3日の米国株式市場は、前日の取引終了後に決算を発表したハイテク企業への反応が焦点となります。ブロードコムは5〜7月期がAI半導体をけん引役に大幅な増収増益となったものの、次の四半期の売上高見通しが市場予想にわずかに届かず、時間外・寄り付き前の取引で3%安の水準で推移しました。一方、スノーフレイクは23%高と急伸しています。指数先物はほぼ横ばいで、市場の関心は日本時間23時のISM非製造業景況指数と、明日4日の8月米雇用統計に移りつつあります。

3日の米株価指数先物(寄り付き前) 前日比
S&P500種先物 +0.1%
ダウ工業株30種先物 +0.2%
ナスダック100先物 +0.1%
寄り付き前の主な個別株 前日比 材料
スノーフレイク +23% 調整後EPS0.62ドル(予想0.45ドル)、通期の製品売上高見通しを引き上げ
ファイブ・ビロー +4% 調整後EPS1.68ドル(予想1.33ドル)、既存店売上高+14.1%
ブロードコム -3% 11〜1月期売上高見通し348億ドル(予想350.5億ドル)
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE) -3% 決算・見通しは予想超も供給制約が意識される
ウルトラジェニックス・ファーマシューティカル -44% アンジェルマン症候群治療薬候補が後期臨床試験の主要評価項目未達
ブロードコム 5〜7月期(第3四半期)決算 実績
売上高 296億ドル(前年同期比+86%)
調整後EPS 3.32ドル
AI半導体売上高 167億ドル(同+221%)
11〜1月期 売上高見通し 348億ドル(市場予想350.5億ドル)
11〜1月期 AI半導体売上高見通し 217億ドル(前年同期比+236%)
2026年度 AI半導体売上高見通し 580億ドル(前年度比+186%)
3日の主な予定(日本時間) 内容 市場予想 前回
21時30分 米新規失業保険申請件数 20.5万件 20.3万件
21時30分 米7月貿易収支 -745億ドル -733億ドル
22時45分 米8月サービス業PMI確報値 56.8
23時00分 米8月ISM非製造業総合景況指数 54.3 54.1
4日21時30分 米8月雇用統計(非農業部門雇用者数) 5.5万〜5.8万人増

何があった?

前日引け後の決算が、この日の米国市場の出発点になりました。

最も注目されていたのがブロードコムです。5〜7月期の売上高は前年同期比86%増の296億ドル、調整後EPSは3.32ドルで、いずれも市場予想を上回りました。中核となるAI半導体の売上高は167億ドルと前年同期の3倍超(221%増)に膨らんでいます。会社側は2026年度通期のAI半導体売上高を580億ドル(前年度比186%増)と見込み、さらに2027年度に1,150億ドル、2028年度に2,300億ドルという中期の見通しにも言及しました。

それでも株価が下げているのは、直近の四半期見通しが理由です。11〜1月期の売上高見通しは348億ドルで、市場予想の350.5億ドルをわずかに下回りました。差は2億ドル強、率にすれば1%に満たない水準ですが、時間外取引では一時3%程度下落し、その後下げ幅を縮める場面もありました。同社は6月にも、決算自体は好調ながらAI半導体の見通しが予想に届かず株価が下落した経緯があります。AI関連の代表銘柄として期待水準が高く設定されているぶん、わずかな未達でも反応が出やすい状況が続いていることになります。

決算では明暗が分かれました。スノーフレイクは調整後EPSが0.62ドルと市場予想の0.45ドルを上回り、2027年度の製品売上高見通しを58.4億ドルから60.7億ドルへ引き上げたことが好感され、寄り付き前に23%高となりました。ディスカウント小売のファイブ・ビローも調整後EPS1.68ドル(予想1.33ドル)、既存店売上高14.1%増と好調で4%高です。

一方、HPEは調整後EPS1.11ドル(予想0.92ドル)、売上高122.1億ドル(予想119.3億ドル)と予想を上回り、2026年度の調整後EPS見通しも3.75〜3.85ドル(市場予想3.43ドル)へ引き上げましたが、株価は3%安で推移しました。供給制約が続いている点に投資家の関心が向いた形です。ハイテク以外では、ウルトラジェニックス・ファーマシューティカルが44%安と大きく下げています。アンジェルマン症候群を対象とした治療薬候補が後期段階の試験で主要評価項目を達成できなかったと発表したためです。

市場全体の背景としては、原油と金融政策という二つの重しが残っています。ブレント原油は1バレル91ドル近辺で推移しており、ホルムズ海峡をめぐる緊張から商業船舶の通航が滞る状況が続いています。エネルギー価格の上昇はコスト面からのインフレ圧力につながるため、金融政策の見通しと直結します。

その金融政策では、9月16日のFOMCに対する市場の見方が大きく変わってきました。ウォーシュFRB議長がジャクソンホール会議でインフレ対応の継続姿勢を示したことをきっかけに、市場は利上げの可能性を織り込み始めています。CNBCによれば、議長の講演前は据え置き予想が7割近くを占めていましたが、その後は利上げ予想と据え置き予想がほぼ拮抗する状況になりました。予測市場や金利先物が示す9月の25ベーシスポイント利上げ確率は、集計元によっておおむね5割前後で分かれています。

注目ポイント

今夜の直接の焦点は、日本時間23時に発表される8月のISM非製造業総合景況指数です。

前回(7月)は54.1で、市場予想は54.3程度とされています(横ばいの54.1を見込む調査機関もあります)。米GDPの約7割を占めるサービス業の景況感を示す指標で、50を上回れば拡大、下回れば縮小を意味します。前日発表の8月ISM製造業景況指数が54.6と予想の55.2を下回った直後だけに、サービス業でも減速が確認されるかどうかが見どころです。

ヘッドラインの数字だけでなく、内訳にも目を向けたいところです。7月の内訳では、新規受注指数が57.2と6月の55.1から改善した一方、雇用指数は47.4と6月の51.2から低下して50を割り込み、価格指数(仕入価格)は70.3と6月の67.7から上昇していました。つまり「需要は底堅いが、採用は絞られ、コストは上がっている」という組み合わせです。今回もこの構図が続くのか、それとも変化が出るのかは、雇用と物価の両方を見なければならないFRBにとって重要な情報になります。

そして今週最大の材料は、明日4日21時30分に発表される8月の米雇用統計です。外為どっとコムによれば、非農業部門雇用者数の市場予想は5.5万〜5.8万人増、失業率は4.1%程度、平均時給は前月比0.3%上昇が見込まれています。今週は7月のJOLTS求人件数、8月のADP雇用統計と、労働市場に関するデータが2つ続けて予想を下回りました。雇用統計でも同じ方向が確認されるのかが焦点です。

ただし、同記事は「弱い雇用が自動的に利下げを意味するわけではない」という点も指摘しています。労働供給側の制約から雇用増加数の「合格ライン」自体が下がっており、月2万〜5万人程度の増加でも労働市場が安定していると解釈され得るという見方です。失業率が安定し賃金の伸びが続いている限り、FRBが姿勢を変える必然性は乏しい、という整理になります。今回のように利上げの可能性が意識されている局面では、雇用統計の受け止め方も従来とは異なる可能性があります。

為替も動いています。前日のニューヨーク市場でドル円は158円72銭近辺まで下落し、一時158円19銭と約2週間ぶりの安値を付けました。日銀の高田創副総裁が連続的な利上げの可能性に言及したことが円買いの材料となっています。3日の東京市場ではさらに円高が進み、15時40分過ぎには157円20銭付近まで下落しました。市場は9月の日銀会合での25ベーシスポイント利上げをほぼ織り込んでおり、年内のもう1回についても相当程度織り込みが進んでいるとされます。日米双方で利上げ観測が意識されるという、近年ではあまり見られなかった組み合わせになっています。

ひとこと解説

決算で「予想を上回ったのに株価が下がる」のはなぜかを整理しておきます。

株価は、これから企業が生み出す利益の見通しを織り込んで形成されます。したがって決算発表で市場が見るのは、過ぎ去った四半期の実績そのものよりも、次の四半期や通期の見通し(ガイダンス)であることが多くなります。ブロードコムのケースでは、5〜7月期の実績もAI半導体の伸びも申し分ない一方、11〜1月期の売上高見通しが市場予想を1%弱下回りました。この「1%弱」が意味を持つのは、株価にすでに高い成長期待が織り込まれているためです。期待が高いほど、それを維持するために必要な数字のハードルも上がります。

この現象は「材料出尽くし」とも呼ばれます。決算前から good news が織り込まれていた場合、実際に good news が出ても新しい情報にはならず、むしろ見通しのわずかな綻びのほうが新しい情報として価格に反映される、という構図です。HPEが予想を上回り見通しも引き上げながら下げているのも、供給制約という懸念材料のほうが投資家にとって未知の情報だったから、と説明できます。

ISM指数の「50」という基準についても補足します。ISM(全米供給管理協会)の景況指数は、購買担当者に対するアンケートで「前月より改善した/変わらない/悪化した」を尋ね、その回答比率から算出する拡散指数(ディフュージョン・インデックス)です。改善と悪化がちょうど釣り合うと50になります。つまりこの指標が示すのは経済活動の「水準」ではなく「方向」です。54という数字は「拡大している企業のほうがやや多い」という意味であり、経済が54%成長しているわけではありません。

この性質から、ISM指数を読むときは水準そのものより変化の方向と内訳が重要になります。ヘッドラインが54台で安定していても、雇用指数が50を割り込んでいれば「採用は減らしているが事業活動は伸びている」という状態が読み取れますし、価格指数が70台にあれば仕入コストの上昇圧力が強いことがわかります。1つの数字で判断せず、構成項目まで見る癖をつけておくと、指標発表後の市場の反応も理解しやすくなります。

出典