8日の米国株式市場は、レーバーデーによる3連休明けで取引を再開します。休場中も金利と原油が上昇を続け、米10年債利回りは一時4.8%台と2023年10月以来の高水準をつけました。原油は中東情勢の緊迫を背景に一時1バレル98ドル台へ上昇し、この日はカナダによる対米報復関税も発効します。市場関係者の見通しは、原油高と利上げ警戒から軟調とみる声と、3連休明けで手掛かりに乏しく下げ渋るとみる声に分かれています。

前週末4日の米国株(終値) 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 53,414.25ドル -271.86(-0.51%)
S&P500種株価指数 7,718.60 -29.11(-0.38%)
ナスダック総合指数 26,506.99 -77.07(-0.29%)
8日の米金利・商品(執筆時点) 水準 備考
米10年債利回り 4.79%台、一時4.8%超 2023年10月以来の高水準
9月FOMCでの0.25%利上げ織り込み 約58% 市場が見込む確率
WTI原油先物 93.92ドル/バレル(+2.7%)
ブレント原油先物(11月限) 98.64ドル/バレル(+1.7%) 一時98ドル台、約6週間ぶり高値圏
8日発表の米経済指標 結果 前回・予想
8月 NFIB中小企業楽観度指数 98.7 前月99.8、市場予想99.3
8日の為替(ドル円) 水準
東京市場の安値 152円89銭(2月17日以来の安値)
その後の水準 153円50銭台へ持ち直し
欧米時間の予想レンジ(外為どっとコム) 152.000〜155.000円
年初来安値 152円09銭
今週の残りの主な予定(日本時間) 内容
9日(水) 中国8月CPI・PPI
10日(木) 米8月PPI、ECB理事会、オラクル・アドビ決算、アップル新製品イベント(午前2時)
11日(金) 米8月CPI、ミシガン大学9月消費者マインド指数(速報値)、日本メジャーSQ算出
翌週 15〜16日 米FOMC、17〜18日 日銀金融政策決定会合

何があった?

3連休のあいだに、株式市場にとっての前提条件がいくつか動きました。

最も大きいのは金利です。米10年物国債の利回りは8日に4.8%を超え、2023年10月以来の高い水準に達しました。きっかけは前週末4日発表の8月雇用統計で、非農業部門雇用者数が前月比16万2,000人増と市場予想の5万3,000人増を大きく上回り、労働市場の強さが確認されたことです。加えて、8月28日のジャクソンホール会議でウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が「インフレの高止まりや再燃が続くのであれば、金利が解決策の一部になり得る」と述べ、利上げに含みを持たせたことも織り込みを押し上げました。トレーディング・エコノミクスによると、市場が見込む9月FOMC(連邦公開市場委員会)での0.25%利上げの確率は約58%です。現在の政策金利の誘導目標レンジは3.50〜3.75%で、7月のFOMCでは賛成9・反対3で据え置きが決まっていました。

原油も上昇が続いています。ブレント原油の11月限は8日に一時1バレル98ドルを超え、前日比1.7%高の98.64ドル、WTI原油先物も2.7%高の93.92ドルまで水準を切り上げました。背景は中東情勢です。週末にホルムズ海峡でイランのタンカーが攻撃されたことに続き、サウジアラムコの施設も8日に再び攻撃を受けたと伝えられました。イラン側はペルシャ湾全域に海上排除水域を設定すると警告し、ガリバフ国会議長は米国のエネルギー施設が報復対象となり得ると述べています。一方でイランはホルムズ海峡の取り決めをめぐるオマーンとの協議が合意に近いとも表明しており、材料は一方向ではありません。

貿易面では、この日から新しい局面に入ります。カナダ政府が発表していた対米報復関税が8日に発効し、鉄鋼、水産品、農機、乳製品など700品目を超える米国からの輸入品に15〜50%の追加関税が課されます。規模は米国の措置と同等の200億ドル(約3兆2,000億円)相当です。これは、米国がカナダからの輸入品に50%の追加関税を8月22日に発効させたことへの対抗措置にあたります。

為替市場では円高が進みました。ドル円は8日の東京市場で一時152円89銭と2月17日以来の安値をつけ、その後153円50銭台へ持ち直しています。前日に5月と8月の安値である155円を明確に下抜けたことで、テクニカル分析では「三尊天井」と呼ばれる形状が意識され、円買い戻しの流れが続きました。日銀の利上げ加速観測と円安是正の思惑が背景にあります。年初来安値の152円09銭が視野に入る水準です。この円高を受け、8日の東京市場では日経平均株価が1,130円51銭安の6万5,269円33銭と3日ぶりに大幅反落しました。

この日の米経済指標は、8月のNFIB中小企業楽観度指数が98.7と、前月の99.8から低下しました。市場予想の99.3も下回っています。7月は前月比2.4ポイント上昇の99.8と2025年8月以来の高水準でしたが、8月はその勢いが一服した形です。もっとも、水準としては節目の100近辺を保っています。この日は主要企業の決算発表は予定されていません。

注目ポイント

今夜の相場を見るうえでの分かれ目は、金利と原油の上昇がハイテク株にどこまで及ぶかです。

金利上昇が株価、とくに成長期待で買われるハイテク株の重荷になりやすいことは、この夏を通じて繰り返し確認されてきた構図です。原油高も、企業のコスト増と物価指標の押し上げという二重の経路で株式市場に効いてきます。フィスコは、長期金利と原油相場の高止まりがハイテク株の売却圧力になる一方、AI半導体の需要増で業績が拡大する企業には支援材料が残るとして、この日は「下げ渋り」を見込んでいます。外為どっとコムは原油高や地政学リスク、貿易摩擦を挙げて「軟調」との見方です。見通しが割れていること自体が、材料の綱引きが続いている状態を示しています。

半導体セクターの動きは、この綱引きを測る手がかりになります。前週末4日は主要3指数がそろって下落したなかで、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)だけが3.37%高と逆行しました。7日の東京市場ではこれを受けてソフトバンクグループやキオクシアホールディングスなどAI関連が大きく買われましたが、8日の東京市場では円高を受けてキオクシアHDが反落しています。金利上昇という逆風と、AI関連の業績期待という追い風が同じ市場のなかで同時に働いており、指数全体の騰落だけでは相場の中身が見えにくい状態です。

今週の残りの日程は、材料が後半に集中しています。10日には米8月PPI(生産者物価指数)、ECB(欧州中央銀行)理事会、オラクルとアドビの決算が重なります。日本時間10日午前2時にはアップルの新製品発表イベントも予定されており、同社として初の折りたたみ型iPhoneなどが披露されるとの見方が出ています。そして11日には今週最大の焦点である米8月CPI(消費者物価指数)が発表されます。エネルギー価格が上昇しているタイミングでの物価統計であるため、原油高がどの程度指標に反映されているかが確認されることになります。翌週には15〜16日のFOMCと17〜18日の日銀金融政策決定会合が控えており、日米双方の金融政策をめぐる思惑が同時に動く局面が近づいています。

カナダの報復関税については、発効初日の反応を確認しておく価値があります。関税の対象となった品目を扱う企業や、北米でサプライチェーンを組む製造業にとってはコスト面の影響が意識されやすいためです。ただし措置の内容は8月下旬にすでに公表されており、市場がある程度織り込んでいる可能性もあります。発効そのものより、ここから交渉が進むのか、さらに応酬が続くのかという方向感のほうが相場への影響は大きいと考えられます。

ひとこと解説

債券利回りと株価の関係を整理しておきます。国債の利回りが上がるということは、リスクの低い運用でも一定の利回りが得られるようになるということです。すると、相対的に株式の魅力は薄れます。また企業にとっては借り入れのコストが上がり、住宅ローン金利の上昇を通じて個人消費にも影響が及びます。とくに、利益の多くを将来に見込んでいる成長企業の株価は金利の影響を受けやすいとされます。将来の利益を現在の価値に換算する際、金利が高いほど割り引かれる幅が大きくなるためです。米10年債利回りが2023年10月以来の水準まで上昇したことが繰り返し材料視されるのは、こうした仕組みが背景にあります。

「三尊天井」というチャートの形についても触れておきます。相場のチャートで、山が3つ並び、真ん中の山が最も高くなる形を指します。英語では「ヘッド・アンド・ショルダーズ」と呼ばれ、頭と両肩に見立てた名称です。両側の山の谷を結んだ線(ネックライン)を下抜けると、上昇基調から下降基調への転換のサインとして受け取られることがあります。ドル円で155円という水準がこのネックラインにあたるとみられていました。ただし、これはあくまで多くの市場参加者が同じ形を意識することで機能する経験則であり、その通りに動くことを保証するものではありません。テクニカル分析は「そう考えている人が多い」という事実を知るための道具として捉えておくのが実際的です。

報復関税とは何かも確認しておきます。ある国が輸入品に関税をかけたとき、相手国が同じ規模・同じ程度の関税を相手国からの輸入品にかけ返すことを指します。今回であれば、米国がカナダからの輸入品に50%の追加関税をかけたのに対し、カナダが200億ドル相当という同等の規模で15〜50%の関税をかけ返しました。金額を同規模に揃えるのは、報復であることを明確にしつつ、交渉のテーブルで対等な立場を確保する狙いがあるとされます。市場にとっては、両国で取引する企業のコストが上がることが直接の影響ですが、それ以上に「どこまで拡大するか読めない」という不確実性そのものが企業の投資判断を鈍らせる要因になります。関税のニュースを見る際は、対象金額の大きさと同時に、事態が収束に向かっているのか拡大しているのかという方向を見ておくと、相場への影響を捉えやすくなります。

出典