今週(8月17日〜21日)の東京株式市場を振り返ります。相場を動かしたのは企業業績でも景気指標でもなく、債券市場でした。米30年債利回りが2007年以来の水準に上昇し、日本の新発10年物国債利回りも1996年9月以来の水準を付けたことで、株式には週を通じて売り圧力がかかりました。日経平均株価は18日・19日の2営業日で計3,893円83銭下げたあと20日に反発しましたが、週間では3週ぶりのマイナスとなっています。週末21日の米国市場では8月のサービス業PMIが20カ月ぶりの高水準に跳ね上がり、主要3指数はそろって反発して1週間を終えました。まずは数字から見ていきます。

日付 日経平均終値 前営業日比 TOPIX終値 前営業日比
8/17(月) 69,220.25円 +506.45(+0.74%) 4,184.11 -13.09(-0.31%)
8/18(火) 67,460.73円 -1,759.52(-2.54%) 4,140.22 -43.89(-1.05%)
8/19(水) 65,326.42円 -2,134.31(-3.16%) 4,012.31 -127.91(-3.09%)
8/20(木) 66,216.79円 +890.37(+1.36%) 4,059.73 +47.42(+1.18%)
8/21(金) 66,016.36円 -200.43(-0.30%) 4,067.29 +7.56(+0.19%)

週間では、日経平均は前週末(8月14日)の終値68,713円80銭から**2,697円44銭安い66,016円36銭(-3.93%)で1週間を終え、2週続いた上昇が止まりました。TOPIX(東証株価指数)も4,197.20から4,067.29へ129.91ポイント安(-3.10%)**です。

米国市場の週間騰落 8月14日終値 8月21日終値 週間の変化
NYダウ工業株30種 53,732.41ドル 53,277.01ドル -455.40(-0.85%)
S&P500種株価指数 7,785.76 7,674.37 -111.39(-1.43%)
ナスダック総合指数 26,729.16 26,180.46 -548.70(-2.05%)
週末(8月21日)の米国市場 終値 前日比
NYダウ工業株30種 53,277.01ドル +517.80(+0.98%)
S&P500種株価指数 7,674.37 +33.21(+0.43%)
ナスダック総合指数 26,180.46 +113.29(+0.43%)
今週の主な経済指標 結果 市場予想 前回
日本 4〜6月期実質GDP速報(8/17) 年率+1.1%
米 新規失業保険申請件数(8/20) 20.6万件 21.0万件
米 8月フィラデルフィア連銀製造業景況指数(8/20) +47.4 +25.0
日本 7月全国CPI・総合(8/21) +1.9% +1.6%
同・コアCPI(生鮮食品を除く) +1.8% +1.8% +1.6%
同・コアコア(生鮮食品・エネルギーを除く) +1.9% +1.7%
米 8月S&Pグローバル総合PMI速報(8/21) 56.0 54.0 54.5
同・サービス業PMI 56.8 53.9
同・製造業PMI 53.2 53.7 53.9
金利・為替 水準 備考
米10年債利回り(8月22日5時49分時点) 4.733% 前日比+0.025
米30年債利回り(同) 5.272% 前日比+0.021
米30年債利回り(8月17日) 5.31% 2007年以来の高水準
日本 新発10年物国債利回り(8月18日) 一時2.945% 1996年9月以来の水準
同(8月21日) 一時2.885% 15時19分時点は2.875%
ドル円(8月21日・東京市場) 159円台前半 週を通じて158〜159円台

何があった?

17日(月)は506円45銭高で5日続伸したものの、市場の中身はすでに割れていました。 朝方発表された4〜6月期の実質GDP速報値は年率1.1%増と3四半期連続のプラスながら民間予測には届かず、午前中の日経平均はほぼ横ばいで推移しました。後場にAI・半導体関連への買いが強まって上げ幅を広げましたが、TOPIXは9営業日ぶりに反落し、値下がり銘柄が全体の57%を占めています。指数は上がり、市場全体は下げるという「ねじれ」が出た一日でした。この日の米債券市場では30年債利回りが5.31%と2007年以来の水準を付けています。

18日(火)は1,759円52銭安と6日ぶりに大幅反落しました。 中東情勢を巡る不透明感と日米の長期金利上昇を背景に、値がさの半導体関連が集中的に売られました。ただしTOPIXの下落率は1.05%にとどまり、日経平均の2.54%安との差がはっきり出ています。国内では新発10年物国債利回りが一時2.945%と、1996年9月以来の水準まで上昇しました。

19日(水)は2,134円31銭安と続落し、今週の下げの中心となりました。 下げ幅は一時2,300円を超えています。前日と違ってTOPIXも3.09%安と、幅広い銘柄が売られる全面安の展開でした。前引け時点で東証プライムの値下がり銘柄は1,282と全体の8割強を占めています。この日の夜(日本時間20日午前3時)に公表された7月28〜29日のFOMC議事要旨では、多くの参加者が「インフレの低下が進まなければ追加の引き締めが必要になる」との認識を示し、一部は同会合での利上げが望ましいとしていたことが明らかになりました。政策金利は3.50〜3.75%に据え置かれています。市場はこの内容を「警戒したほどタカ派ではない」と受け止め、米国株はこの日反発しました。

20日(木)は890円37銭高と3日ぶりに反発しました。 米財務省が長期国債の買い戻し(バイバック)規模を1回あたり20億ドルから少なくとも40億ドルへ倍増させると表明し、日米の長期金利が低下したことが直接のきっかけです。売られすぎた銘柄に買い戻しが広がり、TOPIXも1.18%高となりました。ところが同じ日の米国市場では10年債利回りが再び上昇に転じ、ダウは703ドル84セント安と大幅反落しています。ウォルマートの2027年1月期第2四半期決算が、売上高・調整後EPSこそ予想を上回ったものの米国の既存店売上高と通期の利益見通しで市場予想に届かず、株価は9.15%安と急落して消費関連株を巻き込みました。

21日(金)は200円43銭安で反落しましたが、TOPIXは続伸しました。 東証プライムの値上がり銘柄は883と値下がりの622を上回っており、ファーストリテイリングなど一部の値がさ株の下げが日経平均を押し下げた構図です。朝方発表された7月の全国CPIはコアが前年比1.8%上昇と前月の1.6%から伸びが拡大し、2カ月連続の加速となりました。エネルギーは前月の0.4%下落から0.6%上昇へ転じており、足元の原油高が国内の物価にも表れ始めています。

そして21日夜、米国では「サービス業の強さ」が確認されました。 8月のS&Pグローバル総合PMI速報値は56.0と、前月の54.5と市場予想の54.0を上回り、2022年4月以来の高水準を記録しました。牽引したのはサービス業PMIの56.8で、こちらは20カ月ぶりの高水準です。一方の製造業PMIは53.2と前月の53.9から低下しました。主要3指数はそろって反発したものの、午後には長期金利の上昇が重荷となり、上げ幅を削る場面もありました。10年債利回りは4.733%、30年債は5.272%と、いずれも前日から上昇して週を終えています。

注目ポイント

  • 今週は「株の物語」ではなく「債券の物語」でした。 決算はほぼ一巡し、景気指標もフィラデルフィア連銀の+47.4のように強い数字が並びました。それでも株価が下げたのは、材料の良し悪しではなく、金利の水準そのものが株式の重荷になったからです。米30年債の5.3%台は2007年以来、日本の10年債の2.9%台は1996年以来の水準にあたります。「金利が上がると株が下がる」という関係が、今週はきわめて素直に表れました。

  • 日経平均とTOPIXの差が、週の前半と後半で入れ替わりました。 18日は日経平均が2.54%安に対しTOPIXが1.05%安と、下げが半導体の値がさ株に偏っていました。ところが19日はTOPIXも3.09%安と全面安になり、21日には逆に日経平均だけが下げてTOPIXは上昇しています。同じ週のなかで「指数だけが下げる日」と「市場全体が下げる日」が混在した形です。指数の数字だけでは市場の体温は測れないという典型例で、騰落銘柄数を併せて見る意味がよく分かる1週間でした。

  • 20日の反発が続かなかった理由は、政策の規模感にあります。 米財務省の買い戻し倍増は日本時間20日の東京市場では素直に好感されましたが、同日の米国市場では10年債・30年債の利回りがそろって元の水準に戻りました。連邦政府の債務規模に対して1回あたり40億ドルという買い戻しは限定的だと市場が受け止めた格好です。政策が発表されたかどうかより、「規模が問題の大きさに見合っているか」が試される場面でした。

  • 金曜のPMIは、株にとって素直な好材料とは言い切れません。 サービス業の56.8は景気の強さを示す数字で、株価は反発しました。しかし同時に、景気が強ければFRB(米連邦準備理事会)の追加引き締め観測は消えにくく、長期金利は下がりにくくなります。実際に21日は3指数が上昇しながら10年債・30年債の利回りも上昇しました。7月のFOMC議事要旨で「インフレが下がらなければ追加の引き締めが必要」との認識が多数だったことを踏まえると、今後は強い指標が出るたびにこの二面性が意識されやすい局面です。

  • 国内では物価と金利が同じ方向を向いています。 7月のコアCPIは1.8%とまだ2%を下回りますが、2カ月連続で加速し、エネルギーがマイナスからプラスへ転じました。原油高、円安(158〜159円台)、物価上昇という三つが同じ方向に並んでおり、長期金利が1996年以来の水準にあることと無関係ではありません。ただし、これらはあくまで市場が織り込んだ動きであって、日銀が政策方針を決めたわけではない点は区別しておく必要があります。

  • 来週は今週とは性質の違う週になります。 26日にエヌビディアとセールスフォースの決算、同じ26日にFRBが最も重視する7月のPCEデフレーター、27〜29日にはジャクソンホール会議が控えます。株探は来週の相場について「エヌビディア」と「ジャクソンホール」に視線が集中すると伝えており、ザイ・オンラインは日経平均の予想レンジを6万3000〜6万8000円としています。今週が債券主導だったのに対し、来週はAI関連の業績と金融政策の言葉が同時に試される日程です。

ひとこと解説

今週いちばん重要だった数字は、株価ではなく30年債利回りでした。5.31%、5.27%という値が何を意味するのか、少し丁寧に見ておきます。

国債の利回りとは、その国債を今の価格で買って満期まで持ったときに得られる、年あたりの収益率のことです。国債の価格と利回りは必ず逆に動きます。国債が売られて価格が下がれば、同じ利息をより安く買えることになるので利回りは上がる。今週起きていたのは、まさに「長い年限の国債が売られた」ということでした。

ではなぜ、それが株価を押し下げるのか。理由は大きく二つあります。

ひとつは比較の問題です。30年債の利回りが5%を超えるということは、国が発行する債券を持っているだけで年5%以上が見込める状態を意味します。株式はそれより高いリターンが期待できる代わりに、価格が上下する不確実性を抱えています。安全とされる資産の利回りが上がるほど、リスクを取って株式を持つ理由は相対的に薄れます。資金が株式から債券へ移りやすくなる、というのがひとつめの経路です。

もうひとつは将来の価値を割り引く計算の問題です。株価の理論的な考え方では、企業が将来生み出す利益を「今の価値」に換算して合計します。このとき、遠い将来の利益ほど金利で割り引かれて小さくなります。金利が上がると割引が強くなるため、理論上の株価は下がる。特に、利益の多くが遠い将来にあると見込まれる成長株ほど影響が大きく出ます。今週18日にAI・半導体関連が集中的に売られたのは、この構造で説明されることが多い現象です。

そして今週の特徴は、下げが長い年限に偏っていた点にあります。2年債のような短い年限は主に「これから数回の金融政策」を映しますが、30年債は財政の持続性や、何十年という時間軸でのインフレ期待を映します。政府支出の拡大、長期債の発行増、そして目標を上回り続けるインフレ。この三つが重なると、投資家は長い期間お金を貸すことへの上乗せ報酬をより多く求めます。この上乗せ分を専門用語でタームプレミアムと呼びます。今週の30年債売りは、金融政策の予想が変わったからというより、このタームプレミアムが厚くなったことの表れと説明されています。

読むときのコツを二つ。ひとつは、10年債と30年債を分けて見ること。両方が同じだけ上がっているなら金融政策の予想が変わった可能性が高く、30年債だけが強く上がっているなら財政や超長期のインフレへの警戒が主因である可能性が高い、という見分け方ができます。今週は後者の色が濃い週でした。

もうひとつは、日本の長期金利も同じ枠組みで読めるということです。新発10年物国債利回りが1996年9月以来の2.9%台に乗ったことは、日本でも「長くお金を貸すことの対価」が四半世紀ぶりの水準に戻ったことを意味します。住宅ローンの固定金利や企業の資金調達コストにつながる数字でもあり、株式市場だけの話では終わりません。株価の値動きに目が行きがちな週ほど、債券のほうを一度見ておく。今週はその習慣が役に立つ、教科書のような1週間でした。


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