完璧な人が小さな失敗をすると好かれる、というプラットフォール効果。元になった1966年の実験では、コーヒーをこぼして好感度が上がったのは有能な人だけで、平凡な人は同じ失敗で評価を下げていました。
1961年4月、アメリカのケネディ政権はキューバのピッグス湾への上陸作戦に失敗しました。亡命キューバ人部隊は数日で壊滅し、政府が関与していたことも隠しきれなくなります。就任してまだ3か月の大統領にとって、弁解のしようのない失態でした。
ところが、直後のギャラップ調査で支持率は下がっていません。作戦前の4月上旬に78%だった支持率は、4月末から5月初めの調査で83%に上がっています。
失敗して人気が上がる。これだけなら、国の危機に国民が大統領のもとへ集まる「旗の下への結集」でも説明がつきますし、ケネディが責任をすべて自分で引き受けると表明したことも効いたはずです。ただ、似たことは個人どうしでも起きるのではないか。それを小さな実験で確かめたのが、社会心理学者のエリオット・アロンソンでした。
クイズの達人がコーヒーをこぼす
1966年、アロンソンはベン・ウィラーマン、ジョアン・フロイドとともに、ミネソタ大学の男子学生48人に録音テープを聞かせました。大学対抗のクイズ番組「カレッジ・ボウル」の出場者を選ぶ面接、という設定です。
テープの人物は2種類いました。ひとりは難しい問題に次々と答え、正答率は92%。高校時代の成績も優秀で、陸上部にも入っている。もうひとりは正答率30%で、経歴もごく普通です。そして、それぞれのテープの半分には、面接の最後に人物がコーヒーをこぼし、慌てて謝る音が入っていました。
学生たちが「この人物にどれくらい好感を持ったか」を評価したところ、いちばん好かれたのは、正答率92%でコーヒーをこぼした人物でした。同じ92%でも、何も起きなかったテープより評価が高い。逆に、正答率30%の人物がこぼした場合は、4つの条件の中でもっとも好感度が低くなりました。
論文は『Psychonomic Science』に載った短い報告です。解釈もシンプルで、有能すぎる人は近寄りがたく感じられ、失敗がその人を「人間らしく」見せる、というものでした。「pratfall」は英語で、人前でのへまや、しりもちを指す言葉です。
4年後の論文の題は「ときどき」
この話は「隙を見せる人ほど好かれる」という形で広まりました。ただ、実験に参加したのは男子学生48人で、しかも聞いたのは録音です。面識のない相手を声だけで評価した、かなり限られた状況の結果でした。
アロンソン自身も、条件を詰めにいっています。1970年、ロバート・ヘルムライク、ジェームズ・レファンと『Journal of Personality and Social Psychology』に発表した論文の題は「To err is humanizing—sometimes」。失敗は人を人間らしく見せる——ときどきは、という題です。
この研究では、テープを聞く側の自尊心の高さを事前に測っておきました。すると、有能な人物の失敗で好感度が上がったのは、自尊心が平均的な人たちだけでした。自尊心が高い人も低い人も、失敗しなかった有能な人物のほうを好んでいます。とくに自尊心の低い人にとっては、優秀な人のへまは親しみではなく、別の受け取り方をされていたようです。
その後も、効果が変わる条件の報告が続きました。1972年のデヴィッド・メッティーとポール・ウィルキンズの研究では、失敗の程度や、見る側が相手の能力を自分に近いと感じるかどうかで結果が変わっています。同じ年のケイ・ドゥーの研究では、男性の参加者のほうがこの効果に強く反応したとされています。元の実験の参加者が男子学生だけだったことを考えると、無視しにくい指摘です。1966年の手続きを大人数で追試し直した研究は、調べた範囲では見つかりませんでした。
先に見せたものが、失敗の意味を決める
条件つきの効果ではあるものの、1966年の実験の核になっている部分は、別の分野でも似た形で見つかっています。
2012年、ダニット・エインガー、ババ・シヴ、ザカリー・トーマラは『Journal of Consumer Research』で、商品の説明に小さな欠点をひとつ書き加えると、かえって評価が上がる場合があると報告しました。ただしそれは、良い情報のあとに欠点が来たときで、しかも読み手が深く考えずに情報を受け取っているときに限られていました。欠点が先に来ると、この効果は出ていません。
順番が大事だという点は、1966年のテープとよく似ています。正答率92%の人物のへまは、有能さを聞き終わったあとに置かれていました。先に力が示されているから、失敗は「完璧ではない」という味つけとして読まれる。30%の人物には、その土台がありませんでした。
ですから、この効果から引き出せる教訓は「失敗を見せると好かれる」ではなさそうです。まず仕事で信頼され、そのうえで小さく、害のない失敗を見せたときに限って、ときどき好かれる。わざとコーヒーをこぼすのは、あまり割に合う作戦ではありません。
参考にした資料
- Elliot Aronson, Ben Willerman, Joanne Floyd「The effect of a pratfall on increasing interpersonal attractiveness」1966年、『Psychonomic Science』(https://doi.org/10.3758/BF03342263)
- Robert L. Helmreich, Elliot Aronson, James LeFan「To err is humanizing—sometimes: Effects of self-esteem, competence, and a pratfall on interpersonal attraction」1970年、『Journal of Personality and Social Psychology』16巻 259–264頁
- David R. Mettee, Paul C. Wilkins「When similarity "hurts": Effects of perceived ability and a humorous blunder on interpersonal attractiveness」1972年、『Journal of Personality and Social Psychology』22巻 246–258頁
- Kay Deaux「To err is humanizing: But sex makes a difference」1972年、『Representative Research in Social Psychology』3巻
- Danit Ein-Gar, Baba Shiv, Zakary L. Tormala「When Blemishing Leads to Blossoming: The Positive Effect of Negative Information」2012年、『Journal of Consumer Research』38巻5号 846–859頁(https://doi.org/10.1086/660807)
- Gallup Vault「Cuba Embargo Popular After Bay of Pigs Fiasco」(https://news.gallup.com/vault/190772/gallup-vault-cuba-embargo-popular-bay-pigs-fiasco.aspx)
- Pratfall effect(英語版ウィキペディア)の研究一覧