶事の象徴でした。

順位が生えてきたのは、寿司屋や蕎麦屋のメニューの上です。「特上・上・並」とそのまま書く代わりに、松竹梅と置き換えた。特上を頼むときの気取りも、並を頼むときのばつの悪さも、この三文字なら覆い隠せます。松・竹・梅という並び順は、それぞれが縁起物として扱われはじめた時代——松が平安、竹が室町、梅が江戸——の古さの順だと説明されることが多いようです。

つまり値段のはしごとしての松竹梅は、後づけの発明でした。ところがこの後づけが、実験室でも同じように効きます。

カメラをもう1台置くと、順位が入れ替わる

1992年、スタンフォード大学のイタマール・シモンソンとエイモス・トベルスキーが『Journal of Marketing Research』に出した「Choice in Context」という論文があります。

実験のひとつはカメラでした。あるグループには2台を見せます。ミノルタX-370が169ドル、ミノルタ・マクサム3000iが239ドル。結果はきれいに割れて、50%対50%。70ドルの差に見合う性能かどうかは人それぞれ、というごく順当な分かれ方です。

別のグループには、そこへ469ドルのマクサム7000iを足した3台を見せました。この3台目は、たいして人気が出ません。選んだのは21%ほど。ところが残る2台の関係が変わっていました。169ドルが22%、239ドルが57%。安いほうと高いほうで五分だったはずの真ん中が、いつのまにか過半数を集めています。

2台のカメラそのものは、値段も性能も1ミリも変わっていません。変わったのは、その2台がどこに位置して見えるかだけです。169ドルは「いちばん安いもの」から「下端のもの」になり、239ドルは「高いほう」から「無難なところ」に移った。シモンソンとトベルスキーはこれを極端の回避性と呼びました。両端は選びにくく、中間は選びやすくなる。

人がほしいのは、たぶん「説明のつく理由」

なぜ中間が楽なのか。シモンソンが1989年に『Journal of Consumer Research』へ出した論文が、ひとつの答えを出しています。人は自分の好みがはっきりしないとき、いちばん良いものではなく、いちばん理由を立てやすいものを選んでいるのではないか、という見方です。

その論文で報告されているのは、選んだ理由を後で説明してもらいます、と伝えられた人ほど、真ん中を選ぶ割合が上がったという結果でした。真ん中には、いつでも使える言い分がついてきます。安物で失敗したわけでもないし、贅沢をしたわけでもない。両方のいいところを取った、と一言で片づけられる。

いちばん安いものを選ぶと、けちったと思われるかもしれない。いちばん高いものを選ぶと、見栄だと思われるかもしれない。どちらの言い訳もしなくていい席が、真ん中です。決めているのは価格と品質の計算というより、決めたあとに自分や誰かへ差し出す説明のほうなのかもしれません。

「松2:竹5:梅3」の出どころと、隣の効果の事情

ここから先は、話半分に聞いたほうがいい部分です。

日本のマーケティング記事では、松竹梅の売れ方はだいたい「松2:竹5:梅3」に落ち着く、とよく紹介されます。ただ、この比率の出典として具体的な調査や論文が示されている例をほとんど見かけません。真ん中が最も選ばれること自体は多くの研究で確かめられていますが、5割ちょうどという数字のほうは、繰り返されるうちに定着した目安と考えておくのが無難でしょう。

もうひとつ、混同されやすい話があります。「高い松は、竹を選ばせるためのおとりだ」という説明です。これは妥協効果ではなく、おとり効果(魅力効果)という別の現象を指していて、そちらは足元がかなり揺れています。2014年、シェーン・フレデリックらの「The Limits of Attraction」と、シビル・ヤンとマイケル・リンによる検証が同じ号の『Journal of Marketing Research』に並びました。ヤンとリンは23の商品カテゴリ・73通りの選択肢の組み合わせで91回試し、はっきりした効果が出たのは11回だけだったと報告しています。数字を並べた抽象的な表なら出るが、写真や言葉で書かれた現実的な商品では、ほとんど出ない。

一方の妥協効果は、比較的よく生き残っているほうです。2016年にリヒタースらが『Journal of Business Research』で報告した実験では、実在するブランドの耐久財を本当のお金で買わせ、「買わない」という選択肢も用意したうえで、効果が確認されています。ただし食品や日用品のような回転の速い商品では弱く、判断に頭を使う買い物ほど強く出た、という条件つきでした。同じ選択を何度も繰り返して結果を学習すると、むしろ真ん中を避ける向きに反転するという報告もあります。一発勝負の選択に効く癖、ということなのでしょう。

寿司屋の三段のメニューは、たぶんそこをよく捉えています。年に何度も通って学習するほどの回数ではなく、その場で誰かに説明のつく選択をしたい場面。松竹梅は、値段に序列をつけると同時に、真ん中を選んだ人に言い訳まで用意していた発明でした。もともと優劣の無かった三つの草木は、ずいぶん器用な使われ方をしています。

参考にした資料

  • Simonson, I., & Tversky, A. (1992)「Choice in Context: Tradeoff Contrast and Extremeness Aversion」Journal of Marketing Research 29(3)
  • Simonson, I. (1989)「Choice Based on Reasons: The Case of Attraction and Compromise Effects」Journal of Consumer Research 16(2)
  • Frederick, S., Lee, L., & Baskin, E. (2014)「The Limits of Attraction」Journal of Marketing Research 51(4)
  • Yang, S., & Lynn, M. (2014)「More Evidence Challenging the Robustness and Usefulness of the Attraction Effect」Journal of Marketing Research 51(4)
  • Lichters, M., Müller, H., Sarstedt, M., & Vogt, B. (2016)「How durable are compromise effects?」Journal of Business Research 69(10), 4056–4064
  • マイナビニュース「松竹梅、元々はランクの優劣がなかったって本当?」(2021年4月)