8日の米国市場は主要3指数がそろって下落しました。サウジアラビアのエネルギー関連施設が攻撃されたと伝わったことで原油相場が上昇し、インフレが再び強まることへの警戒が株式の重荷になりました。東京市場は8日に日経平均株価が1,130円安と3営業日ぶりに大幅反落しており、9日は売りが先行したあと上げに転じる場面がありました。

8日の米国市場(終値) 終値 前営業日比
ダウ工業株30種平均 52,786.07ドル -628.18(-1.17%)
S&P500種株価指数 7,673.52 -45.08(-0.58%)
ナスダック総合指数 26,421.41 -85.58(-0.32%)
8日の商品市況(終値) 水準 前営業日比
WTI原油先物(10月限) 93.03ドル +1.55(+1.7%)
北海ブレント原油先物 97.92ドル +0.92(+0.9%)
8日のNY為替(終値) 水準
ドル円 153円99銭
ユーロドル 1.1624ドル
8日の東京市場(終値) 終値 前日比
日経平均株価 65,269.33円 -1,130.51(-1.70%)
TOPIX 4,050.33 -75.47(-1.83%)
9日の主な予定(日本時間) 内容 市場予想
8時50分 日本8月マネーストック
10時30分 中国8月消費者物価指数(前年同月比) 0.8%
10時30分 中国8月生産者物価指数(前年同月比) 3.6%
15時00分 日本8月工作機械受注 50.4%
終日 米共和党大会(テキサス州ダラス、10日まで)

何があった?

8日の米国市場を動かしたのは、原油でした。

きっかけは中東情勢の悪化です。財経新聞によると、フーシ派が弾道ミサイルと無人機を使って複数のサウジアラムコの施設と空軍基地を攻撃したと報じられ、女性や子どもを含む73人が負傷し、複数のエネルギー関連施設で火災が発生しました。さらに取引時間中には、イランのカーグ島で爆発音があったとのイランメディアの報道も伝わっています。カーグ島はイランの原油輸出の大半を扱う積み出し拠点で、供給が途絶えるのではないかとの警戒が一気に強まりました。

これを受けて原油相場は上昇しました。米国産標準油種のWTI先物(10月限)は前営業日比1.55ドル(1.7%)高の1バレル=93.03ドル、国際指標の北海ブレント先物は92セント(0.9%)高の97.92ドルで取引を終えています。ブレントは取引時間中に99ドル台をつける場面もあり、心理的な節目とされる100ドルが視野に入りました。

株式市場は、序盤こそハイテク株に支えられてまちまちの動きでしたが、原油高がインフレ再燃につながるとの見方が広がると売りに転じました。長期金利の上昇も重荷となり、終盤にかけて下げ幅を広げています。ダウ平均は628.18ドル(1.17%)安の52,786.07ドル、S&P500種株価指数は45.08ポイント(0.58%)安の7,673.52、ナスダック総合指数は85.58ポイント(0.32%)安の26,421.41で終えました。3指数がそろって続落した形です。

もっとも、中身を見ると一様な下げではありませんでした。セクター別では自動車・自動車部品とエネルギーが上昇し、消費者サービスが下落しています。個別では、アマゾンのクラウド部門AWSとのAI半導体をめぐる提携が伝わったクアルコムが3.18%高、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が5.90%高、インテルが9.05%高と半導体関連の一角が買われました。ベライゾンとの長期供給契約を発表したコーニングが7.56%高、S&P500への採用が決まったブルーム・エナジーが9.63%高となる一方、アップルは1.17%安、アマゾンは0.60%安、メタは0.53%安と大型ハイテクの主力にはさえない銘柄も目立ちました。ナスダックの下げがダウより小さかったのは、半導体関連の堅調さが効いた面があります。

為替市場では、ドル円は方向感の定まらない一日でした。フィスコによると、米財務省による国債買い戻しを見込んだ債券利回りの低下でドル売りが優勢となり153円70銭まで弱含んだあと、カーグ島の爆発報道による原油高で長期金利が上昇に転じるとドル売りが後退し、154円40銭まで上昇。その後153円46銭まで反落し、153円99銭で引けています。米10年債利回りは4.76%から4.81%の範囲で上下する程度で、大きな方向感は出ませんでした。前日まで急ピッチで進んでいた円高は、いったん一服した格好です。

視点を東京に戻すと、8日の日経平均株価は前日比1,130円51銭(1.70%)安の6万5,269円33銭と3営業日ぶりに大幅反落し、安値引けとなりました。TOPIXも75.47ポイント(1.83%)安の4,050.33です。前場には韓国総合株価指数の上昇を受けて半導体株主導で上昇に転じる場面もありましたが、後場に入ると半導体株の上値が重くなり、時間の経過とともに下げ幅を広げました。東証プライム市場では値下がりが1,158銘柄と全体の7割超を占め、値上がりは362銘柄、変わらずが34銘柄。33業種のうち24業種が下落し、ガラス・土石製品、輸送用機器、電気機器、精密機器などが弱く、情報通信と石油・石炭製品が上昇しました。円高進行が輸出関連株の重荷になったと伝えられています。

注目ポイント

9日の東京市場では、原油高をどこまで織り込むかが焦点になりそうです。

日本経済新聞の先読み記事は、中東情勢の悪化による原油高で前日の米株が下げたため主力株に売りが先行しやすいとしつつ、原油高の織り込みが進み円高の進行が一服していることから、下値は限定的とみていました。予想レンジは前日終値を挟んで上下500円程度です。実際の寄り付きは日経平均先物が大阪取引所で180円安の6万5,030円で始まり、現物も売り先行となりましたが、その後は上げに転じる場面がありました。共同通信によると9時15分時点の日経平均は6万5,303円06銭と、前日比33円73銭高で推移しています。支えとなっているのはフィラデルフィア半導体株指数(SOX)の4営業日続伸と、国内長期金利の上昇一服です。

ただし、原油高は日本市場にとって単純な話ではありません。日本は原油をほぼ全量輸入に頼っているため、原油高は輸入コストの増加を通じて多くの企業の負担になり、家計の物価にも波及します。一方で石油関連や資源関連の企業にとっては収益機会にもなります。8日の東京市場で石油・石炭製品が上昇業種に入っていたのは、この構図の表れです。同時に、円高が進めば輸入コストの上昇はいくらか和らぎます。原油と為替のどちらがどれだけ動くかで、企業ごとの損得は変わってきます。

より大きな論点は、原油高が金融政策の見通しを変えるかどうかです。Investing.comによると、8日時点で先物市場は15〜16日のFOMC(連邦公開市場委員会)での0.25%利上げの確率を約60%織り込んでおり、8月の米雇用統計発表前の49%から大きく上昇しました。8月の非農業部門雇用者数が16万2,000人増と市場予想(5万5,000人増)のほぼ3倍だったことに、原油高によるインフレ懸念が重なった形です。UBSは年内に9月と12月の2回、それぞれ0.25%の利上げがあるとの見方に変更したと伝えられています。米国が利上げに動くとの見方が強まれば、日米金利差の観点からは円安方向に働きやすく、足元で進んでいた円高の流れとぶつかることになります。

今週から来週にかけての日程は密です。10日に米8月生産者物価指数(PPI)とECB(欧州中央銀行)理事会、11日に米8月消費者物価指数(CPI)と日本のメジャーSQ(特別清算指数)算出、そして15〜16日に米FOMC、17〜18日に日銀の金融政策決定会合が控えます。とりわけ11日のCPIは、原油高がどの程度物価に効いてきているかを確かめる材料として注目されやすい局面です。

9日そのものの材料としては、10時30分に発表される中国の8月消費者物価指数(市場予想は前年同月比0.8%)と生産者物価指数(同3.6%)があります。中国の需要動向は、素材や機械など日本企業の業績にも関わるため、アジア時間の株価に影響することがあります。15時には日本の8月工作機械受注(予想50.4%)も発表されます。

ひとこと解説

原油高がなぜ株安につながるのかを整理しておきます。原油はガソリンや電気、プラスチック、輸送費など、経済のあらゆる場所にコストとして入り込んでいます。原油が上がると、時間差を伴いながら幅広い物価が押し上げられます。企業にとってはコスト増で利益が圧迫され、家計にとっては可処分所得が目減りします。さらに、中央銀行はインフレを抑えるために金利を高めに保つか、引き上げる必要が出てきます。金利が上がると、企業の借り入れコストが増えるうえ、株式より安全な債券の魅力が相対的に高まるため、株式が売られやすくなります。8日の米国市場で「原油高→インフレ警戒→長期金利上昇→株安」という連鎖が起きたのは、この経路をたどったためです。ただし、エネルギー会社のように原油高が業績にプラスに働く企業もあるため、市場全体が下がっても業種ごとに明暗が分かれるのが通常です。

「カーグ島」がなぜ市場を動かすのかについても触れておきます。カーグ島はペルシャ湾に位置するイランの島で、同国の原油輸出の大半がここから積み出されています。産油国の生産設備そのものだけでなく、輸出のための積み出し拠点や輸送ルートが止まると、実際に世界へ出回る原油の量が減ります。市場が地政学リスクに敏感に反応するのは、「産油国で何かが起きた」こと自体よりも、「供給の細り方がどれくらいになりそうか」を見積もろうとするためです。ホルムズ海峡が繰り返し話題になるのも同じ理由で、世界の海上輸送される原油のかなりの部分がこの狭い海峡を通るためです。実際に供給が止まらなくても、止まる可能性が高まった段階で価格には織り込まれていきます。

CME FedWatchの「織り込み確率」とは何かも知っておくと役に立ちます。これは、米国の政策金利に連動する先物(フェデラルファンド金利先物)の価格から逆算した、市場参加者が予想する利上げ・利下げの確率です。実際にお金を出して取引している投資家の総意を数値化したものなので、エコノミストのアンケートよりも生々しく市場の期待を映すとされます。ただし、あくまで「現時点の市場の見立て」であって予言ではありません。8月の雇用統計発表前に49%だった確率が8日には約60%に変わったように、新しい経済指標や出来事が出るたびに数字は動きます。この確率が大きく変わるタイミングでは、為替や株価も同時に大きく動きやすい点は覚えておきたいところです。

出典