3日の米国市場は主要3指数がそろって続伸しました。ウォラーFRB理事が、今後のインフレ指標が落ち着いていれば9月の会合で金利を据え置くことを支持すると述べ、年内の利上げリスクが後退したことが背景です。米10年債利回りは4.75%近辺まで低下しました。一方、外国為替市場では日銀の利上げ観測を背景に円が急騰し、1日で4円上昇して1カ月ぶりの155円台をつけています。米国株高と急速な円高という、東京市場にとって方向の異なる2つの材料が並んだ形です。今夜21時30分には8月の米雇用統計が発表されます。

3日の米国市場 終値 前日比
ダウ工業株30種平均 53,686.11ドル +624.16(+1.18%)
S&P500種株価指数 7,747.71 +81.11(+1.06%)
ナスダック総合指数 26,584.06 +366.23(+1.40%)
ラッセル2000指数 2,968.27 +15.10(+0.51%)
3日の米経済指標 結果 市場予想 前回
8月ISM非製造業総合景況指数 55.4 54.1 54.1
新規失業保険申請件数(8月29日までの週) 20.6万件 20.5万件 20.4万件(改定)
7月貿易収支 -886億ドル -712億ドル(6月)
8月サービス業PMI確報値 56.5 56.8 56.8(速報)
8月総合PMI確報値 56.0 56.1 56.0(速報)
3日の金利・為替・原油 水準 前日比
米10年物国債利回り 4.75%近辺へ低下 低下
ドル円(NY終値) 155円77銭(一時155円30銭) 円高方向、1日で約4円上昇
ユーロドル(NY終値) 1.1627ドル
WTI原油先物(10月限) 91.83ドル +0.82(+0.90%)
3日の東京市場(前営業日) 終値 前日比
日経平均株価 64,214.48円 -111.16(-0.17%、4日続落)
TOPIX 4,102.04 +20.44(+0.50%、反発)
4日の主な予定(日本時間) 内容 市場予想
8時30分 日本7月家計支出 -1.7%
15時00分 ドイツ7月製造業受注 +3.1%
18時00分 ユーロ圏7月小売売上高 +0.7%
21時30分 カナダ8月失業率 6.4%
21時30分 米8月非農業部門雇用者数 +5.5万人
21時30分 米8月失業率 4.1%
21時30分 米8月平均時給 +0.3%
未定 イングランド銀行総裁の講演

何があった?

3日の米国市場を動かしたのは、FRB高官の発言でした。

ウォラーFRB理事は、今後2週間に入ってくるデータがインフレの鈍化を示し続けるなら、9月15〜16日のFOMC(連邦公開市場委員会)でフェデラルファンド金利を現行の3.50〜3.75%に据え置くことを支持すると述べました。同時に「インフレが強く出れば利上げを検討する」とも付け加えており、判断はデータ次第という立場です。8月の消費者物価指数(CPI)は9月11日に発表される予定で、これが分岐点になると示唆した形になります。

この発言を受け、市場が織り込む9月会合での利上げ確率は前日の63.2%から50.4%へ低下しました。米10年債利回りは4.75%近辺まで下げ、2023年11月以来の高水準からいったん後退しています。金利低下を追い風に、主要3指数はそろって1%を超える上昇となりました。

文脈として押さえておきたいのは、8月28日のジャクソンホール会議でウォーシュFRB議長が、基調的なインフレが明確に改善しなければより高い金利が必要になり得るとタカ派的な姿勢を示していた点です。今回のウォラー理事の発言は、それに比べると条件付きで柔らかいトーンでした。市場が強く反応したのは、この温度差によるところが大きいと考えられます。

同日発表の経済指標は、強弱が入り混じりました。8月のISM非製造業総合景況指数は55.4と、市場予想の54.1に反して7月の54.1から上昇し、2月以来の高水準となっています。ただし内訳では仕入れ価格の項目が上昇した一方、雇用の項目は予想外に低下しました。新規失業保険申請件数は20.6万件と予想を1,000件上回りましたが、4週移動平均は20万7,250件で、労働市場は総じて安定した水準にとどまっています。

7月の貿易収支は赤字が886億ドルと、6月の712億ドルから174億ドル拡大し、16カ月ぶりの大きさになりました。輸入の増加が主因で、コンピューターや同関連機器、半導体を合わせた輸入額が6月比で140億ドル増えています。AI関連の設備投資が輸入という形で数字に表れた格好です。

個別では、前日に決算を発表した銘柄への反応が分かれました。スノーフレイクは決算と見通しが市場予想を上回り20%超の上昇。一方、ブロードコムは11〜1月期の売上高見通しが市場予想にわずかに届かず、4%安となりました。

日本に関わる大きな動きは、為替でした。3日の外国為替市場で円は急騰し、一時1ドル=155円台と8月3日以来約1カ月ぶりの円高・ドル安水準をつけました。1日での上げ幅は約4円に達しています。日本経済新聞は、日銀による利上げ加速の思惑と、ベッセント米財務長官の発言をきっかけに広がった円安是正への思惑を要因として挙げています。ベッセント長官は8月末以降、日本政府と日銀が円高につながる行動を取ると考えていると繰り返し述べており、9月の日銀の利上げに強い期待を示していました。日銀の金融政策決定会合は9月17〜18日に開かれます。

注目ポイント

4日の東京市場は、「米国株高」と「急速な円高」という向きの異なる2つの材料をどう消化するかが焦点になります。

前日3日の東京市場では、日経平均が111円16銭安の6万4,214円48銭と小幅に4日続落する一方、TOPIXは20.44ポイント高の4,102.04と反発しました。指数の方向が分かれた背景の一つが円高で、輸出関連の比重が大きい日経平均には重荷になりやすい構図です。3日の海外市場でさらに円が買われたことを踏まえると、米国株高がそのまま日経平均の上昇につながるとは限りません。輸出関連と内需関連で反応が分かれるかどうかが、一つの見どころになります。

円高の背景にある日銀の利上げ観測も、株式市場にとっては両面性があります。金利上昇は一般に株式の割引率を押し上げる方向に働きますが、銀行など金利の上昇が収益にプラスに働きやすい業種もあります。前日にTOPIXが反発した際も、商社や銀行株に買いが入ったと伝えられています。日経平均とTOPIXの動きの差は、こうした業種構成の違いを映していると考えると理解しやすくなります。

そして今週最大の材料が、日本時間4日21時30分の8月米雇用統計です。市場予想は非農業部門雇用者数が5.5万人増、失業率が4.1%、平均時給が前月比0.3%上昇となっています。7月分は2.3万人の減少と5カ月ぶりのマイナスで市場予想(8.0万人増)を大きく下回ったため、今回は持ち直しが見込まれている形です。

今週はJOLTS求人件数、ADP雇用統計と労働市場に関するデータが続けて予想を下回っており、雇用統計に対する見方も揺れやすくなっています。ウォラー理事が「今後のデータ次第」と述べた直後だけに、この結果は9月のFOMCに向けた織り込みを大きく動かす可能性があります。ただし、ウォラー理事自身が判断の鍵として名指ししたのは9月11日の8月CPIであり、雇用統計だけで方向が決まるわけではない点も押さえておきたいところです。

ひとこと解説

「利上げ確率」の数字が何を意味するかを整理しておきます。「9月会合の利上げ確率が63.2%から50.4%に低下した」といった数字は、フェデラルファンド金利先物という金融商品の価格から逆算して導かれます。市場参加者が実際にお金を投じて取引している価格から算出されるため、アンケート調査よりも市場の本音に近いとされます。ただしこれは予測の的中率ではなく、あくまで「現時点で市場がどれくらい織り込んでいるか」を示す数値です。50%前後というのは、市場の見方が真っ二つに割れている状態を意味します。こういう局面では、指標の結果次第で相場が大きく振れやすくなります。

貿易赤字の拡大は必ずしも悪材料ではないという点にも触れておきます。7月の米貿易赤字が886億ドルへ拡大した主因は、輸出の減少ではなく輸入の増加でした。しかも増えたのはコンピューターや半導体といった技術関連の財です。企業がデータセンターやAI関連の設備を積極的に調達していることの裏返しとも読めます。貿易収支はGDPの計算上、赤字の拡大が成長率のマイナス要因として計上されますが、その中身が設備投資につながる資本財であれば、将来の生産能力を高める投資でもあります。数字の符号だけでなく、何が増えて何が減ったのかを見る必要がある、という一例です。

日銀の利上げと為替の関係についても整理しておきます。一般に、ある国の金利が上がるとその国の通貨は買われやすくなります。金利の高い通貨で運用したほうが有利になるためです。現在の局面では、日本の政策金利が引き上げられるとの見方が広がったことで円が買われました。注意したいのは、実際に利上げが行われる前の段階で為替が動いている点です。市場は将来の政策変更を前もって織り込みにいくため、決定が発表された時点では「材料出尽くし」として逆方向に動くこともあります。「観測で動き、決定で戻る」というパターンは為替市場でよく見られる現象で、今月の日銀会合に向けても意識しておきたい点です。

出典