2日の米国市場は主要3指数がそろって4営業日ぶりに反発しました。8月のADP雇用統計が市場予想を下回り、ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁が金利水準について「良い位置にある」と述べたことで米長期金利が低下し、原油の上昇も一服したことが支えとなっています。一方、前日2日の東京市場では日経平均株価が1,889円70銭安と大幅に続落しました。同じ「世界的な金利上昇」という材料に対して、日米の株式市場が正反対の反応を示した形です。3日の東京市場は、米国株の反発と国内金利の高止まりのどちらを重く見るかが焦点になりそうです。

2日の米国市場 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 53,061.95ドル +295.07(+0.56%)
S&P500種株価指数 7,666.60 +35.13(+0.46%)
ナスダック総合指数 26,217.83 +118.05(+0.45%)
ラッセル2000指数 2,953.17 +33.03(+1.1%)
2日の米経済指標 結果 市場予想 前回
8月ADP雇用統計 +3.8万人 +4.7万人 +4.6万人(+4.4万人から上方修正)
2日の原油・金利・為替 水準 前日比
WTI原油先物 90.63ドル近辺 +0.41(+0.45%)
米10年物国債利回り 4.78%→4.76%へ低下 低下
ドル円(NY市場) 始値159円72銭→安値・終値158円22銭 円高方向
ユーロドル(NY終値) 1.1609ドル
2日の東京市場(前営業日) 終値 前日比
日経平均株価 64,325円64銭 -1,889.70(-2.85%、3日続落)
TOPIX 4,081.60 -100.26(-2.40%、10営業日ぶり反落)
3日の主な予定(日本時間) 内容 市場予想
9時30分 日本8月総合PMI / サービス業PMI 53.4 / 52.3
10時45分 中国8月サービス業PMI 50.4
17時00分 ユーロ圏8月サービス業PMI確報値 51.7
21時30分 米新規失業保険申請件数 20.3万件
21時30分 米7月貿易収支 -733億ドル
23時00分 米8月ISM非製造業総合景況指数 54.1
未定 ウォラーFRB理事が討論会に参加

何があった?

2日の米国市場を動かしたのは、金利の一服でした。

きっかけは日本時間21時15分に発表された8月のADP雇用統計です。民間部門の雇用者数は前月比3.8万人の増加にとどまり、市場予想の4.7万人を下回りました。7月分は4.4万人から4.6万人へ上方修正されたものの、そこからは伸びが鈍化しており、財経新聞によれば1月以来の低い伸びとなっています。前日の7月JOLTS求人件数も予想を下回っていたため、労働市場の減速を示すデータが2日続いた形です。

これを受けて米10年物国債利回りは4.78%から4.76%へ低下しました。さらに、ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁がインフレについて「緩やかな鈍化基調」と述べ、現在の金利水準は「良い位置にある」と発言したことも、金利の先高観をいくぶん和らげる材料になりました。前日まで3営業日続いた「原油高から金利上昇、そして株安」という連鎖が、いったん途切れたことになります。

原油も落ち着きました。WTI原油先物は90.63ドル近辺、前日比0.41ドル(0.45%)高で、前日の4.46ドル高という急伸とは様相が異なります。90ドル台という水準そのものは高いままですが、上昇の勢いが鈍ったことが株式には安心材料となりました。

株式では、指数を押し上げたのが大型ハイテク株でした。エヌビディアはAI開発プラットフォームのHugging Faceを140億ドルで買収する交渉が進んでいると報じられ、上昇しています。上昇率については、AP通信が3%超、CNBCが5%近くと伝えており、報道によって幅があります。ダウではジョンソン・エンド・ジョンソンの上昇も指数を支えました。セクター別では半導体・半導体製造装置が上昇した一方、ソフトウェア・サービスは下落しています。個別では、前日に決算を受けて売られたデル・テクノロジーズが、AI向けサーバー需要を背景に通期見通しを引き上げたことで買い直されました。人員削減を含むコスト削減計画が好感されたウーバー・テクノロジーズ、独占禁止法の是正措置で広告部門の売却を回避できるとの見方が広がったアルファベットも上昇しています。

日本時間3日午前3時に公表された米地区連銀経済報告(ベージュブック)も、極端な内容ではありませんでした。全米の経済活動は7月初旬以降「緩やかに拡大」し、特にデータセンター需要が成長を牽引したと報告されています。雇用は「ごくわずかに増加」で、12地区のうち3地区が緩やかな増加、4地区がわずかな増加、5地区が横ばいでした。物価は8地区が緩やかな上昇、2地区が小幅な上昇、1地区がわずかな上昇、1地区が力強い上昇と報告しています。製造業と建設業では投入価格の上昇圧力が目立ち、エネルギー、輸送、金属・石油化学品などの原材料で値上がりの報告が広がりました。先行きの見通しは全体として前向きとされる一方、エネルギー価格の上昇や政策、国際情勢をめぐる不透明感が強まっているとの指摘も併記されています。

対照的だったのが2日の東京市場です。日経平均は1,889円70銭安の6万4,325円64銭と3日続落し、下げ幅は取引時間中に一時2,000円近くまで拡大しました。9日続伸していたTOPIXも100.26ポイント安の4,081.60と10営業日ぶりに反落しています。背景にあるのは国内金利で、新発10年物国債利回りは9月に入って3%台に乗せ、約30年ぶりの高水準となりました。共同通信は、長期金利の上昇が重荷となり、高い成長を見込んで買われてきたハイテク株を中心に売られたと伝えています。原油高も投資家心理を冷やしました。

注目ポイント

3日の東京市場を考えるうえでの軸は、「米国では和らいだ金利上昇圧力が、日本でも和らぐのか」という点です。

2日の日米で起きたことを並べると、構図がはっきりします。米国では雇用指標の弱さと連銀総裁の発言で長期金利が低下し、株が反発しました。日本では国内の長期金利が30年ぶりの高さに達し、株が大幅に下げました。つまり両市場は「金利」という同じ変数に反応しながら、その変数が逆方向に動いたわけです。米国株の反発は東京市場にとって支えになりますが、国内金利が高止まりしたままであれば、その支えは限定的になる可能性があります。まず確認したいのは、3日の債券市場で新発10年債利回りがどのあたりで推移するかです。

もう一つは、前日の下げ幅の大きさそのものをどう受け止めるかです。1,889円安は率にすると2.85%で、水準が6万円台に乗った現在では、金額の大きさほどには過去の急落と比べにくくなっています。ただし9日続伸していたTOPIXが反落し、日経平均・TOPIXがそろって下げたことで、これまで続いていた「日経平均は重いがTOPIXは堅調」という分岐が解消された点は変化です。前日は一部の値がさ株の値動きではなく、市場全体が売られた形でした。反発局面で買い戻しが入る範囲がどこまで広がるかが、地合いを測る手がかりになります。

海外では、日本時間23時に8月のISM非製造業総合景況指数が発表されます。市場予想は54.1、前回は54.3です。米経済の約7割を占めるサービス業の景況感を示す指標で、前日の製造業版(8月分54.6、予想55.2)が予想を下回った直後だけに、サービス業でも減速が確認されるかどうかが注目されます。21時30分には新規失業保険申請件数(予想20.3万件)と7月の貿易収支(予想-733億ドル)も発表されます。ADPが弱かった流れを受け、労働市場に関するデータへの感応度は高くなりやすい状況です。

これらはいずれも、4日(金)に控える8月の米雇用統計に向けた材料という位置づけになります。JOLTS、ADPと続けて予想を下回ったことで、雇用統計に対する市場の見方も修正されつつある可能性があります。加えて、ウォラーFRB理事が討論会に参加する予定で、金融政策に関する発言があれば材料になり得ます。

企業では、ブロードコムが米東部時間2日の取引終了後に2026年5〜7月期決算を発表しました。日本経済新聞によれば、市場予想は売上高が前年同期比83%増の292億4100万ドルで、AI向け半導体の売上高見通しが焦点とされていました。同社は6月にも、決算そのものは増収増益ながらAI半導体の売上高見通しが予想に届かず株価が急落した経緯があります。決算内容への反応は、東京市場の半導体関連にも波及しやすいところです。

ひとこと解説

ADP雇用統計と米雇用統計の違いを整理しておきます。ADP雇用統計は、給与計算代行大手のADP社が自社で処理している給与データをもとに、民間部門の雇用者数の変化を推計したものです。政府統計である雇用統計(非農業部門雇用者数)の2営業日前後に発表されるため、「前哨戦」として注目されます。ただし両者は集計対象が異なり、ADPは政府部門を含まない一方、雇用統計は政府部門も含みます。調査手法も違うため、数字が食い違うことは珍しくありません。ADPが弱くても雇用統計が強い、という展開は過去にも起きています。あくまで方向感を測るための参考値であって、雇用統計の予告ではない、という距離感で見るのが実務的です。

ベージュブックの「地区の数」の読み方にも触れておきます。ベージュブックは全米12の地区連銀が管轄地域の景況感を文章でまとめた報告書で、数値の統計ではありません。そのため「物価は8地区で緩やかに上昇、2地区で小幅上昇」といった形で、いくつの地区がどう報告したかという数え方で整理されます。この形式の利点は、全国平均の数字ではならされてしまう地域差が見えることです。今回であれば、雇用について5地区が「横ばい」と報告している点は、全国の雇用者数が増えているという事実と矛盾しません。地域によって温度差がある、ということを示しています。FRBの政策判断はこうした定性的な情報も踏まえて行われるため、数値指標と併せて読むと理解が深まります。

同じ金利上昇でも日米で意味が違うという点も、この2日間を読み解く鍵です。米国の長期金利上昇は、インフレ懸念と財政不安を背景に「これまで高かった金利がさらに上がる」という文脈で語られています。一方、日本の長期金利が3%台に乗ったことは、長く続いた超低金利からの転換、いわば「金利のある世界」への移行という文脈で語られます。株式市場にとっては、どちらの場合も割引率の上昇を通じて株価の理論値を押し下げる方向に働きますが、日本の場合は加えて、これまで低金利を前提に組み立てられてきた企業の資金調達や家計の住宅ローンといった仕組みが変わっていく過程でもあります。同じ「金利上昇」というニュースでも、それがどの文脈で起きているのかによって、影響が及ぶ範囲と時間軸は変わってきます。

出典