1日の米国市場は主要3指数がそろって3日続落しました。米中央軍がイラン革命防衛隊への攻撃開始を発表したことで原油が急伸し、WTI原油は約1カ月ぶりに1バレル90ドル台へ。一方で8月のISM製造業景況指数と7月のJOLTS求人件数はともに市場予想を下回り、景気の減速と物価の上振れが同時に意識される一日となりました。2日の東京市場は、原油高・金利上昇と米景気指標の弱さという、方向の異なる2つの材料をどう消化するかが焦点になりそうです。

1日の米国市場 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 52,766.88ドル -419.02(-0.79%)
S&P500種株価指数 7,631.47 -54.67(-0.71%)
ナスダック総合指数 26,099.77 -271.12(-1.03%)
ラッセル2000指数 2,920.13 -36.32(-1.2%)
1日の米経済指標 結果 市場予想 前回
8月ISM製造業景況指数 54.6 55.2 55.6
7月JOLTS求人件数 727.1万件 733.2万件 718.2万件
7月建設支出 予想を下回る +0.2%(前月比) -0.1%
1日の原油・金利・為替 水準 前日比
WTI原油先物10月限 90.22ドル +4.46(約1カ月ぶりの高値)
北海ブレント原油先物 +4.6%
米10年物国債利回り 4.79% 上昇
米30年物国債利回り 5.27% 上昇
ドル円(NY市場) 始値159円89銭→高値160円27銭→終値160円20銭 円安方向
ユーロドル(NY終値) 1.1590ドル
1日の主な個別株(米国) 動き 材料
アップル +2.61% 新CEO就任と折りたたみ式iPhoneへの期待
モデルナ +9.91% ワクチン治験の良好な結果
エジソン・インターナショナル +8.93%
デル・テクノロジーズ -6.80% 前日発表の決算を受けて
パロアルトネットワークス -5.24% 決算を受けて
モンゴDB -4.23% 決算を受けて
1日の東京市場(前営業日) 終値 前日比
日経平均株価 66,215円34銭 -96.59(-0.15%)
TOPIX 4,181.86 +25.57(+0.62%、9日続伸)
2日の主な予定(日本時間) 内容 市場予想
10時30分 豪州4〜6月期GDP
11時00分 ニュージーランド中央銀行が政策金利を発表
21時15分 米8月ADP雇用統計 4.8万人
23時00分 米7月製造業受注
27時00分 米地区連銀経済報告(ベージュブック)

何があった?

1日の米国市場を動かした材料は、大きく分けて2つありました。

1つ目は中東情勢です。米中央軍(CENTCOM)がイラン革命防衛隊を標的とした攻撃の開始を発表し、前日から続いていた米・イランの応酬がさらに一段進んだ形になりました。反応が最も鮮明だったのは原油です。ニューヨーク・マーカンタイル取引所のWTI原油先物10月限は前日比4.46ドル高の1バレル90.22ドルで取引を終え、終値としては約1カ月ぶりの高値をつけました。北海ブレント原油も4.6%上昇しています。ホルムズ海峡での供給途絶への警戒が、実際の輸送が止まる前の段階で価格に織り込まれた格好です。

原油高はそのままインフレ懸念に接続し、米10年物国債利回りは4.79%へ上昇しました。これは2025年1月以来の高い水準です。30年物も5.27%と、数十年ぶりの高さの近辺で推移しています。株式にとっては、金利上昇が将来の利益の現在価値を目減りさせるため、成長期待で買われてきた銘柄ほど売られやすくなります。実際、AP通信によれば、この日は指数を押し下げた主役がエヌビディアやアマゾン・ドット・コムといった大型ハイテク株でした。ナスダック総合指数の下落率が1.03%と3指数のなかで最も大きく、ダウの0.79%安、S&P500の0.71%安を上回ったのは、この構図を反映しています。前日(8月31日)はダウの下げが最も大きくナスダックが小幅安にとどまっていたので、売られる場所が1日で入れ替わったことになります。

2つ目は経済指標です。8月のISM製造業景況指数は54.6と、市場予想の55.2や前回(7月)の55.6を下回りました。ただし50は8カ月連続で上回っており、拡大圏そのものは維持しています。7月のJOLTS求人件数は727.1万件で、こちらも予想の733.2万件に届きませんでした。前回の718.2万件からは増えているため、方向としては求人が持ち直しつつも、市場が見込んだほどの強さはなかった、という読み方になります。7月の建設支出も予想を下回りました。

この3つが並んだことで、為替では一度ドル買いが後退しています。フィスコによれば、ドル円は指標発表後に159円89銭まで下げたものの、その後のイラン攻撃報道で原油と金利が上昇したことを受けて反転し、高値160円27銭をつけたあと160円20銭で引けました。前日のニューヨーク終値が159円60銭でしたから、1日を通して見れば再び160円台に乗せたことになります。ユーロドルは1.1590ドルで取引を終えました。

セクター別では、テクノロジー・ハードウェアとエネルギーが上昇した一方、自動車関連が下落しました。個別では、新CEOの就任と折りたたみ式iPhoneの発表への期待からアップルが2.61%上昇。ワクチン治験の良好な結果を発表したモデルナは9.91%高、エジソン・インターナショナルも8.93%高となりました。反対に、前日引け後に決算を発表したデル・テクノロジーズは6.80%安、パロアルトネットワークスは5.24%安、モンゴDBは4.23%安と、決算を受けた売りが目立ちました。エヌビディアは、AI開発企業のアンソロピックやAIクラウド事業者のLambdaとの取引が「循環的な資金の回し方ではないか」との警戒を招き、下落しています。

注目ポイント

2日の東京市場を考えるうえでの軸は、前日と同じく原油高と金利上昇ですが、そこに「米景気指標の弱さ」という新しい要素が加わりました。この2つは株式市場にとって向きが逆になりやすい材料です。原油高と金利上昇は株式の重荷になる一方、景気指標の弱さは中央銀行の引き締め姿勢を和らげる方向に働くため、金利の上昇を抑える理由にもなります。1日の米国市場では前者が優勢でしたが、その綱引きがどちらに傾くかは、この後の指標次第という状況です。

前営業日の東京市場では、日経平均が96円59銭安と続落した一方、TOPIXは25.57ポイント高の4,181.86と9日続伸しました。日経平均の下げは東京エレクトロンとファーストリテイリングの2銘柄だけで約242円分の押し下げがあったとされ、指数寄与度の大きい銘柄の値動きが全体像をゆがめている状態が続いています。「日経平均は重いがTOPIXは堅調」というこの構図が10日目も続くのかは、まず見ておきたい点です。米国でハイテク株が売られた流れが東京の半導体関連にどう波及するかも合わせて確認したいところです。

日本側では、日銀の高田審議委員のあいさつが予定されています。前日には新発10年物国債利回りが一時3.000%と1996年9月以来およそ30年ぶりの水準まで上昇しており、追加利上げに前向きな言及があれば円買いが強まる可能性があると外為どっとコムは指摘しています。逆に慎重な内容であれば、日米金利差を背景としたドル買いが続きやすい、という整理です。ドル円が160円台前半にある局面での発言だけに、内容への関心は高くなりそうです。

海外に目を移すと、今夜は日本時間21時15分に8月のADP雇用統計が発表されます。市場予想は4.8万人です。4日(金)の8月雇用統計に向けた前哨戦という位置づけで、1日のJOLTS求人件数が予想を下回った直後だけに、労働市場の減速が続いているのかどうかが確認されます。23時には7月の製造業受注、日本時間の27時(3日午前3時)にはFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)が公表されます。ベージュブックは全米12地区の景況感を文章でまとめたもので、数値には表れにくい企業の肌感覚が読み取れる資料です。原油高がコストにどう効いているかについての記述があれば、注目される可能性があります。

企業側では、今夜の引け後にブロードコムの決算が控えています。AI関連投資が続いているかを測る材料と位置づけられており、デル・テクノロジーズが決算後に6.80%下げた直後だけに、市場の反応は振れやすくなりそうです。

ひとこと解説

ISM製造業景況指数が「予想より弱いのに拡大圏」とはどういうことかを整理しておきます。この指数は50が拡大と縮小の分かれ目で、8月の54.6は50を大きく上回っています。つまり製造業は依然として拡大していて、それが8カ月続いている、という状態です。それでも「弱い」と受け止められるのは、市場が事前に55.2を織り込んで取引していたためです。株式や為替の値動きを決めるのは絶対水準そのものではなく、あらかじめ織り込まれていた予想との差である、という点は、指標発表のニュースを読むときに押さえておくと理解しやすくなります。「良い数字なのに株が下がった」「悪い数字なのに株が上がった」という現象の多くは、この予想との差で説明されます。

JOLTS求人件数は、米労働省が公表する「求人・労働異動調査」のうち、企業が「今すぐ人を採りたい」と表明している数を集計したものです。労働市場の需要側の強さを示す指標で、失業者1人あたり何件の求人があるかという比率とセットで語られます。今回の7月分は727.1万件で、6月の718.2万件からは増えたものの、予想の733.2万件には届きませんでした。注意したいのは、この統計が約2カ月遅れで出てくる点です。今回発表されたのは7月分で、8月分が分かるのは10月になります。速報性よりも、雇用統計だけでは見えない需給の厚みを確かめるための材料、という位置づけになります。

指数によって下落率が違う理由も、この日の特徴でした。ナスダック総合が1.03%安、ダウが0.79%安、S&P500が0.71%安と、ハイテク比率の高い指数ほど大きく下げています。金利が上昇すると、将来の利益を現在の価値に割り戻すときの割引率が上がります。成長期待で高く評価されている企業ほど、利益の多くが「将来」に置かれているため、割引率の上昇による理論値の目減りが大きくなる、という関係です。だから金利上昇局面ではハイテク株の下げが目立ちやすくなります。同じ「原油高・金利上昇」というニュースでも、指数の中身によって受け止め方が変わるため、1つの指数だけを見て市場全体を判断すると、実際の資金の動きを取り違えることがあります。

出典