「お母さん、ぼくだけど、事故を起こしちゃって…」。電話の向こうから聞こえるのが、本当にわが子の声そっくりだったら、落ち着いていられるでしょうか。
いまのAIは、数秒〜数十秒の録音があれば、本人によく似た声を作れるところまで来ています。最近では、イタリアの首相が自分の声を商標として出願したり、日本の裁判所が「声もパブリシティ権で守られうる」と判断したりと、「声のなりすまし」は世界中で話題になっています。
この記事では、AIで作った声を使った詐欺電話から自分と家族を守るために、今日からできる6つの備えを紹介します。
そもそも「AIの声まね」とは
**音声クローン(ボイスクローン)**と呼ばれる技術で、ある人の話し声を学ばせると、その人が言っていない文章でも、似た声で読み上げられるようになります。もともとは、病気で声を失う人のために自分の声を残したり、動画のナレーションを作ったりするための技術です。
困るのは、これが悪用されたときです。SNSに上げた動画や、留守番電話の応答メッセージ、オンライン会議の録音などから声を集め、家族や会社の上司になりすまして電話をかける手口が、海外を中心に報告されています。
ひとこと解説: 「ディープフェイク」は、AIで作った本物そっくりの偽の画像・動画・音声のことです。声だけのものは「音声ディープフェイク」とも呼ばれます。
声まね詐欺によくある3つの特徴
AIの声は年々自然になり、耳だけで見抜くのは難しくなっています。そこで「声が本物かどうか」ではなく、話の中身と流れに注目しましょう。よくある特徴は次の3つです。
- 急がせる: 「今日中に」「いますぐ」「時間がない」と、考える時間を与えない
- 秘密にさせる: 「お父さんには言わないで」「会社のほかの人には内緒で」と、相談させない
- ふだんと違うお金の動き: 知らない口座への振り込み、電子マネーのカード購入、暗号資産での支払いなどを求める
この3つがそろったら、声がどれほど本人に似ていても、いったん疑うのが基本です。
身を守る6つの備え
1. 家族で「合言葉」を決めておく
いちばん手軽で効果的なのが、家族だけが知っている合言葉です。「困ったことがあって電話するときは、最初に〇〇と言う」と決めておけば、AIが声をまねできても、合言葉までは知りません。
ポイントは、SNSや会話から推測されない言葉にすることです。ペットの名前や誕生日は、投稿から調べられてしまうことがあります。「実家の冷蔵庫に貼ってあるマグネットの柄」のような、家族の中だけの話がおすすめです。合言葉はメモに残さず、口で伝えましょう。
2. 一度切って、自分から「かけ直す」
お金の話が出たら、「確認してからかけ直すね」と言って電話を切り、自分のスマホに登録してある番号に、自分からかけ直しましょう。本人につながれば、それで一件落着です。
相手から教えられた番号にかけるのは避けてください。それが詐欺グループの番号かもしれないからです。本人と連絡がつかないときは、ほかの家族や職場など、別の人を通して確かめるのも有効です。
3. 本人しか知らない質問をする
合言葉を決めていない場合は、本人しか答えられない質問をしてみましょう。「先週の日曜、夕ご飯は何を食べた?」「おばあちゃんの家の犬の名前は?」などです。
答えに詰まったり、「そんなことより急いで!」と話をそらしたりしたら、要注意です。
4. 仕事では「電話だけで送金しない」ルールに
会社でも、**上司や取引先の声で「至急この口座に振り込んで」**という電話がかかってくる手口があります。海外では、オンライン会議の映像と声まで偽物だった事件も報じられています。
職場では、**「お金の動きは、電話や音声だけで決めない」「必ず別の手段(社内のチャットや、登録済みの番号への電話など)で確認する」**というルールを決めておくと安心です。
5. ネットに出す「自分の声」を少し意識する
AIが声をまねるには、元になる録音が必要です。SNSに声入りの動画を上げることそのものが悪いわけではありませんが、
- 公開範囲を「友だちだけ」にする
- 留守番電話の応答メッセージは、自分の声でなく電話会社の標準の音声にする
といった小さな工夫で、声を集められにくくすることはできます。完全には防げないので、1〜4の「確かめるしくみ」とセットで考えてください。
6. あやしいと思ったら、ひとりで抱えない
「だまされたかも」と思ったら、恥ずかしがらずにすぐ相談しましょう。
- 警察相談専用電話「#9110」: 犯罪かどうかわからない段階でも相談できます
- 消費者ホットライン「188」: 最寄りの消費生活センターなどにつながります
- お金を振り込んでしまった場合は、すぐに振込先の金融機関と警察に連絡してください
高齢の家族には、**「知らない番号の電話は留守番電話で受ける」**ことも勧めてみてください。録音された声を家族と一緒に聞いて確かめられますし、詐欺グループは録音を嫌うともいわれます。
家族で話すときのコツ
こうした話を親に切り出すと、「私はだまされないよ」と言われがちです。そんなときは、
- 「自分(子ども)の声がまねされて、親がだまされるのが心配」と、自分ごととして伝える
- 「AIの声は本当にそっくりで、だれでもだまされうる」と、相手を責めない言い方にする
- 合言葉を一緒に決めるイベントにしてしまう
と、受け入れてもらいやすくなります。
まとめ
AIの声まねは、もはや「声を聞けば本物かわかる」というレベルではなくなりつつあります。だからこそ大切なのは、耳で見抜こうとするより、確かめるルールを先に決めておくことです。
- 家族の合言葉を決める
- お金の話が出たら、一度切って自分からかけ直す
- 仕事でも電話だけで送金しない
この3つだけでも、多くの手口を防げます。次に家族と話すとき、5分だけ時間をとって決めてみてはいかがでしょうか。