11日夜の米国市場は、日本時間21時30分に発表される8月の消費者物価指数(CPI)が最大の焦点です。前日10日に発表された8月の生産者物価指数(PPI)が市場予想を上回ったことで、来週15〜16日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを織り込む動きが強まっており、主要3指数は4営業日続落から下げ止まれるかが試されます。

今夜の主な米経済指標(日本時間) 発表時刻 市場予想 前回
8月消費者物価指数(前年比) 21:30 +3.4% +3.4%
8月消費者物価指数(前月比) 21:30 +0.4% +0.1%
8月コアCPI(前年比) 21:30 +2.4%
8月コアCPI(前月比) 21:30 +0.2%
9月ミシガン大学消費者マインド指数(速報) 23:00 51.0 51.7
8月財政収支 翌3:00 -3,448億ドル
前日10日の米国市場(終値) 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 52,064.10ドル -316.56(-0.60%)
S&P500種株価指数 7,591.70 -44.66(-0.58%)
ナスダック総合指数 26,081.725 -171.615(-0.65%)
11日夕(日本時間)の株価指数先物 水準 前日清算値比
S&P500先物 7,607.75 +9.20
ナスダック100先物 29,095.50 -39.75
NYダウ先物 約130ドル高
直近の金利・商品 水準 備考
米10年債利回り 4.9606% 10日終値、前日比+0.1179%。2023年10月以来の水準
WTI原油先物 99.24ドル 11日アジア時間、前日比-3.24ドル(-3.16%)
金先物 4,370.80ドル 11日アジア時間、前日比-36.50ドル(-0.83%)
9月FOMCの利上げ織り込み(CME FedWatch) 確率
PPI発表前 60.4%
PPI発表後 66.7%

何があった?

前日10日の米国市場は主要3指数がそろって4営業日続落しました。ダウは316ドル56セント安の5万2,064ドル10セント、S&P500種は44.66ポイント安の7,591.70、ナスダック総合は171.615ポイント安の26,081.725で取引を終えています。

下落の背景にあるのは、インフレの粘り強さと原油高です。10日発表の8月PPIは前月比プラス0.4%と5月以来の高い伸びとなり、前年比はプラス5.4%と市場予想のプラス5.3%を上回りました。変動の大きい燃料と食品を除いたコア指数は前月比プラス0.2%(7月はプラス0.3%)、前年比プラス4.6%で予想通りでした。同時に発表された新規失業保険申請件数は20万6,000件(予想20万5,000件)、継続受給者数は177万4,000件(予想178万件)と、労働市場の底堅さを示す内容でした。

これを受けて米10年債利回りは前日比0.1179%上昇の4.9606%と、2023年10月以来の高水準に達しました。5%という節目が視野に入っています。CMEのFedWatchツールでみた9月FOMCでの利上げ確率は、PPI発表前の60.4%から66.7%へと切り上がりました。

原油は中東情勢の緊迫を背景に、10日にWTI先物が前日比6ドル43セント高の1バレル=102ドル48セントまで上昇し、8営業日続伸で約4カ月ぶりの高値を付けました。ただし11日のアジア時間には99ドル24セントまで3.16%下落しており、勢いは一服しています。

引け後に決算を発表したオラクルは、2027年6月期第1四半期の売上高が前年同期比30%増の193億ドル、調整後EPSが1.92ドルと市場予想を上回り、受注残にあたる残存履行義務(RPO)が6,640億ドルに積み上がりました。時間外取引では4%台から7%の上昇が伝えられています。一方、アドビは売上高67億6,000万ドル、非GAAPベースEPS6.13ドルと予想を上回りながら、第4四半期の売上高見通しの中間値が予想をわずかに下回り、時間外では2.14%安となりました。

日本時間11日の東京市場は、この流れを受けて日経平均株価が1,259円61銭安の6万4,011円34銭と大幅反落しています。

注目ポイント

CPIの焦点は「前月比の加速」です。 前年比の市場予想はプラス3.4%と7月から横ばいですが、前月比はプラス0.4%と7月のプラス0.1%から大きく加速する見込みです。前年比が横ばいでも、月次の勢いが戻っていれば、インフレの再加速と受け止められる可能性があります。逆にコア指数の前年比予想はプラス2.4%と、総合の3.4%を1ポイント下回る見通しです。エネルギーと食品が全体を押し上げている構図が続くかどうかが、判断の分かれ目になります。

総合とコアのどちらを重く見るかで解釈が割れやすい局面です。 中央銀行は一般に、一時的な変動を除いたコア指数を基調判断に使います。ただし原油高が長引けば、輸送費などを通じてコアにも波及していきます。今回のPPIでも総合が前年比プラス5.4%、コアがプラス4.6%と差が開いており、同じ構図がCPIでも確認されるかが見どころです。

来週は日米の金融政策決定が重なります。 米FOMCは9月15〜16日。日銀の金融政策決定会合も来週開催され、政策金利を0.25%引き上げる公算が大きいとの見方が市場で優勢です。日米が同じ週に動く可能性があるため、為替市場では一方向に振れにくいとの指摘も出ています。ドル円は10日のニューヨーク市場で153円85銭、11日の東京市場では153円96銭〜154円61銭で推移しました。

23時のミシガン大指数も見逃せません。 9月の消費者マインド指数(速報値)は51.0と、前回の51.7からの小幅低下が予想されています。この調査では同時に消費者の期待インフレ率も公表されます。ガソリン価格の上昇が家計の物価観にどう映っているかを測る材料として、CPIの直後に発表される点でも注目度が高い指標です。

指数の下げ止まりを試す展開です。 11日夕(日本時間)の時点で、S&P500先物は7,607.75と小幅高、ナスダック100先物は29,095.50と軟調、NYダウ先物は130ドル高と、方向感は定まっていません。原油と米金利が落ち着けば下げ渋る余地がある一方、CPIが上振れれば長期金利の一段高を通じてハイテク株を中心に売りが広がりやすい、という両にらみの構図です。なお、この記事はCPI発表の前後に執筆しているため、実際の結果と市場の反応は12日朝の記事でお伝えします。

ひとこと解説

CPIとPPIの違いを整理しておきます。CPI(消費者物価指数)は、消費者が実際に買う商品やサービスの価格を測る指標です。これに対してPPI(生産者物価指数)は、企業が商品やサービスを出荷する段階の価格、いわば「川上」の物価を測ります。原材料費や輸送費の変化はまずPPIに表れ、企業がそれを販売価格に転嫁するのに伴って、遅れてCPIに表れる傾向があります。このため、PPIはCPIの先行指標として見られることがあります。ただし企業が値上げを見送ってコストを自社で吸収すれば、PPIが上がってもCPIには十分に波及しません。その場合はCPIが落ち着く代わりに企業の利益率が圧迫されるため、物価指標としては安心材料でも、株式市場にとっては別の懸念材料になり得ます。「PPIが強いからCPIも強い」と機械的に結びつけられない理由がここにあります。

「前年比」と「前月比」の使い分けも押さえておきましょう。前年比は1年前の同じ月と比べた変化率で、季節による変動の影響を受けにくく、大きな流れをつかむのに向いています。一方で、1年前の数字が特殊な水準だった場合、その影響を1年間引きずるという弱点があります(これを「ベース効果」と呼びます)。前月比は直前の月と比べた変化率で、足元の勢いを測るのに向いていますが、月ごとのブレが大きくなります。今回のように前年比の予想が横ばいでも前月比が大きく加速するケースでは、「水準は変わらないが勢いは戻っている」という読み方になります。市場が短期的に反応するのは前月比のほうであることが多い、という点も知っておくと、発表直後の値動きが理解しやすくなります。

CME FedWatchツールの「確率」が何を表しているのかにも触れておきます。これはシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)が、フェデラルファンド(FF)金利先物の価格から逆算して公表している指標です。FF金利先物は、将来のある時点での政策金利の水準を売買する商品なので、その価格には市場参加者が予想する金利の水準が織り込まれています。そこから「次回会合で0.25%引き上げられる確率は何%か」を計算したものがFedWatchの数字です。つまりこれは、誰かの予測でも中央銀行の予告でもなく、市場が価格でどう見ているかの集計値です。実際の決定と食い違うことは珍しくありませんし、指標発表のたびに大きく動きます。確率が66.7%に上がったという事実は「市場の身構え方が変わった」ことを示すもので、利上げが決まったことを意味するわけではありません。数字が高いときほど、予想外の結果が出たときの値動きが大きくなりやすい、という見方もできます。


出典