28日の米国市場は主要3指数がそろって小幅安となりました。ウォーシュFRB議長のジャクソンホール講演が物価重視のタカ派的な内容と受け止められ、9月の利上げ観測が前日の3割台から5割半ばへ跳ね上がったためです。為替市場ではドル円が7月末の日米協調介入後で初めて160円台に乗せ、31日の東京市場は円安と米金利上昇という相反する材料をにらんだ展開になりそうです。

28日の米国市場 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 53,559.99ドル -9.45(-0.02%)
S&P500種株価指数 7,711.76 -19.23(-0.25%)
ナスダック総合指数 26,402.42 -138.93(-0.52%)
ラッセル2000指数 2,972.37 -41.97(-1.4%)
週間騰落(8月24日〜28日) 前週末比 年初来
ダウ工業株30種平均 +282.98(+0.5%) +11.4%
S&P500種株価指数 +37.39(+0.5%) +12.7%
ナスダック総合指数 +221.97(+0.8%) +13.6%
ラッセル2000指数 -45.50(-1.5%) +19.8%
28日の米金利・為替 水準 前日比
10年物国債利回り 4.72%(4.728%) +0.05%程度
30年物国債利回り 5.21% +0.02%程度
ドル円(NY市場) 高値160円20銭・安値159円41銭 円安方向
ユーロドル 1.1578ドル(終値) ドル高方向
ユーロ円 185円44銭(終値)
9月FOMCの利上げ織り込み 数値
講演後(28日) 57%(別集計では55.7%)
講演前(27日) 35%(別集計では35.7%)
28日の東京市場(前営業日) 終値 前日比
日経平均株価 66,405円56銭 +273.58(+0.41%)
TOPIX 4,146.71 +29.49(+0.72%)
28日の主な個別株(米国) 動き 材料
ペイパル 12%安 アドベント・ストライプ連合が買収断念
マーベル・テクノロジー 7%安 決算は予想超えも失望売り
ギャップ 12.94%高 決算好調・通期見通し引き上げ

何があった?

金曜日の米国市場の主役は、ウォーシュFRB議長のジャクソンホール基調講演でした。議長は「FRBが現時点で最も重視すべきなのは物価だ」と述べ、インフレ率が目標の2%を上回り続けている点に注意を促しました。同時に、米経済の全体的なパフォーマンスは「むしろ強まっているようで感心している」との認識も示しています。景気が底堅いのだから、物価を抑えるために動く余地はある——市場はそう読み取りました。

反応は金利市場に最も鮮明に出ました。CMEのフェドウォッチによる9月FOMCの利上げ織り込みは、講演前の35%程度から57%へ一気に上昇しています(別の集計では35.7%から55.7%)。10年物国債利回りは0.05%ほど上昇して4.72%台、30年物も5.21%へと切り上がりました。ロイターやAP通信の伝えるところでは、エコノミストの間では「短期的に景気に痛みが出るとしても、FRBはインフレを下げるために必要なことをやる」という信認がむしろ強まった、という受け止めが広がっています。

株式市場の下げ幅そのものは限定的でした。S&P500が19.23ポイント安、ナスダック総合指数が138.93ポイント安で、ダウにいたっては9.45ドル安とほぼ横ばいです。ただし小型株で構成されるラッセル2000は1.4%安と、はっきり弱い動きになりました。借入コストの上昇が業績に響きやすい小型株ほど、利上げ観測に対して敏感に反応した格好です。指数の看板だけを見ると「ほぼ変わらず」ですが、中身では金利感応度の差がくっきり出た一日でした。

なお週間で見れば、3指数はいずれも上昇して8月最終週を終えています。週半ばのエヌビディア決算を受けたハイテク株の上昇が効いており、S&P500とダウが0.5%高、ナスダックが0.8%高でした。一方でラッセル2000は週間1.5%安と逆行しています。個別では、買収断念が報じられたペイパルが12%安、決算後に失望売りが出たマーベル・テクノロジーが7%安、決算と通期見通しが好感されたギャップが12.94%高と、木曜から続く材料が引き続き株価を動かしました。

注目ポイント

31日の東京市場を考えるうえで最も大きい変化は、為替です。28日のニューヨーク市場でドル円は一時160円20銭まで円安・ドル高が進み、160円台に乗せました。読売新聞によれば、これは7月末に実施された日米協調による為替介入のあとでは初めての水準です。8月上旬には円買い介入の効果で一時155円台まで円高が進んでいましたが、その効果が薄れるにつれてじわじわと円安方向に戻り、ウォーシュ議長の講演が最後のひと押しになった形になります。大手銀行の市場担当者からは、日本の財政悪化への懸念が強まればさらなる円売りにつながりかねない、との声も出ています。

円安は輸出関連企業の想定為替レートに対する追い風になりやすく、日本株にとっては支援材料と受け止められる場面が多い要素です。ただし今回は、その円安をもたらしているのが米国の利上げ観測であるという点に注意が要ります。米金利の上昇は世界の株式の割高感を意識させやすく、とくに高い成長期待を織り込んだAI・半導体関連には逆風になりやすいためです。円安のプラスと米金利上昇のマイナスがどちらに傾くか——これが31日の東京市場を見るうえでの軸になります。日本経済新聞の週間見通しも、日経平均は上値が重く、様子見姿勢が目立つなかでAI・半導体関連には下値を探る動きもありうる、との見方を伝えています。

日程面では、31日は英国が夏季休日(サマーバンクホリデー)で休場となり、海外勢の売買が細りやすい一日です。同日にはG7・G20財務相・中央銀行総裁会議が開かれるほか、中国の8月製造業・非製造業PMI、ドイツの消費者物価指数(速報値)、米国のダラス連銀製造業活動指数が発表されます。国内では2027年度予算の概算要求が締め切りを迎えます。

そして今週最大の焦点は、9月4日(金)の日本時間21時30分に発表される8月の米雇用統計です。ウォーシュ議長が利上げに含みを持たせた直後だけに、雇用の強弱がそのまま9月FOMCの見方に直結します。その前段として、1日に8月のISM製造業景況指数と7月のJOLTS求人件数、2日にADP雇用統計、3日に8月のISM非製造業景況指数と、労働市場と景況感を測る材料が連日で出てきます。労働市場の減速が示されれば利上げ観測は後退し、逆に堅調さが確認されれば利上げ観測とドル買いがさらに強まる、という構図です。週の前半は様子見が続きやすい一方、指標のたびに為替が振れやすい週になりそうです。

ひとこと解説

**利上げの織り込み(フェドウォッチ)**は、金利先物の価格から逆算した「市場が次の会合での利上げをどのくらいの確率とみているか」を示す数値です。CMEグループが公表しているものが広く参照されており、今回のように一晩で35%から57%へ動くこともあります。これは予言ではなく、あくまで市場参加者の見方の集計値です。ただ、この数値が動くと為替や債券が実際に動くため、結果として株価にも影響します。「講演で何かが決まったわけではないのに相場が動く」のは、この織り込みの変化が実際の取引を伴っているからです。

小型株が金利に弱いとされるのには理由があります。ラッセル2000のような小型株指数の構成企業は、大企業に比べて借入への依存度が高く、変動金利の借り入れを抱えている割合も高い傾向があります。金利が上がれば支払利息が直接増え、利益を圧迫します。加えて、資金調達の選択肢が限られるぶん、金融環境が引き締まる局面では体力差が出やすいとも言われます。28日にダウがほぼ横ばいだった一方でラッセル2000が1.4%安となったのは、この違いが表れたものと説明できます。指数ごとの騰落率の差を見ると、市場が何を警戒しているのかが読み取れることがあります。

為替介入は、通貨当局が外国為替市場で自国通貨を売買し、行き過ぎた変動をならそうとする措置です。日本の場合は財務大臣の権限で行われ、実務は日本銀行が担います。「協調介入」は複数の国の当局が足並みをそろえて実施するもので、単独介入より市場に与える影響が大きいとされます。もっとも、介入は相場の水準そのものを長期に決める力を持つわけではなく、今回のように金利差という根本的な要因が変わらなければ、時間とともに水準が戻っていくことは珍しくありません。介入は「流れを変える」というより「速度を落とす」措置に近い、と説明されることが多いのはこのためです。

出典