おはようございます。日曜の今日は、**「AIの材料」と「AIの供給元」**をめぐる話題が並びました。学習に使われた歌詞をめぐって大手音楽出版社が訴訟を起こし、いっぽうでOpenAIは、競合の傘下に入った取引先へのモデル提供を打ち切ると発表しています。あわせて、日本の身近なサービスに入ってくるAIエージェントの試作品と、写真編集がぐっと簡単になる新モードもご紹介します。
1. ソニーとワーナー・チャペル、歌詞の学習めぐりAnthropicを提訴
何が起きた? 8月28日、音楽出版大手のソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペル・ミュージックなどが、AI企業Anthropicと同社の経営幹部を相手取り、米カリフォルニア州北部連邦地裁に著作権侵害の訴訟を起こしました。TechCrunch、Engadget、Music Business Worldwideなどが報じています。
訴状の主張によると、Anthropicは海賊版の書籍・楽曲ライブラリから作品を入手し、歌詞掲載サイトを機械的に収集(スクレイピング)し、紙の楽譜集をデジタル化したうえで、著作権表示を取り除いてAI「Claude」の学習に使ったとされています。さらに、学習のさせ方が歌詞の丸暗記を促す形になっており、利用者に対して歌詞をほぼそのまま出力していた、とも主張しています。対象は「数万曲」規模で、賠償は1作品あたり最大15万ドル、著作権表示の削除1件あたり2万5,000ドルを求めています。
なお、これらはあくまで**原告側の主張(訴状ベース)**であり、事実として認定されたものではありません。本稿執筆時点でAnthropic側の詳しい反論は確認できていません。
なぜ重要? これで世界3大音楽グループの出版部門すべてがAnthropicと係争中になりました。ユニバーサル系は2023年にすでに提訴しています。AIの学習データをめぐる争いは、これまで書籍・報道記事が中心でしたが、音楽という別の大きな権利の集まりに広がった形です。判決の中身次第では、AIが歌詞を扱えるかどうか、そして学習データの入手方法にどこまで説明責任が求められるかが変わってきます。
ひとこと解説: スクレイピングとは、ウェブサイトの中身をプログラムで自動的に集めてくることです。技術としてはありふれていますが、集めた先が有料・許諾制のコンテンツだった場合、利用規約や著作権との関係が問題になります。
2. OpenAI、Cursorへのモデル提供を11月12日で打ち切りへ — 買収したのはSpaceX
何が起きた? 8月29日、OpenAIが、AIコーディングツールCursor(カーソル)へのモデル提供を11月12日で終えると発表しました(CNBCなど)。理由は、Cursorの開発元Anysphereが、イーロン・マスク氏率いるSpaceXに600億ドル規模の全株式交換で買収され、8月に取引が完了したことです。
OpenAIは、「SpaceXが当社の利用規約の範囲内で技術を使うと確信できない」とし、その根拠として、マスク氏の傘下企業が過去に契約違反をした経験を挙げています。契約には支配権の移動(買収)があった場合に解約できる期間が定められており、OpenAIは8月28日に通知したうえで、「認められる範囲でもっとも遅い日付」を打ち切り日にしたと説明しています。
Cursor側のCEOは、OpenAIのモデルは同社の利用トラフィックの**約5%**にとどまり、Anthropic・Google・Grokの各モデルは引き続き使えると述べています。
なぜ重要? AIの世界では、道具を作る会社がモデルを外部から仕入れて成り立っていることが少なくありません。今回はその仕入れ元が、資本関係を理由に供給を止めたケースです。使う側から見れば、「今日使っているAIツールの裏側が、来月には変わっているかもしれない」という現実味のある話になります。特定のモデルに依存しないつくりが、ツール選びの基準として重みを増しそうです。
ひとこと解説: チェンジ・オブ・コントロール条項とは、契約相手が買収などで支配者を変えた場合に、契約を解除できるようにしておく取り決めです。企業間の取引ではごく一般的なもので、今回はそれが行使された形になります。
3. LINEヤフー、AIエージェント「Agent i」の試作品8種を公開
何が起きた? 8月28日、LINEヤフーが、AIエージェントブランド**「Agent i(エージェント アイ)」の先行体験会を開き、開発中の試作品8種類**を公開しました(AI Watch、マイナビニュースなど)。
内容は、カレンダー、トークやアルバムの動画化、ウェブ操作のガイド、スクリーンショットの整理、目覚まし、ショート動画作成、情報の自動追跡、ペットの暮らしの8つ。同社によると、4月の発表時に7領域だったエージェントは8月に27領域まで広がっており、10月までに累計40、あわせて単独アプリのリリースも予定しているとしています。
なぜ重要? AIエージェントの話題は海外の大企業に偏りがちですが、これはLINEやYahoo!という、日本で日常的に使われているサービスの中に入ってくる話です。「スマホに溜まったスクショを勝手に整理してくれる」「LINEのアルバムが動画になる」といった機能は、専門知識がなくても効果が想像しやすいところです。
ひとこと解説: AIエージェントは、質問に答えるだけでなく、手順を分けて自分で作業を進めるAIを指します。「予定を調べて登録する」のように、複数の操作をまたいで動くのが特徴です。
4. Photoshopに初心者向けの「AIアシストエディター」ベータ版
何が起きた? 8月28日、アドビがPhotoshopのアップデートを発表し、**「AIアシストエディター」**をベータ版として提供し始めました(Impress DC Watchなど)。
これは、従来の「プロエディター」とは別に用意された新しい作業モードで、言葉で指示するだけで編集ができるように設計されています。背景の削除、写真の外側を描き足す生成拡張、写り込んだ不要なものの除去、生成塗りつぶし、生成による高解像度化などが含まれます。2つのモードはいつでも切り替えられます。同時に、非破壊で色を調整できる**「色調補正パネル:ライト」**も追加されました。
なぜ重要? Photoshopは「高機能だけど難しい」の代名詞のようなソフトでした。そこに初心者向けの入口が公式に用意されたことになります。専門ツールが、AIによって同じ製品の中に易しいモードを持つという流れは、ほかのソフトにも広がりそうです。
ひとこと解説: 非破壊編集とは、元の画像データを書き換えずに調整を重ねる方式です。あとから設定だけを戻したり変えたりできるため、やり直しがきくのが利点です。
5. a16z、AIの「物理側」に投資する11億ドルのファンドを設立
何が起きた? 8月28日、米ベンチャーキャピタルの**Andreessen Horowitz(a16z)が、11億ドル規模の新ファンド「Machine Age Fund」**を立ち上げたとTechCrunchが報じました。投資先として想定しているのは、半導体、メモリ、ネットワーク機器、ロボットといった、AIを支える物理的なインフラです。
なぜ重要? ここ数年の投資はソフトウェア中心でしたが、AIが動くには電力・冷却・チップ・工場といった現実の設備が要ります。今週は、DRAM大手の輸出規制をめぐる訴訟や、AMDによるロボット向け製品の披露も伝わりました。**「AIの話が、だんだん重たいものの話になってきている」**というのが、いまの流れです。
ひとこと解説: フィジカルAIとは、画面の中だけで完結せず、ロボットや機械のように体を持って現実世界で動くAIを指す言い方です。中国勢を中心に競争が激しくなっている分野です。
まとめ
今日並んだ5本を通して見ると、話の中心は**「AIをどこから調達するか」**に寄っていました。学習データの調達(1)、モデルの調達(2)、そして計算資源や部品の調達(5)です。使う側からは見えにくい部分ですが、ここが揺れると、手元のサービスの中身は静かに変わります。
いっぽうで、日常の道具としてのAIも着実に進んでいます。スマホの中を片づけるエージェント(3)や、難しかったソフトに用意された易しい入口(4)は、その分かりやすい例です。
なお、開発者向けの話題をひとつ。Anthropicは、9月14日からClaude Codeの週あたり利用上限を25%引き上げると発表しました。ただしこれは一時的に上乗せされていた分が戻ったうえでの調整で、現在の水準と比べると実質的には下がる、という指摘も出ています(Techmeme経由の報道)。利用上限の話は使い勝手に直結するので、日々使っている方は前提を確認しておくとよさそうです。
出典:
- Sony Music, Warner sue Anthropic, alleging a "brazen campaign" of intellectual property theft — TechCrunch
- Now, Sony Music Publishing and Warner Chappell sue Anthropic in multi-billion dollar lawsuit — Music Business Worldwide
- Sony and Warner sue Anthropic for 'blatant violation' of copyright law — Engadget
- OpenAI to end model access to Cursor after acquisition by Elon Musk's SpaceX — CNBC
- LINEヤフー、AIエージェント「Agent i」生活を豊かにしてくれる最新プロトタイプを公開 — AI Watch
- Yahoo!全サービスへの「Agent i」導入を急速推進中 — マイナビニュース
- Photoshopに非破壊の「色調補正パネル:ライト」が実装 AI機能をまとめた「AIアシストエディター」もベータ提供 — デジカメ Watch
- アドビ、Photoshopの新機能を発表「AI アシストエディター」β版ほか — AI Watch
- a16z creates a $1.1B 'Machine Age Fund' to accelerate the physical buildout of AI — TechCrunch
- Anthropic、Claude Codeの週次上限引き上げ(9月14日から) — Techmeme