日本時間7日21時30分に発表された米国の7月雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比2万3000人の減少となり、8万人程度の増加という市場予想に対して予想外のマイナスに転じました。失業率は4.1%へ低下しましたが、これは働く人が増えたためではなく労働参加率の低下によるものです。今夜22時30分に始まる米国市場は、この結果を受けて9月の利上げ観測がどう修正されるかを織り込みにいく展開になります。
| 米7月雇用統計(8月7日発表) | 結果 | 市場予想 | 前月 |
|---|---|---|---|
| 非農業部門雇用者数 | -2.3万人 | +8.0万人 | +2.0万人(+5.7万人から下方修正) |
| 失業率 | 4.1% | 4.2% | 4.2% |
| 平均時給(前月比) | +0.1% | +0.3% | +0.3% |
| 平均時給(前年同月比) | +3.2% | +3.5% | +3.4%(+3.5%から修正) |
| 労働参加率 | 61.4% | — | 61.5% |
| 前日(8月6日)の米国市場 | 終値 | 前日比 |
|---|---|---|
| NYダウ工業株30種 | 53,885.10ドル | -464.02(-0.85%) |
| ナスダック総合 | 26,348.35 | -15.09(-0.06%) |
| WTI原油先物9月限 | 77.68ドル | +2.46(+3.27%) |
| 為替(7日21時50分ごろ) | 水準 |
|---|---|
| ドル円 | 157円30銭前後(前日比 約1円13銭の円高) |
| 当日高値 | 158円57銭 |
何があった?
雇用者数が減少に転じた — 7月の非農業部門雇用者数は2万3000人の減少でした。市場予想は8万人増(調査によっては8万5000人増)で、増加が続くとの見方が大勢だっただけに、方向そのものが逆になった形です。さらに前月6月分も当初発表の5万7000人増から2万人増へと大きく下方修正されました。雇用の増勢が、事前に思われていたよりも弱かったことになります。
失業率の低下は「良いニュース」とは言い切れない — 失業率は前月の4.2%から4.1%へ低下しました。数字だけ見れば改善ですが、同時に労働参加率が61.5%から61.4%へ下がっています。職探しをやめた人は統計上「失業者」に数えられないため、働く意欲を持つ人が労働市場から抜けると、雇用が増えていなくても失業率は下がります。今回はこの経路による低下とみられ、内容は額面ほど強くありません。
賃金の伸びも鈍化した — 平均時給は前月比0.1%上昇にとどまり、予想の0.3%を下回りました。前年同月比も3.2%と、予想の3.5%、前月の3.4%から鈍化しています。賃金がインフレを押し上げる圧力は、少なくとも7月時点では弱まったことを示す内容です。
前日6日の米国市場は6営業日ぶりに反落していた — NYダウは464ドル02セント安の5万3885ドル10セントと、連日の最高値更新が途切れました。米国とイランの協議をめぐる不透明感からWTI原油先物が3.27%上昇したことに加え、FRBのクック理事が利上げを支持する意向を示したと伝えられ、早期利上げ観測が重荷になりました。ナスダック総合も15.09ポイント安と小幅に下げています。
東京市場は今夜の結果を待つ形だった — 7日の日経平均株価は76円55銭安の6万5606円71銭と小幅続落、TOPIXは19.08ポイント高と続伸しました。ドル円は東京時間に158円57銭付近まで上昇したあと158円台前半でもみ合い、統計待ちの膠着が続いていましたが、発表後は157円30銭前後まで円高方向に振れています。
注目ポイント
9月の利上げ観測がどこまで後退するか — 発表前の時点で、市場が織り込む9月の利上げ確率は54.7%、据え置きが45.3%とほぼ拮抗していました。雇用の減少と賃金の鈍化はいずれも利上げを急ぐ理由を弱める方向のデータです。今夜の米金利がどこまで低下するかが、株式・為替の両方の出発点になります。
米国株にとっては二面性のある材料 — 金利の上昇圧力が和らぐ点は株式の支えになりますが、雇用者数の減少そのものは景気の減速を示す材料でもあります。今夜の米国市場が「利上げ観測の後退」と「景気の弱さ」のどちらに重心を置くかで、指数とセクターの動きが分かれる可能性があります。
為替は約40年ぶりの円安水準からの反応 — 7月に米国とイランの停戦合意が事実上破綻してエネルギー価格が急騰し、米国のインフレ加速観測からドルが買われて、ドル円は約40年ぶりの円安水準をつけていました。この前提が変わるかどうかは、週明けの東京市場にも直結します。
金融政策をめぐる発言にも注意 — 発表直前の21時10分には、トランプ大統領が中間選挙前の利上げについて「多少はウォーシュ議長次第ということになるが、完全にそうとは限らない」「委員会次第だ」と述べたと伝えられました。統計と要人発言が同じ時間帯に重なっており、値動きの理由が入り混じりやすい局面です。
決算発表も続いている — 今夜はエアビーアンドビー、アンダーアーマー、トゥイリオ、ドキシミティなどの決算が伝わっています。指数全体は雇用統計に反応する一方、個別株は決算内容で大きく動く地合いが続いています。
ひとこと解説
今回のように雇用者数は減ったのに失業率は下がったという結果は、一見すると矛盾して見えます。なぜこんなことが起きるのでしょうか。
答えは、米雇用統計が2つの別々の調査からできていることにあります。
ひとつは事業所調査です。企業や役所に「先月は何人雇っていましたか」と聞いて集計するもので、ニュースの見出しになる非農業部門雇用者数はここから出てきます。今回の2万3000人減はこちらの数字です。
もうひとつは家計調査で、こちらは世帯に「働いていますか」「仕事を探していますか」と聞きます。失業率はこの調査から計算されます。
ここで大事なのが、失業率の定義です。失業率は「失業者 ÷ 労働力人口」で求めますが、この失業者に数えられるのは、仕事がなく、かつ実際に職探しをしている人だけです。求職活動をやめてしまった人は、失業者でも労働力人口でもなくなり、統計の分子からも分母からも消えます。
つまり、職探しをあきらめる人が増えると、雇用がまったく増えていなくても失業率は下がります。今回、労働参加率(働く意思のある人が人口に占める割合)が61.5%から61.4%へ下がったことは、まさにこの動きが起きていたことを示しています。
だから市場は、失業率の数字そのものよりも中身を見ます。失業率の低下が「就職が決まった人が増えたから」なのか「探すのをやめた人が増えたから」なのかで、意味は正反対になるからです。前者なら労働市場は強く、後者なら弱い。今回は後者の色合いが濃い内容でした。
雇用統計を読むときは、見出しの雇用者数と失業率に加えて、労働参加率と過去分の改定の2つに目を通しておくと、数字の印象に振り回されにくくなります。今回のように前月分が5万7000人増から2万人増へ書き換わることもあり、発表当日の見出しだけでは景色が変わってしまうことがあるためです。
出典:
- 7月の米雇用統計 非農業部門雇用者数は2.3万人減 予想外の減少(株探)
- United States Non Farm Payrolls(Trading Economics)
- United States Unemployment Rate(Trading Economics)
- United States Labor Force Participation Rate(Trading Economics)
- 米国 平均時給(前月比)(investing.com)
- 米国 平均時給(前年比)(investing.com)
- 6日の米国市場ダイジェスト:米国株式市場は下落、対イラン協議の不透明感や早期利上げ観測が強まる(財経新聞)
- NYダウ反落、464ドル安 利益確定売りや原油高が重荷(日本経済新聞)
- 【これからの見通し】米雇用統計待ち、9月米利上げ観測を高めるかどうかをチェック(みんかぶFX)
- 【ドル/円、今夜の見通し】ドル/円、米7月雇用統計に注目!米利上げ期待と協調介入警戒(外為どっとコム)
- ドル円小動き、米雇用統計の発表を控えて=東京為替概況(みんかぶFX)
- USD/JPY(investing.com)
- トランプ大統領、利上げはウォーシュ議長だけの判断ではない(株探)
- 日経平均株価、小幅続落 終値は76円安の6万5606円(日本経済新聞)