10日の東京株式市場は、日経平均株価が前日比128円17銭(0.20%)高の6万5,270円95銭と3営業日ぶりに反発しました。中東情勢の緊迫と日米の金利上昇を嫌気して朝方から売りが先行し、一時は950円を超える下げとなりましたが、台湾積体電路製造(TSMC)の8月売上高が好調だったことを手がかりに半導体関連が買い戻され、大引けにかけてプラス圏へ浮上しています。

10日の東京市場 終値 前日比
日経平均株価 65,270.95円 +128.17(+0.20%)
TOPIX 4,054.58 +7.94(+0.20%)
10日の日経平均の主な水準
寄り付き 64,768.53円(前日比374.25円安)
前場終値 64,597.46円(同545.32円安)
安値 64,186.68円(同956.10円安)
大引け 65,270.95円(同128.17円高)
売買動向(東証プライム)
売買高 21億6,817万株
売買代金 8兆3,803億円
値上がり銘柄数 722(46.5%)
値下がり銘柄数 782(50.3%)
変わらず 44
10日の東京市場の債券・為替(15時時点) 水準 前営業日比
新発10年物国債利回り 2.905% +0.025%
債券先物(9月物) 126.29円 -0.09円
ドル円 153円60銭 +0.04円
ユーロ円 178円78銭 +0.13円
ユーロドル 1.1640ドル +0.0007ドル
10日発表のTSMC8月売上高(台湾ドル) 結果
8月の連結売上高 5,148億600万台湾ドル
前年同月比 +53.3%
前月比 +10.1%
1〜8月累計 3兆3,868億7,000万台湾ドル(前年同期比+39.3%)

何があった?

この日の東京市場は、値幅こそ1,000円近くありながら、終わってみればほぼ横ばい——という、方向感の定まらない一日でした。

朝方は完全に売り優勢でした。前日の米国市場でダウ工業株30種平均が405ドル安と3営業日続落し、北海ブレント原油先物が1バレル=101ドル台、米10年債利回りが一時4.857%と2023年11月以来の高水準を付けたことを引き継いだためです。日経平均は前日比374円25銭安の6万4,768円53銭で寄り付いたあと下げ幅を広げ、午前中に6万4,186円68銭まで下落。前日終値からの下げは956円に達しました。前場は545円32銭安の6万4,597円46銭で終えています。

流れが変わったのは後場です。台湾のTSMCが発表した8月の連結売上高が前年同月比53.3%増の5,148億600万台湾ドルと記録的な水準となり、前月比でも10.1%増加。AI(人工知能)向け半導体の需要が引き続き強いことを示す内容と受け止められ、日本の半導体関連株に買い戻しが入りました。日本インタビュ新聞によると、指数寄与度の大きいアドバンテストが日経平均を押し上げる主役となり、大引けにかけて一気にプラス圏へ切り返して、ほぼ高値引けとなっています。共同通信は、大引けにかけて利益確定の買い注文が入ったと伝えました。

内訳を見ると、この日の相場は前日とはっきり性格が変わっています。上昇したのは証券・商品先物取引業、サービス業、銀行業、保険業。下落したのは非鉄金属、その他製品、建設業でした。前日に買われた資源・電線関連が売られ、代わりに金融が買われる形です。個別ではアドバンテスト、リクルートホールディングス、村田製作所、キオクシアホールディングス、TDK、京セラ、太陽誘電などが上昇し、東京エレクトロン、フジクラ、イビデン、バンダイナムコホールディングス、任天堂、コナミグループなどが下落しました。半導体関連のなかでもアドバンテストと東京エレクトロンで明暗が分かれており、セクター一括りでは説明しにくい動きです。

もっとも、市場全体が強かったわけではありません。東証プライムの値上がり銘柄は722、値下がりは782と、数のうえでは下落銘柄のほうが多いままでした。指数がプラスで終えたのは、値がさの一部銘柄が引けにかけて買われた影響が大きいとみられます。売買代金は8兆3,803億円と、前日の9兆2,303億円から減少しました。11日の米消費者物価指数(CPI)と、同日の9月限先物・オプション特別清算指数(メジャーSQ)算出を控え、積極的に持ち高を傾けにくい地合いだったことがうかがえます。

債券市場では、新発10年物国債利回りが前日比0.025%高い2.905%まで上昇しました。日銀の増一行審議委員が福井市で開かれた金融経済懇談会で講演し、金融政策の先行きに踏み込んだ発言をしたことが材料です。

為替市場は、動いたようで戻ってきた一日でした。Myforexによると、増田審議委員の発言を受けてドル円は一時153円29銭まで下落したものの、その後は153円50銭前後でもみ合い、15時時点では153円60銭と前営業日のニューヨーク終値からわずか4銭の円安水準でした。ユーロ円は178円78銭、ユーロドルは1.1640ドルです。この日の夜に米8月生産者物価指数(PPI)の発表とECB(欧州中央銀行)の政策金利発表を控え、様子見姿勢が強まりました。

注目ポイント

この日いちばん注目された発言は、日銀の増一行審議委員によるものでした。

増田委員は福井市での講演で、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」と述べています。短期的な要因を除いた基調的な物価上昇率について、2%にかなり近づいているとの認識を示しました。そのうえで、イラン情勢を背景に物価上昇圧力が強まる懸念に触れ、「大切なのは2%を大きく超えないよう抑えること」だと利上げの意義を強調しています。共同通信によると、「イラン情勢を受けて世界中が利上げモードだ」とも指摘し、なお緩和的な日本については「インフレが加速すれば急速な利上げを迫られるリスクがある」と語りました。物価の上昇要因としては、AI需要が半導体などの価格を押し上げていることも挙げています。

日銀は17〜18日に金融政策決定会合を開きます。市場ではすでに9月の利上げがかなり織り込まれており、前日には利上げペースが「3カ月に1回」へ加速するとの見方が広がっていると報じられていました。今回の発言は、その見方を補強する内容と受け止められた形です。長期金利が2.9%台まで上昇し、円が買われる場面があったのは、この文脈で理解できます。この日に銀行業や保険業が買われたことも、金利上昇局面で利ざやの改善が意識されやすい業種という性質を映しています。

一方で、値動きそのものを主導したのはTSMCの月次売上高でした。8月の売上高は前年同月比53.3%増と、AI向け需要の強さを改めて示す内容です。1〜8月の累計でも前年同期比39.3%増となっています。日本の半導体製造装置・部材メーカーの多くはTSMCを含む世界の半導体メーカーを顧客に持つため、その業績動向が連想買いにつながりやすい構図があります。ここ数日は原油高と金利上昇という「マクロ」の材料に押される展開が続いていましたが、この日は個別企業の実績という「ミクロ」の材料が終盤の流れを変えました。

ただし、注意しておきたい点もあります。増田委員が指摘したとおり、AI需要による半導体価格の上昇は、物価上昇圧力の一因でもあります。半導体関連株にとっての好材料が、同時に中央銀行にとっての引き締め材料にもなり得る——この日の相場は、その両面が同じ日に現れた形でした。

11日は日程が集中します。日本ではメジャーSQの算出があり、先物・オプションの精算に絡んだ売買で寄り付きの値動きが大きくなることがあります。米国では8月のCPIが発表され、原油高がどこまで消費者物価に表れているかが確認されます。この日の夜のPPIと合わせて、来週15〜16日の米FOMC(連邦公開市場委員会)と17〜18日の日銀会合に向けた見方を左右しやすい局面です。

ひとこと解説

「高値引け」「安値引け」という言い方について整理しておきます。この日の日経平均は、日本インタビュ新聞が「安値から切り返し高値引け」と表現したように、その日の高値付近で取引を終えました。1日の終値がその日の値幅のどのあたりに位置するかは、市場参加者の姿勢を読む手がかりのひとつとされます。安値圏で始まって高値で終わる形は、時間の経過とともに買いの意欲が強まったことを示唆します。逆に高く始まって安値で終われば、上値では売りたい参加者が多かったと読めます。ただし、これはあくまで結果の描写であって、翌日以降の値動きを保証するものではありません。特にSQ算出前後や月末など、需給要因で終値が動きやすい時期には、こうした形の意味は薄れます。

日経平均は上がったのに値下がり銘柄のほうが多い、という現象にも触れておきます。この日は東証プライムで値上がり722銘柄に対し値下がりが782銘柄と、下落した銘柄のほうが多いにもかかわらず、日経平均もTOPIXも上昇しました。日経平均は225銘柄の株価を単純平均する方式に近いため、株価水準の高い「値がさ株」が動くと指数が大きく振れます。この日はアドバンテストのような値がさの半導体関連が引けにかけて買われたため、数のうえでの劣勢を押し返した形です。指数だけを見ていると「市場全体が上がった」と受け取りがちですが、値上がり・値下がり銘柄数(騰落レシオの元になる数字)を併せて確認すると、相場の実感に近い姿が見えてきます。この日はTOPIXも0.20%上昇していますが、こちらも時価総額の大きい銘柄の動きが強く反映される点は同じです。

企業の「月次売上高」がなぜ注目されるのかも説明しておきます。多くの企業は業績を四半期(3カ月)ごとに開示しますが、TSMCのように毎月の売上高を公表する企業もあります。台湾の上場企業は月次売上高の開示が制度上求められており、TSMCの数字は世界の半導体需要をいち早く映す指標として広く見られています。四半期決算まで待たずに需要動向がわかるため、関連銘柄が反応しやすいわけです。ただし月次データは、月ごとの営業日数や出荷のタイミング、為替の影響などで振れやすい性質があります。前月比で大きく増減しても、それが趨勢なのか一時的な要因なのかは、数カ月の流れを見ないと判断できません。単月の数字に反応した相場が、後日その反応を修正することも珍しくない点は覚えておきたいところです。

出典