大教室に黙って座るだけの女性が4人。15回出席した人の魅力の評価は4.38、一度も来なかった人は3.62。ところが「見た覚えがあるか」のほうは、ほとんど差がつきませんでした。
「会う回数を増やせば好かれる」。営業の場でも恋愛の話でもよく出てくる説で、心理学では単純接触効果と呼ばれます。その根拠としていちばんよく引かれる実験があるのですが、紹介されるときにたいてい落ちてしまう一行があります。好感度が上がった学生たちは、相手の顔を覚えていませんでした。
大教室の4人
1992年、ロバート・モアランドとスコット・ビーチが『Journal of Experimental Social Psychology』に発表した研究です。舞台は大学の大人数講義。似た雰囲気の女性4人に、受講生のふりをして教室へ通ってもらいました。
変えたのは出席回数だけ。Aは0回、Bは5回、Cは10回、Dは15回。授業が始まる少し前に入り、教室の前のほうへゆっくり歩いて、みんなから見える席に座る。ノートを取り、終われば帰る。会話も自己紹介も質問もなし、ただそこにいるだけです。
学期の終わり、受講生130人に4人のスライドを見せ、魅力や知性や誠実さなどを7段階で評価してもらいました。魅力の平均は、0回の3.62から15回の4.38へ、出席回数が増えるほど素直に上がっていきます。「自分と似ていそうか」という項目も同じ向きに動きました。
奇妙なのはここからです。「この人を見た覚えがあるか」を尋ねる親近性の項目には、はっきりした差が出ませんでした。15回も同じ教室にいた相手を、学生たちは特に見覚えがあるとは思っていない。それなのに、好ましさの点数だけが上がっている。誰なのか思い出せないまま、なんとなく感じのいい人になっていたわけです。
25回見せると、好きになる
この現象を最初に整理したのは、ロバート・ザイアンスが1968年に出した「Attitudinal Effects of Mere Exposure」という論文です。彼は、意味のわからないものを材料に選びました。トルコ語風のでたらめな単語、漢字に似せて作った記号、そして卒業アルバムから取った男性の顔写真。それぞれを0回、1回、2回、5回、10回、25回と回数を変えて見せ、あとで印象を尋ねる。結果はどれも同じ向きで、見た回数が多かったものほど好意的に評価されました。
意味がわかる必要すらありません。1980年にカンスト=ウィルソンとザイアンスが『Science』に報告した実験では、多角形の図形を、見たと自覚できないほど短い時間だけ提示しました。参加者は「どちらを見たか」を当てられません。それでも「どちらが好きか」と聞くと、提示されたほうを選びました。判断はつかないのに、選好だけが残っている。
日本にも研究があります。川上直秋と吉田富二雄が2011年に『心理学研究』で報告したところでは、閾下提示を一度に100回まとめた条件と、日を分けて積み上げた条件とで、効果の残り方が違いました。まとめたほうは直後に効いてすぐ薄れ、分散したほうは3か月後まで残っていたそうです。回数を稼ぐより間隔を空けて重ねるほうが長持ちする、と読めます。
上限があり、逆走もする
とはいえ、この効果を万能の道具のように扱うのは無理があります。
ロバート・ボーンスタインが1989年に、1968年から1987年までの研究をまとめた分析があります。134本の研究から208の比較を取り出したところ、効果そのものは確かにありました。効果量はr = .26。ただし同時に、提示回数が10回から20回あたりで頭打ちになり、それを超えると効果はむしろ小さくなっていくと指摘されています。2017年にモントーヤらが81本の論文から268本の曲線を推定し直した分析でも、視覚的な刺激については上がって下がる逆U字の形が確認されました。飽きる、という当たり前の現象がちゃんと数字に出るわけです。
もうひとつ、向きが逆になる条件があります。パールマンとオスカンプが1971年に行った実験では、96人の学生に人物写真を0回、1回、5回、10回と見せる際、その人物が置かれた文脈を変えました。好ましい役柄、中立的な役柄、そして警察の面通しに立つ犯罪者のような役柄。回数で好意が増えたのは前の2つで、否定的な文脈の人物には上昇が見られませんでした。最初にマイナスがついている相手には、接触は効きません。
さらにややこしいのは、「会う」と「知る」が別物らしいことです。ノートン、フロスト、アリエリーが2007年に発表した研究では、相手についての情報が増えるほど平均としては好意が下がりました。しかも出会い系サイトの利用者の81%、学生の88%は「知るほど好きになる」と信じていた。ひとつ食い違いが見つかると、その後の情報も食い違いの証拠として読まれていく、という説明がされています。ただしこれには反論があり、ライスらが2011年に初対面同士を実際に会話させた実験では、やり取りが長いほど好意は上がりました。文字情報を眺めるのと人と会うのとでは、話が違うようです。
無言で15回、教室に座る。それだけで点数が0.76上がる。ずいぶん心もとない上がり幅にも見えますが、そのあいだ学生たちは、彼女がいたことにすら気づいていなかったわけです。好き嫌いは、思っているよりだいぶ下のほうで決まっているのかもしれません。
参考にした資料
- Moreland, R. L., & Beach, S. R. (1992)「Exposure effects in the classroom: The development of affinity among students」Journal of Experimental Social Psychology 28(3), 255–276
- Zajonc, R. B. (1968)「Attitudinal effects of mere exposure」Journal of Personality and Social Psychology 9(2, Pt.2), 1–27
- Kunst-Wilson, W. R., & Zajonc, R. B. (1980)「Affective discrimination of stimuli that cannot be recognized」Science 207(4430), 557–558
- 川上直秋・吉田富二雄 (2011)「閾下単純接触の累積的効果とその長期持続性」心理学研究 82(4), 345–353
- Bornstein, R. F. (1989)「Exposure and affect: Overview and meta-analysis of research, 1968–1987」Psychological Bulletin 106(2), 265–289
- Montoya, R. M., Horton, R. S., Vevea, J. L., Citkowicz, M., & Lauber, E. A. (2017)「A re-examination of the mere exposure effect: The influence of repeated exposure on recognition, familiarity, and liking」Psychological Bulletin 143(5), 459–498
- Perlman, D., & Oskamp, S. (1971)「The effects of picture content and exposure frequency on evaluations of Negroes and whites」Journal of Experimental Social Psychology 7(5), 503–514
- Norton, M. I., Frost, J. H., & Ariely, D. (2007)「Less is more: The lure of ambiguity, or why familiarity breeds contempt」Journal of Personality and Social Psychology 92(1), 97–105
- Reis, H. T., Maniaci, M. R., Caprariello, P. A., Eastwick, P. W., & Finkel, E. J. (2011)「Familiarity does indeed promote attraction in live interaction」Journal of Personality and Social Psychology 101(3), 557–570