人は自分と同じ動きをする相手に好意を持つ。ただし意識の外で起きる現象なので、わざとらしく真似るとむしろ逆効果。

カフェで向かい合う二人を観察していると、ときどき面白いことが起きます。片方が足を組むと、少し遅れてもう片方も組む。片方がカップに手を伸ばすと、つられてもう片方も。本人たちはまず気づいていません。

心理学者のチャートランドとバージは1999年、この「無意識の同調」を実験室に持ち込みました。参加者と会話するサクラ役が、相手のしぐさ——顔を触る、足を揺らす——をさりげなく写し取る条件と、写し取らない条件を比べたのです。

結果、真似をされた参加者は9段階評価で相手への好感度が平均6.62。されなかった場合は5.91でした。会話のスムーズさの評価も、6.76対6.02で真似された側が上。差は劇的ではありませんが、一貫していました。

気づいた人、2.7%

この実験でいちばん背筋がひやりとするのは、事後アンケートで「相手が自分の真似をしていた」と気づいた参加者が2.7%しかいなかったことです。

つまりこの好感度の上乗せは、ほぼ全員が気づかないうちに起きています。人間はもともと、親しい相手と自然にしぐさが同期する生き物です(だからカメレオン効果という名前がつきました)。脳はその逆向きの推論もしてしまう。「同期している→この人とは合う」。理屈の通らない推論ですが、意識の外なので検閲が働きません。

「テクニック」にした瞬間に壊れる

この研究は営業や恋愛の「ミラーリング術」として広まりましたが、注意がひとつあります。効果の土台は「気づかれないこと」です。相手の動きを逐一なぞるような露骨な模倣は気づかれますし、気づかれた瞬間、それは同調ではなく観察されている不気味さに変わります。実際、過剰な模倣は印象を下げるという報告もあります。

実用するなら、せいぜい「相手の話すテンポや声の大きさに、自分をゆるく合わせる」程度でしょう。それは技術というより、昔から「息が合う」と呼ばれてきたものの正体に近い気がします。

参考にした資料

  • Chartrand, T. L. & Bargh, J. A. (1999) "The chameleon effect: The perception–behavior link and social interaction" Journal of Personality and Social Psychology
  • カメレオン効果・ミラーリングに関する日本語解説(複数)