おはようございます。9月3日の朝は、**「AIをどう扱うかを、誰が決めるのか」**という話が続きました。裁判所に政府が意見を出し、企業は守りのためにAIを入れ、乗り物の会社は人を減らして自動運転に賭ける。それぞれ別のニュースですが、地続きに見える一日です。
1. 米司法省、OpenAI側を支持する意見書を提出 — 「AIの学習はフェアユース」
何が起きた? 9月2日(現地時間)、米司法省が、ニューヨーク・タイムズ(NYT)がOpenAIとMicrosoftを訴えている著作権訴訟に、**「利害関係の表明(statement of interest)」**と呼ばれる意見書を提出しました(ABC News、TheWrapなど)。内容は、著作物をAIの学習に使う行為はフェアユース(公正な利用)として保護されうるというものです。
意見書では、AIの学習が**「非常に変容的(transformative)」であるとし、NYT側に有利な判断を出せば科学と創作の進歩を妨げ、米国の経済にも悪影響が出る**という主張が展開されたと報じられています。科学技術の発展、経済、安全保障が理由として挙げられました。
この訴訟は、NYTが2023年に「自社の記事が無断で学習に使われた」として起こしたものです。米政府が、出版社側とAI企業側が争う一連の著作権訴訟に行政として立場を表明したのは今回が初めてとされています。
なぜ重要? 押さえておきたいのは、これは判決ではないということです。意見書はあくまで政府の見解を裁判所に伝える文書で、裁判官がそれに従う義務はありません。訴訟自体もまだ続いています。
とはいえ、影響は小さくありません。AIの学習データをめぐる争いは、世界中で数十件が同時進行していて、**「学習は許されるのか、許されるなら誰にいくら払うのか」**が決まらないまま各社がモデルを作り続けている状態です。そこに米政府が「学習は原則フェアユース寄り」という姿勢を示したことは、他の訴訟や、各国のルールづくりにも参照される可能性があります。
日本の場合は事情が少し違います。日本の著作権法には第30条の4という条文があり、情報解析のための利用は原則認められる、という形になっています。つまり日本はもともと学習に寛容な側の国です。ただし「著作権者の利益を不当に害する場合」は除外されるため、線引きの議論は日本でも終わっていません。
ひとこと解説: フェアユースとは、米国の著作権法にある考え方で、批評・研究・報道などの目的なら、許可がなくても著作物を使える場合がある、という仕組みです。日本にはこれと同じ制度はなく、代わりに「この場合はOK」と用途ごとに定めた条文が並んでいます。変容的とは、元の作品をそのまま使うのではなく、別の目的・別の意味を持つものに作り変えている、という意味の言葉です。
2. Google、「Gemini 3.8 Flash」を公開 — 6週間で3本目の軽量モデル
何が起きた? 9月2日、GoogleがGemini 3.8 Flashを公開しました(9to5Google、Artificial Analysisなど)。Flashは軽くて速く、安いことを重視した系統のモデルで、この6週間で3本目という速いペースでの更新になります。
利用できるのは、Geminiアプリ、Google検索のAIモード、Googleスプレッドシート、AI Studio、Gemini APIなど。Google AI ProとUltraの加入者が対象です。料金は12月31日までの導入価格として、入力100万トークンあたり0.75ドル、出力3.75ドルとされ、その後は倍額になる予定と報じられています。
性能面では、プログラミング作業を自動でこなす能力を測るTerminal-Bench 2.1で90.8%(3.7 Flashは81.6%)、幅広い専門分野の多段推論を測るHLE-Verifiedで54.9%などが公表されています。あわせて、セキュリティ用途に特化した3.8 Flash Cyberという派生モデルも発表されましたが、こちらはFairwindプログラムを通じた「信頼できる防御側」限定で、一般公開はされません。
なぜ重要? ここで面白いのは、「小さいモデルが、大きいモデルの仕事を取り始めている」ことです。従来、複雑な作業は高価な大型モデルの担当でしたが、Flashのような軽量モデルが何度も考え直し、道具を繰り返し呼び出すやり方で、そこに追いついてきています。使う側にとっては、同じことがより安くできる方向の変化です。
いっぽうで、価格が「12月31日まで」の導入価格である点は覚えておいて損はありません。AIの料金は下がり続けるとは限らず、時期によって上下します。仕事で継続的に使う予定があるなら、期限つきの安さを前提に計画を立てないほうが安全です。
なお、セキュリティ特化版を審査つきで限定提供するという形は、昨日のAnthropicやOpenAIの発表とまったく同じ考え方です。強い能力ほど配り先を絞るというやり方が、業界の標準になりつつあります。
ひとこと解説: ベンチマークとは、AIの実力を測るための共通テストです。ただし試験の点が高いことと、自分の仕事で役に立つことは別なので、数字は目安として受け取るのが安全です。
3. NEC、Anthropicの「Project Glasswing」に参加 — Claude Mythosを自社の脆弱性対策に
何が起きた? 9月2日、NECが、Anthropicとサイバーセキュリティ分野の協業を加速すると発表しました(NECプレスリリース)。NECは、Anthropicが主導する**「Project Glasswing」**——世界の重要ソフトウェアの安全性を高めることを目的とした、200社以上が参加する取り組み——に参加します。
具体的には、審査を通った利用者だけが使える上位モデル**Claude Mythos(プレビュー版)**を、NEC社内のIT システムの脆弱性管理に実際に使う、という内容です。Mythosが持つソフトウェア解析の能力と、NECが重要インフラの構築で積み上げてきた知見を組み合わせ、弱点の早期発見と、対策作業の自動化・効率化を目指すとしています。そこで得た経験を、AI時代のセキュリティ設計やガバナンスづくりに生かす、とも説明されています。
NECとAnthropicは今年4月にも戦略協業を発表しており、その際は「Claude Code」をグループ3万人に展開する、という話が中心でした。今回はそこから一歩進んで、より強力なモデルを守りの実務に入れる段階に移った形です。
なぜ重要? 昨日、OpenAIが「Astraはサイバー能力が危険水準に達した」と発表したばかりです。攻める力が上がったなら、守る側も同じ道具を持たないと釣り合わない——今回のニュースは、その現実的な対応がすでに日本企業でも始まっていることを示しています。
もう一点、注目したいのは**「まず自社で使う」**という順番です。顧客に売る前に、自分たちのシステムで試す。セキュリティのように失敗の代償が大きい分野では、この順番自体が信頼のつくり方になります。
一般の利用者に直接関係する話ではありませんが、銀行や通信、行政システムなど、私たちが毎日使う仕組みの守りが強くなるという意味では、遠いところで効いてくるニュースです。
ひとこと解説: 脆弱性管理とは、自社が使っているソフトに弱点がないかを調べ、危険度を判断し、優先順位をつけて直していく一連の作業のことです。地味ですが量が多く、人手が足りない代表格として長く課題になってきました。
4. Uber、3,300人(約1割)を削減 — 自動運転への転換を明言
何が起きた? 9月2日、Uberが全世界で約3,300人、従業員のおよそ10%を削減すると発表しました(Reuters、Quartzなど)。同社にとって、2020年のコロナ禍以来最大の人員削減にあたります。
会社側の説明では、目的は組織の階層を減らし、意思決定を速くすることで、業績悪化への対応ではないとされています。削減で浮いた資金は、配車・配達と、将来の移動手段に振り向けるとのこと。Uberはロボタクシー(自動運転タクシー)関連に100億ドル超を投じると表明しており、Avride、Lucid、Nuro、Rivianといった企業への出資も進めています。
なぜ重要? このニュースは「AIが人の仕事を奪った」という単純な話ではありません。減らされたのは主に管理職の層で、運転手ではないからです。それでも重要なのは、会社が資金の使い道を、人から技術へ振り替えると公言した点にあります。
AIによる雇用の変化は、ロボットが席に座るという形ではなく、こういう予算配分の変更として先に現れます。「今いる人を機械に置き換える」のではなく、「次に増やすはずだった人を増やさず、そのお金を技術に回す」。表からは見えにくいぶん、じわじわと効いてくるタイプの変化です。
日本でも、タクシーやバスの運転手不足を背景に自動運転の実証が各地で進んでいます。技術が入ってくる速さより、働く人の移り先が用意される速さのほうが問題になる——今回の発表は、その論点を先取りしている面があります。
ひとこと解説: ロボタクシーとは、運転手が乗っていない自動運転のタクシーのことです。米国や中国の一部都市ではすでに営業運行が始まっていますが、走れる範囲や天候の条件は限られており、どこでも使える段階ではありません。
5. Perplexity、Mac向け「ハイブリッドコンピュート」 — 機密はパソコンの中で処理
何が起きた? 9月1日、検索AIのPerplexityが、Mac向けアプリにハイブリッドコンピュートという機能を追加しました(Perplexity公式、Engadget、9to5Macなど)。
仕組みはこうです。ひとつの作業を、クラウド上の高性能モデルと、Macの中で動く小さなモデルで分担します。調べもの・計画・複雑な推論はクラウドが担当し、個人のファイルや機密情報の処理は手元のMacが担当する。作業中に、名前・メールアドレス・口座番号といった個人情報らしきものをパソコン側の判定器が見つけると、その場で確認を求めてくるのが特徴です。選べるのは、その部分だけ手元で処理する/情報を伏せて送る/そのままクラウドに送るの3つです。
対象はPerplexityのPro・Max・法人契約者で、Appleシリコン搭載Mac、macOS 15以降、メモリ24GB以上が条件。手元で動くモデルとしてGemma 4 E4Bなど3種類が用意されています。個人情報を検出する判定器はオープンソースとして公開されたとのことです。
なぜ重要? AIを仕事で使うときの最大の悩みは、たいてい性能ではなく**「これ、送っていい情報だっけ?」**です。多くの会社が、その一点で導入をためらってきました。
今回の設計が面白いのは、利用者に選ばせているところです。全部クラウドか、全部手元か、という二択ではなく、危なそうな部分だけ手元に残す。しかも判断の材料をその場で見せてくれる。使う側が中身を理解したうえで決められる形になっています。
とはいえ、万能ではありません。判定器が見落とす可能性はありますし、そこそこ高性能なMacが必要です。それでも、「速さ」や「賢さ」ではなく**「どこで処理されるか」を売りにするAI製品**が出てきたことは、市場の関心が移ってきた証拠と言えそうです。
ひとこと解説: オンデバイス処理とは、データを外部のサーバーに送らず、手元の機器の中だけで計算することです。情報が外に出ないぶん安心ですが、機器の性能に限界があるため、大きな処理は苦手という弱点があります。
まとめ
今日の5本を並べると、AIをめぐる主導権が、それぞれ違う場所で決まっていく様子が見えてきます。学習データのルールは裁判所と政府が、モデルの配り方は開発企業が、そして「どこまで手元に置くか」は最後に使う私たちが決める。
なかでも1本目は、当面いちばん影響が長引くテーマかもしれません。学習データの扱いが決まらないうちは、記事を書く人も絵を描く人も、自分の作品がどう扱われるのかを知らないまま過ごすことになります。今回の意見書はその答えではありませんが、議論がどこへ向かっているかを示す一つの手がかりです。
そして5本目は、その大きな話を、いちばん身近な形に翻訳してくれています。何を渡して、何を渡さないか。ルールが固まるのを待つあいだ、私たちにできるのはそこを選ぶことです。
出典:
- Trump administration backs OpenAI in New York Times' copyright case over training of chatbots — ABC News
- Trump Administration Backs OpenAI in New York Times Copyright Fight — TheWrap
- Gemini 3.8 Flash rolling out three weeks after last release — 9to5Google
- Google has released Gemini 3.8 Flash, its fourth Flash model in under four months — Artificial Analysis
- NECとAnthropic、フロンティアAIを活用したサイバーセキュリティ強化で協業を加速 — NEC(公式)
- Uber to cut 3,300 jobs in overhaul targeting "autonomous future" — Yahoo Finance
- Uber cutting 3,300 jobs in company-wide restructuring — Quartz
- Introducing Hybrid Compute on Mac — Perplexity(公式)
- Perplexity's Hybrid Compute splits sensitive tasks between cloud and local AI — Engadget