おはようございます。9月21日(月)は、米中の高官がニューヨークでAIを含む協議を始めたというニュースから始めます。同じ週末に、トランプ大統領は「AIフォース」構想を打ち出しました。規制をめぐる綱引きが、国内・国際の両方で一気に動いた週末です。あわせて音楽AIの著作権訴訟、Anthropicの上場観測、「文章を書かないAI」という変わり種を取り上げます。
1. 米中がニューヨークで高官協議を開始 — 議題にAIの「ガードレール」
何が起きた? 現地時間9月20日(日)、米国のベッセント財務長官と中国の何立峰(か・りっぽう)副首相が、ニューヨーク・マンハッタンのJPモルガン・チェース本社で会談を始めました。米国側からはグリア通商代表も同席しています。今週ワシントンで予定されるトランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談に向けた、地ならしの位置づけです。
議題は大きく3つと報じられています。ひとつ目は、昨年11月に韓国・釜山でまとまり11月10日に期限を迎える貿易休戦(中国製品への関税を約20%に抑える取り決め)の扱い。ふたつ目は、自動車や半導体に欠かせないレアアース磁石などの重要鉱物の供給で、米政府関係者は中国側の対応が「十分ではない」という趣旨の見方を示しています。そして3つ目がAIです。
ベッセント長官は事前に、AIについて**「ガードレール」を話し合いうると述べていました。具体的には、強力なAIモデルが悪意ある非国家主体(テロ組織など)の手に渡るのを防ぐという、米中で利害が一致しやすい論点が想定されています。背景には、米国のCISA・NSA・FBIが9月上旬に出した共同勧告があります。中国拠点のAI企業6社が米国のAIモデルから大規模に出力を吸い出していた**と名指しした内容で、米中間のAIをめぐる不信が高まっていました。
なぜ重要? これまで米中のAIをめぐるやり取りは、半導体の輸出規制という「止める」話が中心でした。今回共通のリスクにどう線を引くかという「決める」話が正式な議題に入ったこと自体が変化です。ただし専門家の見方は総じて慎重で、年末まで現状維持できれば上出来という程度の期待にとどまっています。合意が出たわけではない点に注意してください。
ひとこと解説: ガードレールは、AIに「ここから先はやらせない」という歯止めを設ける仕組み全般を指す言葉です。技術的な制限(危険な質問に答えないなど)と、制度的な制限(輸出を認めないなど)の両方を含みます。
2. トランプ大統領、「AIフォース」創設と「AI皇帝」任命を表明
何が起きた? トランプ大統領は現地時間9月19日(土)、自身のSNS「Truth Social」で、**「AIフォース」**を創設し、**AI政策を統括する「AI皇帝(AI czar)」を任命する方針を明らかにしました。1期目に創設した宇宙軍(スペースフォース)になぞらえた構想だと説明しています。AIを「次の産業革命」と位置づけ、「この素晴らしい産業の成長を、いかなる形でも妨げたり抑え込んだりはしない」**という趣旨を書き込みました。
規制については、新しい法律を作るのではなく既存の刑事・民事の司法制度で「悪い」行為に対処するという考え方を示しています。一方で、AIの存亡リスクを訴える研究者の警告を「でっちあげ」と切り捨て、「ロボットが支配することはない」とも述べました。
現時点で決まっていないことのほうが多い点は押さえておく必要があります。AI皇帝が誰になるのか、AIフォースが政府のどこに置かれ、どんな予算と権限を持つのか、いつ動き出すのかはいずれも未定です。前任のAI・暗号資産担当皇帝だったデービッド・サックス氏は、特別職の任期上限に達して今年3月に退任しています。
なぜ重要? 直前まで、AI企業のトップたちが**「開発ペースを落とすべきだ」と訴え、EUも協議に乗り出していました。今回の表明は、そうした流れに対して米政府は加速側に立つという明確な意思表示です。安全側に寄る欧州と、成長優先の米国という温度差が、ルールづくりの分かれ目になりそうです。なお米下院は最近、データセンターの電力コストを抑える法案を417対3**という圧倒的多数で可決しており、議会の空気は必ずしも一枚岩ではありません。
ひとこと解説: **皇帝(czar)**は米国の政治用語で、特定分野を横断的に取りまとめる大統領直属の責任者のことです。省庁をまたぐ課題を一人の担当者に集約する狙いがありますが、正式な官職ではないため権限は任命のしかた次第という特徴があります。
3. ソニーミュージックとUMG、音楽AI「Suno」を再提訴 — ライセンス版v6も対象
何が起きた? ソニーミュージックとユニバーサル ミュージック グループ(UMG)が、音楽生成AI「Suno」の運営会社を相手取り、マサチューセッツ州の連邦地方裁判所に新たな訴えを起こしたと、現地時間9月19日にかけて報じられました。両社によるSunoへの提訴は2度目です。
争点になっているのは、Sunoが9月に公開したばかりの最新モデル**「v6」です。v6はワーナー・ミュージック、BMG、Believeとライセンス契約を結んだうえで作られた、いわば「許諾つき」のモデルとして発表されました。しかし訴状は、v6が「以前の(無断学習された)モデルの出力や、そこから得られた好みの信号」を取り込んで作られていると主張します。原告側の表現を借りれば、「侵害モデルの出力で新しいモデルを訓練しても侵害は消えない。ロンダリング(洗浄)されるだけだ」という論法です。対象となる録音は少なくとも60,202件**とされ、**最大90億ドル(日本円で1兆円規模)**の法定損害賠償に加え、YouTubeのダウンロード防止機能を回避したとされる行為にも1件あたり最大2,500ドルを求めています。
Suno側は、この主張は**「事実の面でも法律の面でも根本的に誤っている」**と反論し、v6は許諾を得たコンテンツと利用者とのやり取り、社内で得た知見をもとに学習したものだと説明しています。裁判はこれからで、どちらの言い分が通るかは決まっていません。
なぜ重要? 「無断で学習したAIは違法か」という論点は各国で争われてきましたが、今回問われているのは一歩先の話です。許諾を取り直して作り直したモデルは、過去の問題から切り離せるのか。ここに答えが出ると、音楽に限らず画像・文章・コードを含むあらゆる生成AIの「作り直し」の可否に影響します。
ひとこと解説: AIの学習で出てくる**「蒸留(じょうりゅう)」**とは、あるAIの出力をお手本にして別のAIを育てる手法です。効率よく性能を移せる反面、もとのAIに問題があると、その性質もそのまま引き継がれてしまうという指摘があり、今回の訴訟もまさにその点を突いています。
4. Anthropicの年換算売上が1,000億ドル超えの見通し — 11月の上場観測も
何が起きた? ニューヨーク・タイムズは現地時間9月18日、Claudeを開発するAnthropicの年換算売上(ARR)が2026年中に1,000億ドルを超える見通しだと報じ、ブルームバーグなどが追随しました。同社のARRは、2025年末時点で約90億ドル、2026年7月末時点で650億ドル超と伸びてきたとされます。伸びをけん引しているのは、プログラミングをはじめとする業務にClaudeを使う法人利用です。
あわせて、早ければ11月にも株式を上場(IPO)する準備を進めていると報じられています。第3四半期の決算を示せるタイミングに合わせる狙いがあるとの見方です。上場時の企業価値や調達額についてはさまざまな数字が取り沙汰されていますが、いずれも報道ベースの観測にとどまり、会社が公表したものではありません。
なぜ重要? AI企業の売上は「話題性のわりに実体が乏しい」と言われがちでしたが、法人向けの継続利用として積み上がっているという点で、性質の違う数字になっています。上場すれば決算を通じて実態が定期的に開示されることになり、業界全体の輪郭がはっきりするという意味でも節目です。一方で同社は、開発ペースをめぐる集団訴訟を抱えた状態でもあります。
ひとこと解説: **年換算売上(ARR)**は、直近の売上ペースが1年続いたと仮定して計算する数字です。実際に1年で稼いだ金額ではないため、急成長中の会社では実績より大きく見えます。読むときはこの前提を忘れないようにしたいところです。
なお、当サイトは特定の企業や銘柄の売買を勧めるものではありません。
5. 「文章を書かないAI」Jev — 元OpenAI研究者が作った"賢いif文"
何が起きた? 元OpenAIの研究者ディオゴ・アルメイダ氏が共同創業したTypeSafe AIが9月15日、文章をまったく生成しないAIモデル「Jev(ジェヴ)」を公開しました。国内では9月20日にITmediaなどが取り上げ、話題になっています。アルメイダ氏は、ChatGPTの土台になった研究「InstructGPT」の論文の共著者です。
Jevの答え方は、いわゆるチャットAIとまったく違います。返ってくるのは文章ではなく、あらかじめ決めた形式のデータだけです。用意されているのは、選択肢から1つ選ぶ、決められた範囲の数値を返す、はい/いいえを確率つきで返す、の3種類。たとえば「このメールは怒っていますか?」と聞くと、「はい・確率92%」とだけ返ってきます。同社はこれを「スマートなif文だと思ってほしい」と説明しています。速度は70〜500ミリ秒、コストは既存のAIより大幅に安いと主張しています(数値はいずれも同社の公表値で、第三者の検証は出ていません)。
想定される使い道は、問い合わせの振り分け、優先順位づけ、大量データの分類、AIエージェントの動作チェックなど。文章を書かせるのではなく、判断だけをさせる場面に絞った設計です。
なぜ重要? ここ数年のAIは「何でも文章で答える」方向に進んできましたが、実際の業務では判断だけほしい場面がかなりあります。そこに長い文章を返すAIを使うのは、速度でもコストでも割に合いません。用途ごとに道具を分けるという発想は、AIの使い方が実務に落ちてきたことの表れとも言えます。
ひとこと解説: if文はプログラムの基本で、「もし〜なら、こうする」という条件分岐のことです。これまでは条件を人が細かく書く必要がありましたが、「怒っているかどうか」のような、ルールで書きにくい判断をAIに任せられる、というのがJevの売りになります。
まとめ
週末に動いたのは、どれも**「誰がAIのルールを決めるのか」**という一本の線でつながる話でした。米中は国家同士で線を引こうとし、米国内では大統領が加速側の旗を掲げ、音楽業界は裁判所に判断を求めています。どの舞台でも結論はまだ出ていないことは、押さえておきたいところです。
実務寄りの話としては、Jevのような「判断だけをするAI」の登場が面白いところです。AIに全部を任せるのではなく、得意なところだけ切り出して任せる。派手さはありませんが、仕事にAIを組み込むときの現実的なヒントになりそうです。
出典:
- US, China open high-level talks ahead of Trump-Xi summit — Al Jazeera
- Bessent meets China Vice Premier He Lifeng ahead of Trump-Xi summit — CNBC
- US Treasury's Bessent, China's He to Launch Talks on AI, Trade, Critical Minerals — U.S. News
- China-Based Artificial Intelligence Companies Conducting Industrial-Scale Distillation Campaigns Against U.S. AI Companies — CISA
- Trump says he will create 'AI Force' with new 'AI czar' — Al Jazeera
- Trump says he's creating an AI force and appointing a czar — NBC News
- Trump says he will create 'AI Force,' appoint czar to oversee industry — UPI
- Sony Music, Universal Music Group Sue Suno Over Label-Backed Model v6 — Variety
- Sony Music and UMG say Suno's new models still violates their copyright — Engadget
- UMG, Sony Music File Second Lawsuit Against Suno Over AI Music Generator's New Model — The Hollywood Reporter
- Anthropic's Annualized Revenue to Top $100 Billion in 2026, NYT Says — Bloomberg
- Anthropic Targets November IPO as Revenue Surges — PYMNTS
- 「Jev」とは "文章を書かないAI"がなぜ話題に? 元OpenAI研究者が開発 — ITmedia AI+
- 元OpenAI研究者が手がける"文章を生成しないAI"「Jev」 選択や判定に特化して登場 — Real Sound